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第十八話_Bullying

「(おかしい)」

「ここの魔式ってどうやって組み立てるんだ?」
「……」
「おーい、フィレイ?」
「えっ!?何?」
「話聞いてたか?ここ、どうやるのかなって」
「え、えぇ、ここね。ここは…」

「(どう考えてもぼーっとしすぎてる。不自然だ。)」

そう思い、改めてフィレイを見る。

「な、なに」
「どうしたんだ?さっきから挙動不審で。さっき女子に呼び出された後からだったよな」
「なっ、なんでもないなんでもない!気にしないで」
「……何かあったらすぐ言えよ」
「…。うん、ありがとう」

そう言うと、フィレイの頬の色が少し戻った気がする。

「さて、次の授業で午前は終わりだな!早く昼めし食いたい!」
「そうね。私もお腹すいちゃった」

明るく振る舞う、より明るく。
そうすれば、彼女が少しでも笑顔になるから。
それが間違いだと気づかないで、雅は明るく振る舞う。



ーーー魔法学校ー中庭周辺ーーー
「さて…」
「(先に帰っててって言われたけど、一応ついてきちゃった)」

「(みんなも想像してほしい、最初から有り得ないことだが、一緒に住んでいる兄弟ではない同級生の美少女がいたとする。その女子が、放課後自分に先に帰ってと言っておいてそのまま別々の道を行く。
君らだったら絶対、見に行くよな。俺もその一人だ。
彼氏とかいるんだろうなぁ。さぞかしイケメンの…。ちっ)」

そう思いながら中庭を抜け、角を曲がろうとしたら気配がしたので雅はそっと覗く。



ーーー魔法学校ーフィレイ・女4人視点ーーー

「はぁ…」
「(言えるわけないよ。だって…)」
「来た来た。没落貴族様」
「勿論、あの男にはばれてないでしょうね?」
「う、うん…」

この4人組はそれぞれ第3貴族だ。
ここまで言えばあとはわかるだろう。
この事をばらしたら親の権限で追いつめてやると、そう言われたのだ。
だから、雅にも言えないし。ゲンにだって勿論言えないのだ。

「ねぇ」
「な…っ」
頬を叩かれる。
「あんた生意気なのよ、第5貴族のくせにあちこちで男侍らせてさ、しかも朝から男子と登校とかなめてんの?喧嘩売ってんでしょ。まじ無理」
「あの人は…、私の大切な人よ」
「は?何?やっぱ喧嘩売ってんじゃん」
「違う、私のことはいくら言っても構わないから、あの人だけは…お願い」
「ごめんむり。いやだって大してイケメンでもないあんな奴となんで一緒にいるわけ?はっ、まさか自分はイケメンだけ見てるわけじゃありませんアピール?超うざいんですけど。あのブサメンもかわい……」
そこまで言葉を発したところで胸倉を掴まれ、彼女は壁際まで押しやられる。

女の子の力とは思えないほど強かった。

「やめてって。言ってるじゃない!!!」

その眼には殺気以外何もなかった。
今まで彼女はフィレイのこういった姿など見たことがなかった。

クローズワールドから来たにもかかわらず、
いつも明るく穏やかで才色兼備な彼女しか見たことがなかった。
そのせいで、いつもこの4人は彼女を恐れていた。

一人でなんでも手に入れてしまう、彼女が。

その彼女が現在、怒りを形に変えて自分たちにぶつけてくる。
それによって、4人は改めて感じた。
フィレイも人間なんだと。
いじめれば悲しむし、彼女の好きな人のことを悪く言えば怒る。

だが、
「……なによ、ふざけないでよ!!調子に乗るな!!この異端者が!」
一人の女がフィレイの髪を掴んではがす。
「ぐっ、いたっ。痛い痛い!助けて!!」
「今この場所にいるのは私たちだけよ!それに隠蔽の魔法も使ってるからね!!」

確かに彼女は人間だ、だがそれがどうした?
結局は自分たちの周りで媚びを売って楽しく過ごすだけだ。
そこに自分たちの姿はない。自分たちはそれを陰で見守ったり、盛り上げるモブキャラだ。

その考えに4人とも至り、フィレイに向かって手のひらを後ろに振りかぶる。
「っ!!」
フィレイが目をつぶる。
だが、その手が振り下ろされることはなかった。
フィレイが目を開けると
目の前で振りかぶった女が顔を真っ青にして脂汗をたらしていた。

ーーー魔法学校ー雅視点ーーー

「…っ!?」
しばらく様子を見ていたとき、
フィレイが女の胸倉を掴んで壁に押しやった。

「やめてって。言ってるじゃない!!」

フィレイの声が聞こえる。
「(何があったんだ?)」

雅がすぐに入れないのには理由があった。
一番の理由はフィレイの階級の低いことだ、この学校は平民も通っているがほとんどが貴族でこの女4人も貴族である可能性が高いので、権力に物を言わせてることがあるかもしれない。無闇勝手に飛び出して後々立場が悪くなるのは当然雅側だ。
こういう場合は状況証拠を取るに限る。
できればカメラ、録音機など欲しかったところだがスマホも持っておらず、今すぐにでも助けてやりたいところだが、あまり過激なところを雅は見ていないのではぐらかされる可能性がある。
それは、雅にとってかなり不利だ。
だが

