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第五話、こんなものじゃないと

「では、次はこれだな」
目の前に出されたのはパンチングマシーンのような機械だった。

「あの…これなんすか?」
「これは最新型腕力測定器でお前の力がどのくらいあるのかを見ることができる。殴ってみてくれ」
「はぁ…。わかりました。……ちらっ」
近くを見る。
すると、フィレイ、スミル、クレハがこちらを期待した目で見ている。
「(かっこいいところを見せなければ!!
ここは一人の男として男らしいところを見せてやるよ!)」

辺りが静かになる。

「すぅーーーっ」

「はぁっ!!」

気合を込めて一気に的を射抜く。
「……ふぅ…」
我ながら素晴らしい出来だと思う。

「えー、結果だが…」
「ワクワク」
「270kg…まあ、武道を嗜んでいる奴の平均より少し上くらいか。まあ、普通だな」
「うぐっ」

一斉に周りから「なんだ…そんくらいか」「期待してたんだけど」「こっちで光魔法の練習しようぜー」などと、俺に聞こえるくらいの声で話している。
「(……泣きたい。なんやねん貴様ら。)」

「だっ、大丈夫ですよ!ミヤビ様!魔法適正値があんなに高かったんですよ!!武道ができなくても全然いけます!!」
俯いている俺にスミルが声をかけてくれる。
「……ありがとう」
顔を上げて大丈夫だと、にかっと笑って見せる。それを見てスミルは顔を赤く染めて
「い、いえいえ!!だだっ大丈夫です!!」
その挙動不審な反応を見て俺はさらに微笑み、そしてスミルは一層赤くなる。
「(なんか、妹ができたみたいだな)」
俺は姉しかいないのでこういう存在もいいなと思った。
そして頭の片隅で
「(これってもしかして俺の事意識してないか?期待していいのか?いいのか!?」
などと、思春期真っ只中の考えが行ったり来たりしていた。

「あーぁ、試合のほうが得意なんだけどなぁ…」
ぶつぶつと低い声で呟き、水を飲みに行くため水道(?)らしき場所へ向かう。
「おい、オオオカ。まだ近接戦闘の実技は終わってないぞ」
「…え?そうなんすか?」
「ああ、ちなみに、なんで武道が魔法がある世界で使われているか分かるか?」
「……えーっと。恐らく、何らかの理由で魔法が使えないから近接戦闘、肉体で戦う事が多い場面もある…という事ですか?」
「うむ、そうだ。実際に魔法を使えなくする術式は確かに存在する。そういった場合、魔術師、魔導士、魔法技師、その他諸々の職は近接戦闘をする」
「(あれ、俺の想像してた魔導士のイメージと何かが違う…)」


「一つ、いいですか?」
「なんだ」
「あの…。それって魔法を先に封じた方の勝利じゃないですか?
だって、自分は遠距離からチクチク攻撃できて向こうは対抗手段が腕の長さなんですよ?」
「まぁ、普通はそう考えるよな。でもな魔法を封じるといっても封じることのできる魔法は『攻撃魔法』だけなんだ。現状はな」
話を整理する。

「……つまり、防御魔法は使えるっていう事ですか?」
「正確には、補助魔法も使える。まぁ、補助魔法は一回に消費するMPが大きいからあまり使わないけどな」
「なるほど」
補助魔法については後でフィレイに聞こう。
「話を戻すが、これからお前にはこれから表示されるリストの中から武器を選んでもらって俺と戦ってもらう」
「ええっ!?戦うんですか?ここで!?手当ができる人を呼んだ方がいいんじゃ…」
「救護室の先生はいらん。これがあるからな」
そういって先生は腕にはめたリストバンド型の機会を見せてくれた。

「…なんです?これ」
「これはフリーフィールド構築装置だ。これがあればこの場所に色んな設定をしたフィールドを展開できる。しかも、仮想空間だからいくら傷つけても痛みはないから問題ない。これを所持できるのは帝都貢献勲章を貰った教師のみだ」
「へー、これって魔術の技術で作られたんですか?」
「いや、これは科学技術だ。さて、お前らで見たいやついるか?」
そうすると、フィレイ、クレハ、スミル、その他数名の生徒が手を上げる。
ほとんどの生徒は別の場所へ移動してしまった。

…まぁ、そうだよな、さっきのパンチングマシーンでがっかりさせたからか。
「(いやでも、あそこまで嫌わなくてもいいだろ普通)」
ここまで鮮明に態度を見せられるとむしろすがすがしくなってくる。
「(……やってやろうじゃないか。)」
密かに一矢報いてやろうと誓った雅だった。

