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第2章51話:湖、その後


森を歩く。

しばらくフランカとエドゥアルトが、興奮気味に語り合っている。

湖であった出来事についてだ。

さっきからその話で持ちきりだった。

「ああ……もっとゼラさんと、お話したかったなぁ」

フランカは人魚に出会えた興奮がさめやらない様子だった。

一方でエドゥアルトは、私のことを褒めちぎっていた。

「水中で人魚を倒して、魔力自動回復も手に入れてしまうなんて……ルチル様は、本当にすごいですね」

「そんなに凄くないですわ」

「いえいえ。人魚と知己を得られるだけでも大変な名誉ですよ。尊敬します!」

……あなた、私の取り巻きじゃないよね?

フランカと立場が逆転しちゃってるよ。

まあ、褒められて悪い気はしないからいいけどさ。




さて、夜になる。

森の中で焚き火を囲む。

「ようやく最終目的地の半分あたりまで来ましたわね」

焚き火で焼いた魚を食べながら、私は言った。

フランカが確認してくる。

「たしか、目的地はカルッシャ海岸でしたっけ」

「そうですわ」

するとエドゥアルトが聞いてくる。

「ここからはどういった経路で旅をするのでしょう?」

「明日、すぐ近くにあるケト村に入りますわ。そこを通って山手のほうに向かい、関所を通って侯爵領へ入ります」

「あとは一気に直進して海を目指す形になりますわね」

「私……海には行ったことがないんですよね。だから楽しみです」

フランカが率直な思いを述べた。

エドゥアルトが注意する。

「遊びに行くのではありませんよ。私たちはルチル様の護衛なのですから」

「は、はいっ。承知してます!」

エドゥアルトとフランカの仲も少しずつ変化していっている。

今回はエドゥアルトがフランカを注意したが、逆にフランカがエドゥアルトを注意する場面もある。

すっかり打ち解けたようで何よりだ。

(まあ、旅をはじめてそろそろ一週間だもんね)

一週間も一緒にいれば、それなりに仲良くなるものだ。

私自身、この二人を友人のように思い始めているのだから。




夜が更ける。

テントを張って就寝の準備をする。

ふと、私はおもむろに空を見上げる。

異世界の夜空。

そこには、二つの月が浮かんでいる。

満月だ。

森に蒼い月光を落としている。

田舎の空が綺麗なように、異世界の空も抜けるように綺麗だ。

塵一つない。

美しい光景に、詩情のような思いが溢れてくる。

そんな燦然ときらめく星空を眺めながら、一つ深呼吸をしてから。

テントに入って、眠りについた。


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