第20話 最初の裏切り、最後の仲間
第1章:死に戻り地獄の序章
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夜。
拠点《アリオ・ベイル》の灯が、静かに、ひとつずつ消えていく。
まるで、闇がゆっくりと人類の最後の砦を食っていくようだった。
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タタルは中央祈祷区――かつて神官レイヴァンがいた場所に立っていた。
そこに現れたのは、彼が唯一
「人間として信じようとした男」、防衛隊筆頭・カラム。
「なぜ来た、タタル」
「……お前が“人間じゃない”ことは、もう分かってる。
“奴ら”は、死を経験しないと見抜けない。
でも、俺は何度も死んだから、見える。」
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カラムの口元が歪んだ。
「……なるほど。お前があまりに死にすぎるから、俺たちも興味を持った。
いや、もしかしたら──“同類”かもしれないとも思った」
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その瞬間、肉が裂ける音。
カラムの肩から黒い鱗が滲み出し、骨が音を立てて軋む。
皮膚の下から、何か異様な“神経束”がうねりながら姿を現す。
「ずっと観察してたんだ。
死ぬたびに強くなる、お前の“意志”に……興味があった」
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タタルは剣を抜いた。
この瞬間を、待っていた。
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開戦。
擬態魔物【カラム=変性体】との、拠点内戦闘。
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カラムの身体が膨張する。
骨が外側にねじれ、全身が武器そのものとなる。
特筆すべきは、再生速度。
タタルが斬っても、斬った部位が別の武器として再構築される。
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1度目の交戦――
タタル、左腕を砕かれて死亡。
カチ。
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2度目――
背後から肋骨を槍のように突き刺されて死亡。
カチ。
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3度目――
カラムの口から分裂した“第二の頭部”に喉を喰われて死亡。
カチ。
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タタルは、4度目の戦闘前に言った。
「……死ぬたびに、お前がどう動くか、少しずつ読めてきた」
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5度目の戦闘。
タタルは火薬と腐食毒を併用。
分裂して再生した部位に毒を染み込ませ、再生自体を“腐らせる”。
そして、
反応速度が落ちた瞬間、跳躍。
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「死んで、死んで、死んで、ようやく届く──この一撃!!」
ズバァアアアアッ!!
細剣が、カラムの“脳核”を貫いた。
魔物の悲鳴。
肉の爆ぜる音。
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勝った。
タタルは肩で息をしながら、崩れ落ちる黒い肉塊を見つめた。
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だがその直後。
壁の陰から、一人の少女が現れる。
「タタル……?」
村から生き残った、あの子供だった。
名前はルリ。タタルが一度だけ“背中を庇って守った”唯一の命。
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「どうして……カラムさんを殺したの……?
さっき、私を助けてくれたばかりだったのに……」
「……それは“カラムじゃない”。中身は魔物だった」
「嘘だ……カラムさんはそんな……!」
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ルリは後ずさる。
タタルの顔が、血に濡れていたから。
剣が、まだ熱を帯びていたから。
そう――
彼がどれだけ死んで戦ってきたかは、誰にも分からない。
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「……いいさ。お前は生きろ。それだけで十分だ」
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その夜、タタルは拠点を出た。
誰も引き留めなかった。
誰も信じなかった。
でも、彼は“魔物の中の人間”を確かに殺した。
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それが、英雄ではない者の戦い方。
誰にも知られず、認められず、それでも世界を守っている者の戦い方。
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次に彼が戻る時は、
また別の裏切りの未来かもしれない。
でも、タタルは止まらない。
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死に戻りを武器に変えた男――四宮タタル。
第1章、ここに終幕。
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