127 前哨戦の肆
さて、京都勢力と出雲勢力が趙雲との戦闘を始めてから20分がたった頃じゃろうか?
相変わらず趙雲の防御は固く、しかしながらに味方の攻勢も強い。
とはいえこちら側も勝負の決め手に欠き、やはり持久戦の様相を呈してきた。
まぁ、それも予想しておったというか、こちらの作戦なんだけどな。
でも因縁深き京都と出雲の戦力がぎこちないながらも、何とかうまく連携しておる。
最後部でわしと頼光殿が目を光らせておるから当然と言えば当然なんだけどさ。
んでそろそろかな。
戦場を離脱した勢力のうち、わしが名指しで連絡をくれとお願いしておいた人物。
薩摩の島津家次男、島津義弘じゃ。
あやつからの連絡を心待ちにしておったのだけど、向こうも向こうで味方の休息や治療――あるいは鬼ジジイ本人がそれらに時間を要していたならば、それを待つしかあるまい。
さっき吉継がドローン映像を見ながら“健在そう”だと言っておったけどな。
と思ったらほら、待ちに待った無線が入ったわ。
「もやし狐? わしだ。今前線基地に戻ってきた。んで吉継のガキから軽く話は聞いたが、どういうことだ?」
「おぉ、鬼ジジイか。待っていたぞ!」
「あぁ、すまんな。兵の撤退に少し時間がかかってな。こいつらの治療も。
んでどうする? 戦力の入れ替えは上手くいったが、いまいち決定打に欠ける。この後はどうするつもりなのだ?」
ちなみにこやつは割と部下から好かれるタイプの武将じゃ。
戦の最中にも部下の足軽とかと一緒に飯を食ったり、寒ければたき火で暖を取る兵の輪にふっつーに混ざり込んだりしておったらしい。
それゆえ家臣からの信頼も厚い。厚いっていうか、熱い。
もう宗教じみた忠誠心じゃな。
その忠誠心は暑苦しいからいいとして、鬼ジジイは今も配下の兵の撤退を手伝ったり、その治療を手助けしておったのじゃろう。
ゆえにわしへの連絡が遅れたのかもしれん。
んでそんな島津の兵たちがこの時代になってもその名をとどろかせておるのが、“島津の退き口”なる撤退戦じゃ。
そう、関ヶ原の戦いにおいてわしら西軍が総崩れとなり、もはや敗色濃厚。そんな時に数万の東軍に囲まれた四面楚歌の状況から、島津義弘率いるわずか数百の兵は敵陣のど真ん中を突っ切るクレイジーな敵中突破を実行し、戦場離脱を成功させた。
しかもその後も執拗に追撃を行う徳川勢に対し、死を覚悟した足止めの兵を各所配置した捨て奸(すてがまり)なる戦い方にて、これまた壮絶な撤退戦をしておる。
結果、井伊直政――多分いっつも返り血で“赤備え”しておるミノス殿のことなんだけど、その直政に重傷を負わせつつ、その撤退戦を成功させたんじゃ。
これがどれだけすさまじい戦功なのかは、当時のあの状況を想像してみればわかりやすい。
勝利を確信した徳川勢の――その中心に席を数える四天王の1人が十分な兵とともに余裕綽々で敗残兵の掃討作戦へと移行したのに、その敗残兵からありえないほどの反撃を受けたということじゃ。
追撃部隊の将たる直政が負傷するほどのな。
あっ、今度冥界四天王の前でこの話をしてみようかな。
多分ミノス殿が不機嫌な顔を浮かべるんだろうけど、それでミノス殿の前世が井伊直政だと確定でき……じゃなくて。
今はそんなこと考えておる場合じゃなかったわ。
んで、そんな人道離れした戦法をその魂に宿す島津勢。
現代において無駄に命を捨てよというつもりはないが、その戦い方にわしの武威センサーを合わせれば、さらに効果的な持久戦を仕掛けることができるはずなんじゃ。
いっひっひ。三国志の英雄どもよ。
この国の戦国時代だって、負けず劣らずの策謀・策略がそこらじゅうに蔓延しておったのじゃ。
それを実行する狂乱じみた武将や侍たちもな!
半端な覚悟で手を出してはいけない国なのじゃ!
