第19話 味方の中の敵
第1章 死に戻り地獄の序章
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タタルは、焼けた剣を鞘に戻しながら、
ゆっくりと《アリオ・ベイル》の作戦会議室へ足を踏み入れた。
そこにいたのは、人類側の幹部たち。
・防衛隊筆頭・カラム
・議長代行・ミルダ
・回復神官長・ゾンデル
……どの顔も、前の世界線で何度も見たものだった。
(俺を疑い、処刑した奴ら。俺を利用しようとした奴。
……俺を“神の器”に捧げようとした狂信者)
だが今は、まだその段階ではない。
あくまで“初見”。
だが、タタルは彼らの“最終形”をすでに知っている。
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「この資料を見ていただきたい」
カラムが魔物の解剖記録を机に広げた。
――“再生器官を持つ人型個体、強い学習能力、擬態能力あり”
――“倒された個体は元・神官レイヴァンの姿を模していた”
その一行に、室内の空気が変わる。
ミルダが顔をしかめる。
「まさか、人間の中に……魔物が“混ざっている”と?」
「混ざっているどころか、今この瞬間も……」
タタルが口を開いた。
「この部屋の中にいるかもしれない」
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沈黙。
ピリ、と音がしたのは、空気ではなく“視線”だった。
タタルはわかっていた。
この台詞を口にすることが、“警戒対象”に自分を変えることだと。
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「証拠は?」
「6回死んだ。そいつの再生器官の特性、眼球の数、動きの癖
……全部、俺の死体が証明してくれる」
「……つまり、体験談のみか」
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カラムは目を細め、部下に指示を出す。
「タタル。君を今後“警戒対象A級”に引き上げる。
過去の死亡記録、再生例、他者との接触履歴をすべて記録する必要がある」
「つまり、監視対象にするってことか」
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ゾンデル神官が重々しく言う。
「君が敵に操られている可能性もある。
死ぬたびに戻ってくる……その力の“出所”は、君も知らないのだろう?」
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(やはり……“こうなる”)
タタルは笑った。
知っていたのだ。どの世界でも、最終的に彼は“異端”として追い詰められる。
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「俺は、敵を殺してきた。それだけが事実だ」
「だが君は、人間も何人も殺している。
この拠点に来る前、村で何があった?
裏切りを疑って3人を殺したと報告を受けている。証拠は?」
「……俺の記憶だ。何度も死んで、それを回避したルートが今だ」
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静かに、カラムが呟く。
「危険だな、“死んだことのある未来”を根拠に人を殺す者は」
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タタルは立ち上がる。
剣には手をかけない。
だが、その目は冷えていた。
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「わかった。信じなくていい。
でも、“俺はこれからも殺す”。魔物を、人間の皮を被った奴を。
止めたければ――死ぬ覚悟をしてから来い」
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無言で扉を出た。
その背に、幾つもの視線が突き刺さる。
だがその中に、一つだけ“濁った気配”があった。
(混ざってるな、やっぱり)
タタルは呟いた。
(この中に、魔物がいる)
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