第十二話『ハリボテと本物』1/2
◆【リレイズ北村】
憂「だからねー。その時思ったの。私、がんばるんだって!」
正明「あー、そうだなー」
憂「あー、もうねー。あのね。なんか私ってもう死んだほうがいいみたい。なんていうかね。世界から必要とされてないんだよね」
正明「あー、そうだなー」
憂「うわああああああああああん!!!」
憂「おっぽえ!」
正明「やめろ気持ち悪い! トイレまで頑張れ!」
店に来て軽くポーカーのルールを教えてもらったと思ったら、ワインを開け始めてからのこれだ。
相も変わらず客いねーから一緒に酒飲もうと誘ったのがきっかけ。
かれこれ5時間。ちょうどワインの瓶も5本転がっている。
憂「あー、死にたい。うう、ゲロ女って思われた……」
正明「思ってねえよゲロ女」
憂「死のう」
正明「今のフリだろっ!?」
戻ってきたと思うと水ではなく再びワインに手を伸ばす。ちなみにラッパ飲みであるため片付けは非常に簡単であるとか。
正明「んー、どうする? 今日無理そうならオレもう帰るけど」
憂「無理りゃんて言ってりゃい!」
おーおー。ボチボチ出来上がってきてんな。
憂「正明君も、飲んで飲んで飲んじゃって~」
正明「もらってる。もう5杯目だよ」
ただの炭酸水をな。腹がもうヤバイ。
正明「よーっし、じゃあ今日もポーカーやるかー」
憂「うん~! かかってきなさ~い」
正明「でも正直ポーカー飽きたよな」
憂「それならカラオケ行こうよ! ねっ!」
お前ポーカーバー店長だろ。アイデンティティ失うぞ。
正明「んー、レートが安いからやっぱつまんねーんだよな」
憂「いーよー! 上げるよー! いくらでもこーい!」
正明「じゃあ1,000でやるか」
憂「うんー」
レートはいくらか?
麻雀の場合1点=1円をデカピン(地方によっては"ピンピン")と呼ぶ。25,000点ならばざっくり25,000円ぐらい賭けるんだ、とわかりやすいが、ポーカーの場合少しだけ話が変わる。
好きな金額を持ち込める以上、ここで言うレートというのはポーカー用語でバイイン。
バイインとは持ち込み額を指す。
正明「そっちも1,000置けよ」
いつもと変わらないリアクションのまま、淡々とカバンの中から渋沢の束をテーブルに置いていく。
1,000――万、円。
100でくくった10の束。
即ち1,000の渋沢の塊がテーブルの上にトントン積まれていく。
憂「おっけーい」
――あ、
ディーラー側に置いてあるワゴン。
鍵を開けた動作もなく、負けじと平然と雑に積み上がっている渋沢の束。
束、束、束……合計、10。
正明「……」
千の渋沢が対峙する形で出揃う。
ぐ……ッ!
眼の前に置かれたのはオレが細工したのとはわけが違う、紛うことなき本物の渋沢。
泥酔状態の北村憂に紙幣の不意打ち。
完全な不意打ちは、予想外のリアクションは、
……やべえ。
オレは、とんでもないところ場所に入ったのかもしれない。