「うむ。おぬしの――あと、そこにおるであろうおぬしの兵たちの伝説というか。その力を借りたいんじゃ」
「ほう、それは面白い。ということはつまり……? あれだな?」
「あぁ、“島津の退き口”に“捨て奸”。まぁ、この戦いでは島津の兵に命を懸けさせるつもりはない。
でもおぬしの指揮下にて、撤退戦のような――しかしながら相手が疲労したところですかさず攻撃を仕掛ける包囲戦を同時に行いたいんじゃ。
できれば戦場を移動させながら。それゆえの撤退戦じゃな。
このままここで戦い続けると、この地の被害が大きくなるばかり。民間人の救出もできずにおるとなると、被害がどんどん大きくなる。
だから敵をどこかに誘導させる感じで、戦場そのものをここから移動させたいと思うておる。
鬼ジジイ? だから撤退戦というか、そういうのをしつつも敵を誘導させる手立てを考えてほしいんじゃ」
……
そして数秒の沈黙。
「それならば……“捨て奸”というよりは“釣り野伏せ”に近い偽装退却戦術になるな。にしてもまったく……そんな無理難題を……小癪な小僧め」
「ふっふっふ。それができるのが島津の強味……というか今なお伝わる狂気じみた撤退戦を成功させたおぬしらの手腕の見せ所じゃ」
「褒めても何もやらんぞ」
「何もいらんわ。それより5分……そうじゃな。5分ぐらいでこの作戦の詳細を考えてくれ。そこに大谷吉継の転生者がおるじゃろ? あやつと打ち合わせつつじゃ。詳細が決まったらまたこの無線でわしに繋いでくれ」
「わかった。しばし待て」
そうして無線に少しのノイズが走り、通信が途切れる。
わしはというと目の前の趙雲……そしてその敵との戦いを続ける出雲・京都の合同部隊に再度意識を向けた。
やはり道威を操る中距離攻撃型の敵に対し、この二大勢力をもってしても戦いは均衡状態。
うーん。じゃあやっぱりわしももう一回参戦してこようかな。
左肩の負傷中ゆえ、左腕そのものはしばらく使い物にならなさそうだけど、わしが前線でちょこまか動けば趙雲は意識せざるを得まい。
そこでできた隙を周囲の者が攻めてくれれば多少は効率よく敵の武威の鎧を削ることができようぞ。
と思ったら、早速無線から島津の鬼ジジイの声が聞こえてきた
「もやし狐? 作戦の概要を伝えるぞ?」
はえぇな、おい!
「はえぇな、おい!」
いや、大事なことだからついつい声に出してしまったわ。
「ど、どうした?」
「いや、すまん。まだ2~3分しか経ってなかったので、驚いてしまっただけじゃ」
「あぁ、さっきの話を部下どもに伝えたらな。あれやこれやと案が出てきて、作戦の概要……いや、もう“詳細”って言ってもいいぐらいに、細かいことが諸々すぐに決まったわ」
さ……流石じゃな、島津の兵は。
しかも鬼ジジイに対して気軽に意見やアイデアを伝えるあたり、やはりこれが島津義弘の人間性と、島津の強さの秘密か。
「これから各戦場にわしの兵を差し向ける。そして、その兵たちに敵を誘導するための嘘を言わせる」
「ほう、嘘というと?」
「うーん、それはだな……説明するのが難しいんだが、なんというか……」
ここでなぜか言葉が濁る鬼ジジイ。
急にどうした?
「ん? どうしたんじゃ?」
だけどそれには理由があった。
というかさ。鬼ジジイのしょうもない寸劇が無線を通じて流れてきた。
「平たく言うと、部下に戦場で演技をさせる。俺の考えるセリフはこうだ。
『東には行かせない! この地にて貴様を成敗してくれる……!』
『ほう、東に向かうと何かあるのか?』
『くっ、そんなこと教えてなるものか?』
『だめだ! 出雲大社に敵を引き入れるようなことを言っては……あっ』
『出雲大社……? そこに何かあるのだな?』
……
……
簡単に言えばこんな感じだな。そこにアドリブなど加えて……。
どうだ?」
あっ、いや。まずさ。
鬼ジジイが1人で数人の声色を見事に演じ分けたのはいいんだけどさ。
いやはや、どこぞのプロ声優かと思っ……じゃなくて、そもそもそんなクオリティいらんのじゃ!
