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第三話『エッチなエッチなHカップ』2/2

◆【リレイズ北村】
憂「アニメを見ようと思うの」
アルバイト初日。まずはこの提案から始まった。

ディーラーと言うよりバーテンダーみたいな制服を着せられて、いの一番が、これ。
正明「見れば?」
憂「正明君はどういうのが好みなの?」
絡みが面倒くせえ。つーか、その歳でアニメって……。
憂「うふふ。大きなお友だちってヤツだね」
知らねえよ。

憂「正明君もアニメとか見るよね? 今の若い子ってこういうの見るんでしょ」
正明「知り合いは結構見てるけどな。オレはアニメとかそういうオタクくせーの見ねえや」
憂「ふーん。正明君は何見るの? 映画?」
正明「お笑い。リバイアサン松尾は超オススメ。あれは間違いなく伸びる。世界でオレの次に面白いって太鼓判が押せるな」
憂「へー。じゃあさ、じゃあさ、その人の持ちネタやってみてよ!」
フッ……常人では恥ずかしがって拒否するだろうが、フリを断るは芸人に非ず。
正明「ぐッ!? 大物だッ! でかい! なんだ、マグロか!? カジキか? いや、これはまさかー、まさかまさかまさかああああああ……」
正明「リヴァイアサ~ン!」
憂「……」
正明「……」
込み上げる怒りと殴れない相手から足元にあった椅子を蹴っ飛ばす。


憂「とりあえず暇しない分だけ買ったんだけど、どれがオススメかな」
無かったことにされたリヴァイアサン!
正明「なあ。つーかオレバイト初日だろ。オレ全然真面目じゃねーけど出勤日初日にアニメ見るってどうなのよ?」
憂「どうせお客さん来ないからいいもーん」
憂「それにもしかしたら、え!? よりにもよってこんなタイミングで団体のお客様が!? ってなるかもしれないよね」
あー、言っちゃった。今ので完全フラグ折れたわ。

つーか借りた、じゃなくてわざわざ買ったのかよ。こういうのって結構値段するだろ。
憂「ちなみに知っていますアピールしたいから、メジャーをちょっと外したものの中から選んでみましたー!」
あ、その気持ちはちょっとだけ共感できる。


うわ、これ1作品10巻以上あるけどそんな長いのかよ? よくわかんねーけどCDの容量から考えたら六法全書10冊分ぐらいあるんじゃねーの?
憂「さあさあ。選んで選んで。どれがいい?」
どれって言われても、こういう絵って全部似たようなもんだしな。

●【選択肢014:アニメ鑑賞会】
A.五億円の水差しテニス少女
B.魔法少女マジカ☆孫六
C.アイドル世界のマスターへ

憂「じゃあ一緒に見ようか」
この店はきっと近々潰れるだろうな。つーか早く潰れろ。
憂「どんなアニメかなー。わくわくするね」
正明「タイトルからある程度想像できるだろ」
そして映像が映り出された。

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●A.五億円の水差しテニス少女
『我が社の大人気登山アニメ――ついに!』
憂「CMだね」
正明「CMだな」
これ製品版だよな。それなのにCM入るのか。あー、そういや昔の映画とかも冒頭ちょっと入ったっけ。
それからも関係ないCMがしばらく続く。
『五億円の水差しテニス少女第三期! 絶賛発売中! 100冊買って全部燃やせ! ブッコフに売るな!』
憂「CMだね」
正明「CMだな。つってもこの作品のCMだからそろそろ始まるんじゃねーの」
『忘れてはいけない――次週、あのモフモフ男子達が帰ってくる! こんにちは! 羊だよ。メーメー!』
憂「CMだね」
正明「……」
『五億円の水差しテニス少女第四期! 絶賛発売中! 買ってくれないと泣いちゃうますわ』
憂「……」
正明「……」
『五億円の水差しテニス少女を担う声優達の新プロジェクト――ついに始動!』
憂「……」
正明「……」
『魔法なんてもうどうでもいいっすから。3巻! 絶賛発売中!』
『五億円の水差しテニス少女第五期! 絶賛発売中! 言い値で買おう。買って~お・た・から・や~!』
無言で取り出し口を指差すと、それに頷いてくれた。
憂「……うーん」
憂「面白かったね」
ある意味な。