「(あいつら…今までフィレイをいじめてたのか…許せねぇ)」

雅の心は怒りに満ちていた。
ばれてはいけないと思い、必死に殺気を隠す。

その時、

「ぐっ、いたっ。痛い痛い!助けて!!」
フィレイが髪を掴まれ今にも叩かれそうだ。

「(やっぱ無理だ)」
雅はその4人に向けて思いっきり殺気を放つ。

その瞬間4人は生まれたての小鹿の足のように足をぷるぷると震わせ失禁していた。
「(少し、申し訳ないが)」
これくらいの罪を犯そうとしたんだからお相子だろう。そう思ったが、このままでは話ができないので少し緩めた。

すると4人は一斉に尻餅をつき、フィレイはこちらに駆けてくる。
「ミヤビ!?どうして…」
走ってくるフィレイを抱きしめる。
「ごめん、無責任だった」
「え…?」
フィレイは何のことを言ってるのか分からなかったが、無視して4人の方を向く。

「おい」
「ひっ」
一人の顔をみる。
「お前、どうしてフィレイにあんな事した?」
「い、言うわけないじゃん。あんたみ、ひっ!!」
殺気を一層込めて力強く言い直す。
「言え」
「……だ、だって、いやだったから。あの女がなんでもできて綺麗でみんなに愛されて。そ、それがうざかったの!!全部計算して、演技してるんじゃないのって思ったのよ!!」

「ほう…。それで、お前らはフィレイがなんの計算もなくいたって普通に人と接し、運動をして、勉強をしているという可能性は微塵も考えなかったわけだな」
「あ、あれのどこが計算じゃないっていうのよ!!どうせ、自分が持ってる才能に溺れて自分中心に世界が回ってると…お…もって…」
「(こいつもか)」

才能

才能

才能

この言葉は雅が最も嫌う言葉だ。
特に努力してないやつが使う時が一番反吐が出る思いだった。

顎を乱暴につかむ

「才能ってなんだ」
「…え」
「才能ってなんだってきいてんだよ」
「……」
答えない

「いいか、よく聞け。人は、生き物は皆平等じゃないんだよ!才能という言葉に溺れていたのはお前の方なんだよ!この糞餓鬼が!!」
「ひっ……」
また漏らす。

「いいか?才能っていうのはな!自分の向いている道を見つけ、それに向かって努力することなんだよ!!結果じゃない!!
才能は努力なんだよ!初めから才能なんてものがあるんじゃない!
それは一種のステータスだ!
お前らはそうやってすぐに自分のやりたかったこと、なりたかったことに届かなくてほかの人がその目標に届いた瞬間、すぐ、才能才能騒ぎ立てる。あの人は才能があったから、自分には才能がないから。
なんて無責任に騒ぎ立てるんだよ。そいつの努力も知らずにな!いいか!?道は一つじゃないんだよ!俺は魔力が馬鹿みたいにあるからそのうち必ず才能って言葉がでるけどな、魔力が少ないやつにだって才能があるんだよ!努力する才能が!なぜその道を選ばずにこちらに来たんだよ。
来たのなら努力をしろよ。ふざけんなよ。勝手に自己完結すんな。自分の可能性を疑うなよ」

「「「「………」」」」
4人とも静かに雅の話を聞いている。
殺気がなくなった分聞きやすくなったのだ。
「あー、要するにだな」
「努力もしねー奴にどうこう言われる筋合いはねーってこった。たとえ努力をしてそれでも届かないとしても、しっかりと相手のことを応援してやるんだよ。嫉妬は人間の業だと俺は思ってる。だからさ、自分の可能性を潰さないでくれ。絶対に自分に合ってるものがあるはずだから。
才能に嫉妬してるやつは嫉妬の分だけ離れていくぞ。それだけだ。そうだ、お前ら何貴族だ」
「……第3貴族」
「じゃあ、やっぱ権力で脅してたってわけか」
「(そりゃ、フィレイも言えないわけだ。どうせ、親に言って圧力かけるぞとか言ったんだろう)」
「あ、あの」
「じゃーな、二度とこんなことすんなよ。屑ども」
「(這い上がってこい。そうすれば、人間として見てやる)」

そう言って4人の間を抜け、フィレイの元へ戻る。
そして抱きしめる。
「もう、大丈夫だ。ごめんな、気づいてやれなくて」
「(まぁ、学校通うのが2日目だから気づけなくて普通だけど)」
「ううん、大丈夫。だって私の様子が変なのを、雅気づいてくれてたじゃん。それで後をつけたんでしょ?」
「ま、まぁな」
「(彼氏がいるかもしれないって思ったなんて言えないよなぁ)」
「さて、帰るか」
「うん、本当にありがとう」
「…どういたしまして」

その時のフィレイの笑顔は夕日に負けないくらい綺麗で今までで一番輝いていた。

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