あと鬼ジジイってそんなキャラじゃなかったじゃろ?
なぜ急にそんな小ネタを披露した?
それと勝手に出雲大社を敵の攻撃目標に定めんなよ。
わしの隣にそこを拠点とする勢力の頭領がおるんじゃ。
なんとなく九州の地を転戦させるのが嫌なのは理解できるけど、本州の――中国地方の民にしわ寄せが……?
「あっ、うん。わ、わかった」
でも強く言えないわし。
今さっきこの戦いの総指揮を鬼ジジイに任せると言った手前、それをすぐさま反故にするのも悪い気がしたし、鬼ジジイのキャラブレがわしの心に結構な衝撃を与えておった。
さて、うーん。この会話、頼光殿たちには聞こえておらんのだけどな。
どう伝えようか……?
「とりあえず出雲勢力の頭領に聞いてみるな? ちょっと待っててくれ」
「あぁ、頼む。ついでに言うと、この敵を山陰地方に誘導させて、そちらで誘導作戦を進める予定だ」
なるほどな。
ここ九州の博多や地中海沿岸に戦場を移すよりは、比較的人口の少ない山陰地方を移動しながら戦闘を続ける。
それならば住民の避難も容易だし、住居や施設が破壊されたらここぞとばかりに利家殿に復興資金を要求する。
そしてそれを元手に山陰地域の経済もちょこっと活性化したりして。
鬼ジジイがそんな経済効果まで考えておるとは思えんが、やはり住民の避難が容易という点は非常に重要じゃ。
なのでわしは一度無線を切り、隣に立つ――ただ立っているだけなのに、体から異常なほど攻撃的な武威を垂れ流し、めっちゃ興奮しておる頼光殿に声をかけてみた。
「頼光殿?」
「はっはっはっはっ……ん? はい?」
わんこか!
じゃあ今は“待て”じゃ! その代わりに“お手”するか!?
いや、落ち着け、わしッ!
ここは戦場……ふざけておる場合じゃないんじゃ!
「たった今前線基地から今後の作戦概要が入ってきた。
詳細は後で教えるけど、敵を出雲大社まで誘導させつつ、その道中で敵の武威を消費・消耗させる算段じゃ。
まぁ、上手くいけば……というかおそらくそこまで行く途中のどこかで勝負に出ると思うけど……よいか?」
……
「ほうほう。なるほど……山口経由で島根へ。おそらくは山陰側を……?
その経路を戦場にするのはありかと思いますが、最終目的地を出雲大社にするのは……同意しかねます」
おっ、めずらしく頼光殿の語尾に苛立ちが感じ取れた。
そしてもちろんその感情が鬼ジジイの提案を却下したがっておる。
んじゃ、どうするか?
いや、今はわしが仲介役のようなものじゃし、ここはしっかりと言い聞かせねばな。
と思って頼光殿を軽く諭そうとしたら、頼光殿が先にイヤフォン型無線機のボタンを操作した。
「こちら出雲神道衆頭領、源頼光。勇多さん? いや、今は吉継様ですかね? そこにいる島津義弘に繋いでください」
「聞こえているぞ、源頼光。島津義弘だ」
「そうか。話は聞いた。聞いたが、承諾しかねる。
この戦い、九州で起きたのだからこの地で――そうだな。貴様の地元である鹿児島までこの敵を誘導すればいいだろう?
この戦場を本州に持っていった場合、万が一そっちで敵を取り逃せば、陸続きである大坂から名古屋、そして東京へと危険が及ぶ。この戦場を本州に持っていくのは危険だ。逆に被害が広がりかねない。
なので誘導経路を南に変えるよう作戦の変更を求める」
「敵を取り逃がす? そうならないようにするのが警察権力を統べる貴様の役目であろう? 九州の地はもはや十分な被害を被っておる。
それに優先すべきは民どもの命。山陰地方なら人口も少ないし、今から自衛隊や貴様配下の警察官を総動員すれば山陰地方の民を瀬戸内海側へ避難させることも可能。利家殿の転生者も容易に動いてくれるだろうし、こちらもその時間を稼ぎつつの誘導を考えているんだが?」
おっと。
にわかにマジな言い争いが始まったわ。
いや、ここはわしが何とかせねばなるまい。
でもそれぞれごもっともな意見を言っておるし、もう少し言い争わせておくか。
言い争わせて……そして双方が十分に満足したその後に、わしが仲介すれば?