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●2.魔法少女マジカ☆孫六
口癖は「おんどりゃあ」と可愛く鳴く魔法少女孫六ちゃん。
不思議な力を使い学園のヤンキーを次々と討伐していく。
無数の敵に囲まれても大丈夫! 次々に撲殺して敵のリーダーの後頭部を掴み壁に顔面を叩き付けると、そのまま「ボケエエエエエエエエエ!」と叫んでエントロピーの果てまで走って行く大活躍!
『オヤビンがいれば、もう何も怖くないでゲス!』
ゴルフと喧嘩と野球の三番勝負の中、突然金髪デブが敵の怪獣に食べられてしまった!
『ひいいいいいいいいぃぃぃぃぃい!』
『朝田! おんどりゃあ!』
憂「もういいや」
正明「……」

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●3.アイドル世界のマスターへ
『私、アイドルの頂点に立ちます!』
アイドルを夢見て上京する春風。しかし、気づいたらそこはコクピットの中。
憂「なんで?」
正明「知らん」
ロボの適正が認められた春風は、大怪獣を一撃で倒す恐ろしいポテンシャルを秘めていたのだ!
憂「え、いつ認めたの? ん、ロボ?」
正明「パッケージにはちゃんとアイドル書いてあるぞ。キャラクターとかも一緒じゃね?」
変身! 合体! 火力マックス!
パチンコ屋の金色みてーだな。
『この世界を薬漬けにして支配するんですよ。タバコよりもアヘンよりも邪悪な。このスタミナドリンクで!』
『させない! 私は、トップアイドルになるために世界を救う!』
憂「……」
正明「……」
1話丸々見終わると、停止ボタンを押した。
憂「これは後で見るから、ポーカー台に戻ろうか」
見るんかい。

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憂「うーん、時間を無駄に使ったね」
自覚はあるのか。
憂「私今日は眠いからもう上がっていいよ」
憂ちゃんって本当にダメな大人だよな……。

正明「あ、そうだ憂ちゃんラシェル・オンドリィって知っている?」
憂「んー、知らなーい。それもお笑い芸人?」
んー……まあ予想通りの反応だけどさ。

憂「ふーん、ポーカープレイヤーなんだ。本当だよ。別に知っているなら知っているって言うよ」
正明「ッハ」
……こいつ平然と人の心読んでくるよな。
脳みそに釘を刺される感覚。
擬態を表面のまま受け入れてしまう相手に、私は敵だとわざわざ教えてくれるクソウザい優しさ。

――ってまあ、今は置いといて、っと。

ラシェルの話だったな。
正明「実はこの辺の裏カジノで、これ。テキサスホールデムで勝ちまくってる外人らしい」
憂「へー。新人さんかな」
憂「ポーカーってニッチだからさ。ある程度有名な人なら大体わかるよ。私の場合は昔の人限定だけどね」
ってことは、やっぱ憂ちゃんも前は最前線でやってたってことか。

憂「今は前と違って強い日本人プレイヤーもどんどん出てきたみたいだけど、私はほとんど知らないかな」
正明「ほーん」
憂「日本最強の人、かなーり強いみたいだよね。なんか小さい子」
憂「なんだっけ。北海道……あれ、あはは。北海道はないか。うん」
憂「えーっと三街道……? ん?」

ポーカーの先生だが、情報には疎い、か。
ってなるとテキサスホールデムの情報持っている知り合いも欲しいな。

正明「ほんじゃ、また明日来るわ。そん時はまたポーカー教えてくれよ」
憂「オッケー! 絶対だよ! お姉さんと約束だからね」

……やっぱりこいつ、暇なだけなんじゃないか?

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