「フィールド、オープン」
先生がそのように口にすると、あたりが暗くなり、そしてその暗闇が一瞬で無くなり、森林に立っていた。
「すげぇ…」
「ふふん、そうだろう。ちなみに、観客はリアルタイムであの観客席から見ることができる。
一応、体育館にも液晶スクリーンはあるからそっちにも映してる」
「(ええ、失敗したら超恥ずかしいじゃん)」
「さあ、好きな武器を選んでくれ」
すると雅の胸元辺りに画面が表示される。
「(うお、ハイテク!)」
「うーん。どうしようかなぁ」
この森林ステージはかなり森が生い茂っている。となるとリーチのある武器は不利。
機動力を確保したいから今あるリストの武器の中では
・短剣(1本か2本)
・双剣
・トンファー
・ナックル
・鉤爪
・銃のような物
「あの、これなんですか?」
「ん?これはだな、お前のいた世界ではジュウと呼んでいたな。これはゼウと呼ばれるものでトリガーを弾くと魔力弾が発射されて命中すればそれなりにダメージを与えることができる。
ただ、当てるようになるには相当な練習が必要だ」
「ふーん…そっすか。ありがとうございます」
しばらく悩んだ後、俺は一つの武器を手にする。

「ま、短剣2本やな」
「決まったな。それではルールを説明させてもらう」
一泊おいて説明が始まる。
「一辺500mの正方形の森林ステージで、特殊ギミックはなし。勝敗は相手のライフを削りきった方の勝ちだ。ルールはシンプル。痛覚はなし。ただし、切られたり穴が開く感触はあるから注意な。このステージは毎回ランダムに生成されるから俺が覚えて有利なんてことはないから安心しろ。転送されても半径400m以内にはいないからしばらくは安全だぞ。ああ、あと最後に『魔法の使用は禁止』だ。以上」
「分かりました」
「(まぁ、魔法使えないけどね)」
「では、始める」


「………」
「どうしました?フィレイ様」
訝しげな表情をするフィレイにスミルが首をかしげて聞いてくる。
「いや、正直こればっかりはミヤビに勝ち目があるとは思えないのよ」
そしてその目が諦めの色に変わっていく。
「だって、ゾルギア先生って去年の帝都大会で6位の成績なのよ?しかも、今の時代に圧倒的不利とされる近接戦闘を主に使って」
「私、応援しようって思ってたのに、負けが確定しているだけで何もできなくなるなんて…」
そう言って顔を下に向ける。どういう顔で上を向き、ミヤビにどういう顔で応援したらいいのか分からない。
申し訳なさと悔しさで胸がいっぱいになる。
「大丈夫です」
顔を上げるとクレハがこちらを見て微笑んでいる。
「恐らくミヤビ様はどんなに一方的なことになっても応援してくれた人たちには感謝を忘れない人です。少なくとも私はそう思います」

「それに、これはテストのようなものなんですから先生もそこまで本気は出しませんよ。ミヤビ様に調整すると思います。なのにこの心配ぶり。とても優しいのですね。フィレイ様は」
「う、うるさい」
少し顔を赤くして答える。
「大体、あんたこそミヤビを心配してるんじゃない?妙に親しげだったし」
「い、いえ。そのようなことは…」
フィレイより顔を赤くして答える。
「ハハ―ン、さては貴方。ひとm…」
「わーーーっ!!わーーーっ!!!違います!!違いますからぁ!!!!」



「先生…一つ提案なのですが…」
「なんだ」
始まる前に言っておこう。
「なるたけ全力でこれますか?」
「…ほう。なぜだ」
少し、先生の眼光が鋭くなる。
「えーっと、これから目標とする人を見つけたいと言いますか、正直この世界の事とかまだまだなんでできるだけこの世界の事を知っておきたくて」
「ふん、よし分かった。ただ、あまり失望させるなよ?」
「ええ、大丈夫です」
そして近づき、握手を交わす。
「よろしくお願いします」
「うむ、よろしくな」

そのまま、景色が変わり、先ほど握っていた先生の手には短剣が握られていた。
もう一つは腰に刺さっているらしい。
「ふむ…なかなかの業物」
手入れもしっかりとしているし持ちやすい一品だった。
「(あれ、そういえばこの剣って実際にあるものなのかな。…後で聞いてみよう)」
先生を探そうかと一歩目を踏み出そうと地に足がつく直前。
「っ!?」
雅はその身を吹き飛ばされていた。

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