と思ったけど……
「島津義弘……殺してやろうか?」
「ほう、面白い。来るなら来い。わしは前線基地にいる。貴様ら出雲の兵どもも、そこのもやし狐のように武威の操作に長けていると聞く。
聞くが……だからどうした? 島津の兵を舐めるなよ? 貴様らの首を小脇に抱えながら討ち死にするぐらいの覚悟は常に持っている。
それが島津兵だ」
うぉーい。いきなり宣戦布告か!?
しかも鬼ジジイまでその挑発に乗りやがった! さらには出雲勢力の兵が法威技術を持っておることにうっすら気付いていながらも、それすら含めて迎え撃つ気じゃ!
なんでじゃ!? 今はそんなことしてる場合じゃなかろう?
いや、そもそもこの戦いはこの国全体を守るべき戦い! どっちがどこの勢力で、どこの地域を守ろうとか、そんなこと言ってる場合じゃないんじゃ!
「落ち着け、2人とも……」
なのでわしはできる限り低い声で無線にそう言い、隣に立つ頼光殿にも肩に手を置く感じで諫めることにした。
「今はそんなことを言い争っておる場合ではない。
この3人の敵は間違いなく“国難”レベルの強敵じゃ。日ノ本の全勢力が力を合わせて立ち向かえねばならぬほどのな。
それはわかっておろう?」
「え? えぇ、まぁ……」
「そ、そうだが……そこの若造が……」
んでここからがわしの本領発揮と言ったところか。
たまたま頭に浮かんだことなんじゃが、目の前の敵は中国の英雄。
加えて、最近ニュースとかで中国の海洋進出が苛烈を極めておるとか、あとそれに対する“海上保安庁”の苦労とかをよく耳にする。
そしてその“海上保安庁”なる組織も、やっていることは海の上の“警察機関”のようなもの。
つまりそこには頼光殿も間違いなく絡んでおるじゃろうし、対して鹿児島・沖縄地域の漁業も同様に島津の息がかかっておるじゃろう。
そういう中国の動きに迷惑をこうむっておるのは主にこの地域の漁師たちなはずで、それを助けるべきは海上保安庁。
んで、ついでにわし自身も最近どっかの地域の漁業を発展させようとかいう話に乗ったことがあったような――BL絡みだったからあまり思い出したくない件だけども……。
といういくつかのキーワードが脳内を駆け巡ったゆえの思いつきなのじゃが、まぁこういう意見の相違を無くさせるためには、さらに大きな問題とその対応に双方の意識を向けさせればいいんじゃ。
「いいから落ち着け。
まず頼光殿? 島津の兵はそういう退却戦についてはマジで優秀じゃ。間違いなくこの敵どもをこちらの思惑通りに誘導させる。
そして鬼ジジイ? 退却戦の最中は戦場と避難民の間の防御壁として、この出雲の兵たちを当てるつもりじゃ。さらには上杉と武田も考えておるけど、頼光殿が坂上田村麻呂殿から受け継いだ警察という組織もその組織力に疑いの余地はない。万が一にもこの敵を見失うなんてことはなかろう」
「は、はい」
「う、うむ」
「んで今後のことも考えてほしい。こやつらが中国からの刺客と考えれば、今後の日中関係もより大きな問題を抱えることになる。
九州・沖縄地方の漁業にもな。その影響はわかるじゃろ?」
「お、おぅ。そうだな。海の治安が……」
今度は鬼ジジイの返事のみ。
だけど隣に立つ頼光殿も手を顎につけて、考え込んでおる。
「この戦だけで全てが終わればよい。でもその黒幕がいたとして……いや、わしの分析ではそのような存在がおるのじゃが、その者が大陸からの侵略を試みておったならば、その影響はこの戦いの後にも続く。いやむしろその後が本番ということにもなりかねんのじゃ」
……
おっ、ついに鬼ジジイも黙りおった。
ふっふっふ。これはつまりこの会話がわしの独壇場となったという証。
こういう場でしっかり主導権を握るのが、わしという武将なのじゃ。
とはいえ今はまだ戦いの真っ最中。
長く話し込みたい気もするけど、ここらでさっさと結論を伝えねばな。
「この国の西を……西の大海の安全を考えるならば、どう考えても今後おぬしら2人の協力が必要不可欠なんじゃ。
ならばこの戦いもしっかりと協力し合って勝ちをおさめ、すぐに双方の勢力による協力体制を築かねばいかんのじゃ」
このわしの言に対して、頭の切れる頼光殿は珍しく、思考のために一瞬沈黙した。
だけどすぐさまわしの思惑と似たような分析結果にたどり着き、この作戦を是としたようじゃ。
「なるほど……」
「うむ。それで……どうじゃ?
