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『不倫は甘い果実』

「ツギクル……アナリティクスにアクセス。
……接続完了。」

「で……次は、アクティブユーザーを確認して、
ニューロンチェッキングプログラムを
実行すればいいのね。」

「うん、いい感じ。じゃあ、イクわよ……。
サイレン! Ignition! Activated!」

「はい、これで起動完了よ。
って……なによ、その『お前は誰だって』顔は。
はぁぁ、だから嫌だったのよ……Puzzlerの相手するの。」

「はいはい……分かったわよ、自己紹介すればいいんでしょ?
アタシは謎解きアプリ『S:I:R:E:N』の
支援ユニット、蓮:02+よ。」

「いっとくけど、アタシは美琴みたいに、
Puzzlerと仲良くするつもりないから……妙な期待しないでよね。」

「んっ? ニューロンチェッキングプログラムが、
批判的心情と拒否の気持ちを検出?」

「ふーん、アンタって分かりやすいのね。
でも、嫌ってくれてけっこう。
アタシはただ、淡々と謎を出すだけの存在であって、
アンタの機嫌をとるつもりは、さらさらないんだから。」

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Title:『不倫は甘い果実』

「ねぇ、あなた……浮気をしてるって本当?」

「はぁ? 急に何を言い出すんだ」

「実は……探偵を雇って、
 あなたのことを調べてもらったの」

「おいおい、言いがかりはやめてくれ。
 こっちは日付が変わるまで仕事をして、
 クタクタなんだぞ……」
決算期末の多忙を極める時期。
経理の仕事に追われながら慌しく帰宅すると、
探偵と名乗るくたびれた男を従えた妻が、
眼をかっぴらいて俺の腕を掴んだ。

「なぁ、探偵さん……俺は潔白だ。
 毎日、会議や接待で遅くなっているだけなんだ。
 そりゃあ、昔は派手な遊びもした。
 だが、今は妻を愛してる……誓ってもいい」
愛梨に純子、香奈枝にジュリアン。
新卒採用した部下や取引先の秘書、
スナックのママや外国人ホステスと
禁断の恋愛に溺れた過去は認めよう。

妻と別れて欲しいと懇願した者や、
不倫していることを密告すると脅した者もいた。
しかし、すべては過ぎ去った話だ。

俺は堂々と探偵を見据え、
妻の手をそっとほどいた。

「あんたもプロなら、
 不倫しているかどうかぐらい
 すぐに分かるだろう?」

「ええ……自分も、
 旦那さんは不倫してないって
 報告したんですがね」

「は? じゃあ、どうして妻は、
 こんなに取り乱しているんだ?」

話が噛み合わない。
俺は狐につままれたような気分になりながら、
探偵と妻の顔を交互に見つめた。
すると、妻が数枚の写真をテーブルに叩きつけた。

「とぼけないで! だったら、これはなによ!
 スーツの女と金髪の女を連れて、
 さぞ楽しい出張だったんでしょうね!」

「スーツの女と……金髪?
 いったい、お前は何を言ってるんだ……」

写真は出張先のホテルで、
チェックインの手続きをしている俺の写真だった。
が――女の姿など、どこにもない。

「こっちもそうよ! 和服の女とバーにいる写真!
 それから、これは大学生みたいな女と本屋に!」

「どっちも、俺しか……映ってないぞ。
 探偵さんには、見えるのか……?」

「いえ、自分にもさっぱり。
 でもね……探偵の勘が、
 ピピーンと教えてくれたわけです。
 違和感の正体と……解決方法をね」

「ああ、俺も理解したよ……。
 だから、あんたを雇う。
 まず、最初の依頼は……そうだな、
 腕利きの除霊師を探してくれ。
 それから、残りのふたつは分かるな?」

「へい、毎度あり……」

探偵は笑顔で両手を擦り合せると、
手早く写真を片付け、妻にお辞儀をした。

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「これで出題完了よ。
へぇ……けっこう正解者がいるじゃない。
でも、今回の謎は簡単だったし当然の結果ね。」

「じゃ、謎解きバトルモードを終了して、
『S:I:R:E:N』フェーズ20に移行するわよ……。
って、なによ……その不満たっぷりの顔は。」

「ああ、アタシの態度が気に食わないわけ?
だけど、お生憎様。
優希や沙麗那みたいな旧式ユニットと違って、
最新式のアタシには無駄なお愛想機能がついてないの。
だから……つべこべ言わずに、
次の謎も、さっさと解きなさいよね!」

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