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第三話、え、何違うの?

彼女が先ほど尋ねかけたことを聞いてきた。
「あなた、大岡、今晩宿はあるの?」
それを聞いた途端、俺の脳は警鐘を鳴らしていた。
「…やばい無いかも、どうしよう。そういえばさっきもう日本に戻れないって聞いたし…」

とりあえず落ち着いて、今の状況を分析した。

「俺、無一文だし服もないし宿もない食べ物もない…衣食住すべてない…!!どうしよう…」
「なら家に泊めてあげる。いや、一生泊めてあげてもいいわよ」
「え、何。プロポーズ?急すぎない?」
「ち、違うわよ!!」
「え、何違うの?まじか…」

思いっきりがっかりする雅を見てフィレイは笑いながら言った。
「ふふっ、あなたのお爺様にはこのアシュベル家はとても感謝しているの。今こうして貴族という立場を失わずにいられたのもあの人のお陰。何か恩返しがしたいって彼に言ったら。もし息子が困っていたら助けてくれって言ってたのよ。だから、今のはぴゅ、プロポーズではないわ」
「くくくっ」
どう聞いても噛んだように聞こえた台詞に雅は笑いを堪え切れずにいた。
「笑わないでよ!!」
「あっはっはははは!!」
夕暮れの空に雅の笑い声が響き渡る。

「ふぅ…。悪い悪い。でも、お前と話していると楽しいな」
「フィレイ…」
「ん?」
「フィレイって呼んでもいいわよ。その方が呼びやすいでしょ」
「じゃあ俺のことも雅って呼んでくれ。よろしくな、その、ふぃ、フィレイ」
「え、えぇ。よろしく、ひ、ぴかる!」
盛大に笑った。

フィレイの家へ向かう途中、2人は色々な話をした。
雅はこの世界に召喚された人物だという事。
雅のような黒髪で黒い目をしている人はこの世界にはとても少ないという事。
魔導と武道についての事。
この世界には魔法と科学の2つが存在していること。
「…だからね、この世界で魔法高校に通うことになった人は、鍛錬して、ギルドに入って、そして冒険者の資格を得るの。でも、この学校に通えるのは特待生の生徒以外貴族がほとんどだから平民の人たちは教育が無料で行われる中学で卒業して、商人、役員、サポート係、旅人、腕に自信のある人は冒険者など様々な職業を選択して巣立っていくわね。ちなみに、この高校でも全員が冒険者になれたり、ならなかったりする人がいるのよ?」
「ふむふむ、俺の予想だとその魔法とやらの数値みたいなのと、個人の戦闘力が一定の数を超えていないとなれなかったり、途中で自分のやりたいことが他にある事に気付いて別の職業にしたりとかか?」
「そうそう、貴方、意外と頭が回るのね」
「いや、俺は元の世界で魔法とか異世界とか大好きだったってだけだ」

「(ラノベだがな。)」

「冒険者になった後、どうするんだ?魔物を狩るのか?」
「いいえ、基本的にはクローズワールドとの戦いに駆り出されたり、ダンジョンの攻略をしたりしてるわ。ちなみに、中卒の人がなる冒険者はダンジョンの攻略が目的とした人が多いわね」
「なるほど」

そして暫く無言のまま2人で並んで歩いていた時、フィレイの方から

「そっちには魔法とか無いの?」
と、質問が飛んできた。
「無いな、一切ない。その代りここより科学の発展がすごかったなぁ」
「へぇ。その話また今度聞かせて。それで話を戻して進めるけど、このボースワールドには2つの世界があるの一つ目がワイドワールド、二つ目がクローズワールド」
「そうそう、クローズワールドっていうのはどういうとこなんだ?」
まずは自分のいるここがどこなのかを知る必要がある。
「じゃあ、追って説明するわね。まずはワイドワールド。この世界は今、
人類種、亜人種、獣牙種、精霊種、聖天種、機械種、龍魔種の7つの種族が暮らしているわ。対するクローズワールドではディアブロという悪魔の種族や蛮族などが暮らしているわ。…着いたわよ」

そうして目的地であるフィレイの屋敷についた。
「あぁ、うん。ってでかいな!!」
予想の3倍くらいはでかい。
「お前第5貴族って言ってたよな。第1貴族とかどんだけ敷地広いんだよ」
「そりゃもう、うちの4倍はあるわよ。何せ無駄に土地が広いからねぇこのワイドワールドは」
移動の大変さに心底驚きを隠せなかった。
などと会話していると、
「おかえりなさいませ、お嬢様」
2人のメイドさんがいた。

「紹介するね。こっちの水色の髪をしているのがクレハ、そして緑色の髪をしているのがスミルよ」
「「どうぞよろしくお願いいたします」」
「(な、ななな、なんだこの可愛さは!クレハという子は、ネコ耳があり、全体的に華奢なスタイルなのが窺える。スミルもネコ耳でこちらも華奢なスタイルだが、クレハよりも幼い顔でとても守ってあげたくなるオーラが半端じゃない。
何より…でかい。胸がでかい。
フィレイ、お前には多分たどり着けない領域だろう。)」
「初めまして、俺の名前は大岡雅です。以後お見知りおきを」
少し佇まいを整えて2人に挨拶をする。
「えっ!?オオオカって、フィレイお嬢様…」
「あの伝説のヨミさまのご血縁という事ですか!?」
「ええそうよ」

「(なんだよ、伝説の黄泉って。中二病かよ。ああ、でも自分でつけたわけじゃないのか)」
思わず吹き出してしまった雅を見て不思議そうに首をかしげる2人。

「…さて、私はお風呂に入って寝るわ。雅はどうするの?」
フィレイと一通りこの屋敷の説明やら今後の事を話していたらすっかり日が落ちて辺りは暗くなっていた。
「なあ、ここには時計があるのか?」
「えぇ、時計ならあるわよ。この部屋にはないけど玄関広場に行けば大きいのがあるはずよ。それと、あなたの部屋にもね」

「それじゃあ、クレハかスミルは俺はこれから外に出るから、その1時間後に呼びに来てくれないか?風呂は自分で入れる。あ、もう洗ってあるか?もしやってなかったら俺やるよ」
「はい、分かりました。…ですが、どうしてご入浴の支度をなさるんですか?私たちでやりますよ?」
あ、そうか、この世界では上下関係というものがはっきりとしているから奉仕する側とされる側でしっかりと区別されているのか。
「俺の住んでいたところではこういう上下関係がなかったからんぁ。こういう日常生活の事に関してはできるだけ元の世界の時と同じようにしたい」
「分かりました。では、そうさせていただきます」

雅はフィレイに尋ねる。
「なあフィレイ。この屋敷に武器はあるか?何でもいい」
「そうね。口で説明するより武器庫に行った方が早いわね。クレハ、雅を案内してあげて」
「畏まりました。わが主の仰せのままに」
異世界風のお辞儀(ただのお辞儀だが)を披露してくれたクレハは武器庫に案内してくれた。
「ここです」
「…おお。意外とあるんだな」
「はい、ヨミ様がこの武器庫に様々な武器を置いて行ってくださったそうです」
「なるほどねぇ…」
雅と黄泉の接点はない。なぜなら黄泉は76歳で行方不明となり、今現在もそうなのだから。
「(あれだけうちの家族をめちゃくちゃにしときながら勝手に死ぬんじゃねえよ)」
フィレイから聞いた話によると、黄泉はかつてワイドワールドに進行していたディアブロ軍に1人で立ち向かって全身にひどい怪我を負いながら死んだそうだ。

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