まずは山陰地方における撤退戦。その誘導は島津兵が責任を持って成し遂げる。
そしてその戦場の外周は出雲勢力の兵が責任をもって守り切る。
これで問題ないと思うんじゃが?」
「相変わらず流石ですね、三成様。もはや反論しようがない。
でもそれでいいでしょう。決まりですね」
ふむ、頼光殿がついに首を縦に振った。さすれば問題はあるまい。
「でも頼光殿? この戦い、まだまだ裏がありそうじゃ。今後何が出てくるかわからん。
最悪の場合、出雲大社が最後の激戦地となろうぞ? それも覚悟しておいてほしい。よいか?」
「ふっふっふ。あの土地は我々にとっての地元と言っても過言ではありません。
最悪何があってもその手前で敵を迎え撃つことにすれば問題なし。地の利がありますし、境内まで侵入を許すつもりはありませんよ」
あれ? めっちゃ乗り気やんけ。
頼光殿の態度が急にコロッと変わりおったけど、それはもはやさっきまで反対しておった男の態度とは思えんほどに……これって、まさか?
わし、もしかして試されてた?
というかここで軽く島津の作戦に反対しておけば、またわしから美味しい話を貰えるんじゃないかとか思って……?
……
いや、まさかな。そんなことはあるまい。
これはつまりわしの意見に頼光殿が全面的に賛成してくれたということ。
それにわしと頼光殿はマブダチじゃ。
なんか数週間前にとんでもない嘘と騙しをくらったような気がするけど、あれは寺川殿の策略だったということで、頼光殿はそれを断れずに仕方なく……。
……いや! めっちゃ嫌な記憶が蘇ったけど、それについて自分で自分に言い聞かせてる場合でもないんじゃ!
「ならば決まりじゃな、鬼ジジイ? 頼光殿も承諾してくれた。ではその作戦で行こうぞ」
「うむ、わかった。源頼光との盟にかけて、我々もその役目を全うしよう。
ところで、もやし狐? さっき兵の入れ替えが済んだばかりだが、今現在戦場で戦っておる兵の総力は? 貴様の能力で感じる今の戦況を教えてくれ」
おっと、急に話題が変わったな。鬼ジジイも流石の切れ者。思考の速度が速い。
それと鬼ジジイはわしの武威センサーの存在を知っておる。かつての豊臣政権で一緒に働いておった仲間だからな。
それゆえわしの武威センサーによる3つの戦場の状況を聞いてきたのじゃ。
「うーん。特に問題はないな。たった今戦場に来た者たちは皆元気だし、それほど切羽詰まった状況でもない」
「ならばよい。こちらの兵でグループ分けと、それぞれの役どころを決めるから、このまま30分ほど膠着状態を続けよ。
その後、わしの兵をそれぞれの戦場にもぐりこませ、演技をさせるからそのように。
あっ、ついでに吉継のガキが早速民間人の救出行動も始めたいと言っておる。ここに戻ってきた兵のうち、軽傷で疲労回復も済んだ者たちで救出部隊を組ませ、市街地に展開させる。3つの戦場はその場で固定させつつ、それ以外の地域をだ。
もやし狐? 貴様の能力で全ての戦場の武威を把握しておけ。もし戦場が移動しそうならこちらに伝えよとの話だ。
モニターでも確認しておるが、貴様の能力の方が早く異変を察知できよう?」
「うむ、諸々わかった。ではわしらはこっちに意識を集中させる。頼んだぞ」
「任せとけ」
最後に短く挨拶を済ませ、わしは視線を目の前の激しい戦闘に戻す。
同時に広げておった武威センサーにも意識を向け、それぞれの戦場がやはり膠着状態となっておることを確認した。
にしてもこの趙雲という男――すでに丸一日戦い続けておるというのに、よくもまぁ体力が持つものじゃ。
体力というか、内臓器官や脳の機能も含めて、じゃな。
常人ならそろそろほころびが出てこようぞ。
でも“道威”? その元となる中国の道術とやらに、生命維持機能の強化といった能力が付加されておったなら納得できよう。
というか絶対にそうに決まっておる。
でなければ単独でこんな長時間戦うことなどできようもない。
しかもその間、ずっと油断もできない命をかけた戦いじゃ。
1秒よりもはるかに短い間隔で攻防を繰り返し、それを今もなお続けておる。
あっ。そういえばこやつの体、何者かに操られておる雰囲気を匂わせておったな。
もしかするとそやつによって無理やり心身の限界を伸ばされておるのかもしれん。
でもそれにも限界があろう。
ここからさらに2~3日。いや、最悪1週間程度の長丁場になるかもしれんけども。
まぁ、次の瞬間にもあやつの体に限界がきてぶっ倒れるかもしれんが、それぐらいは覚悟しておいた方がいいのかもしれん。
などと考え込んでおったら、視線の先におる趙雲が左手をズボンのポケットに入れ、スマートフォンを取り出しおった。
「俺だ……ん? あぁ、わかった。場所は?」
おっと。どうやら関羽か張飛と連絡を取っておるようじゃな。
しかもわしの武威センサーでは関羽と張飛が移動を始めておるようじゃ。
合流でも企て始めたか? さすれば戦況が変わるか?
「吉継よ? 聞こえるか?」
「うむ。今、関羽と張飛が動き出した。そちらは?」
「やはりな。趙雲も今スマフォにて、そのどちらかと通話しておる。合流する気と見て間違いなかろう。どうする?」
「ならばやつらの合流を許そうぞ。戦場が1つになればむしろこちらに都合よし」
「そうじゃな。民たちの救出活動もしやすい。ではこっちの戦場もそのように指揮するぞ?」
「あぁ、そのように。やつらが合流し次第、指揮権は実際に戦場におるおぬしに預ける。そしてわしは引き続きここで救出部隊の指揮をする。よいな?」
「よし、頼む。あと、島津の兵が動き出すときになったら連絡をくれ」
「あいわかった。では」
戦場なんてものは――そして戦況なんてものは何が起こるかわからん。
もちろんそういう時は臨機応変に。
それをわかっておるゆえ、わしと吉継もそのように動き出す。
わしは無線のチャンネル設定が前線で戦っておる兵たち全員に統一するよう氏直に下知し、それぞれの戦場における包囲網をあえて緩めるように言った。
んで敵3人が合流したところで上杉・武田や源平の勢力と再度包囲網を構成する。
ふっふっふ。さてさて、ここからは総大将としてのわしの出番じゃ。
どのようにいじめてやろうぞ!
「ふっふっふ……」
「光君? 何にやついてんの? だいぶキモいけど、どうしたの?」
「み、光君? ついにあた、あたま……おか、おかしくなった……?」
ちなみにわしらと同時に戦線加入したあかねっち殿とよみよみ殿もまだ体力と残存武威は十分。なのでこの2人は味方の大規模増援の後も戦場に残って関羽を相手に戦っておったのじゃが、この時合流しついでにわしに対してめっちゃひどいことを言ってきおった。
いや、まぁ……あれじゃ。
一瞬くじけそうになったけどさ……。
わし、がんばる!
「べ、別に……」
わしは気を取り直して前線の指揮を始め、ほどなくして吉継から無線が入った。
「三成? 戦場が収束したから、島津の兵が再度誘導部隊の編成をし直すそうじゃ。
ゆえに今からおよそ40分後に島津の兵が動き出す。そのように!」
「わかった」