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第18話 滅びかかった未来を救うためにこの時代に来たやつが最悪すぎて未来とかどうでもよくなった

 未来人ってよく現代に来るじゃないですか。たぶん皆さんも未来人と話したことくらいあると思うんですけど、そういう経験がない人って、未来人に幻想を抱いてると思うんです。

 未来人もね、所詮人間なんですよ、所詮。


〜 〜 〜


「ねえ、今って西暦何年?」

 街を歩いてたら急に声かけられまして、新手のナンパかなって思ったんです。私だってナンパのひとつやふたつ乗り越えてこの歳まで来たわけなんで無視しようとしたら、そいつが私の行く手を遮るんです。

 軽犯罪法違反だよなと思いつつ、そいつを見たんですけど、なんか先進的な服着てるんですよ。イッセイミヤケみたいな感じの。

 私、ここで分かっちゃったんです。あ、こいつ未来人だなって。

「おい、聞いてんのか? この時代の人間って飲み込み悪ぃのかよ?」

 めちゃくちゃイラつく野郎だなって第一印象でした。私、第一印象を大切にしてるんです。だからこそ、自分も振る舞いには気をつけようと思えるじゃないですか。

「今は2025年ですね」

「はー! 2025年ってこんな辛気臭えのかよ! 街並みも死んでんじゃねえか!」

 まず声がデカいんですよ。だから、通行人がいちいちこっちを見てくるわけで、知り合いだと思われたくなかったんですけど、この男、もうガッツリ私をロックオンしてるわけです。

「あの、何か用ですか? 私、今からマイナンバーカードの住所変更しに行かないといけないんですよ」

「なんだよその胡散臭そうなカードはよ?」

 いや、私もそこは同意だけど、手続きしなきゃいけないことには変わりないんですよ。どうせ住基ネットみたいに半端に終わったりするでしょって思いながら使ってますよ、こっちは。


※ ※ ※


「おいおい、この時代って車運転してんのかよ?! バカじゃねーの!」

 ってな感じで、この時代をめちゃくちゃ下に見てくんですよ、このカス。未来人だからっていって人間的に穏やかな人が来るわけじゃないんですね。今のうちにこいつの祖先を殺しとけばこいつ生まれないんだよなってちょっとでも頭をよぎった私は愚かな人間なんでしょうね!

「あの、それでご用件はなんですか? 私、さっさと役所の窓口行きたいんですよ」

「お前さ、オレがいつの時代から来たと思ってんだ?」

「さあ、2250年くらいですか?」

「バーカ、2461年だよ!」

 いや、知らないんだけど。2461年だとえらいの? あと、こいつのこの服の素材感でなんで生乾きのにおいすんだよ? 未来では生乾きのにおい全滅させといてよ。なんて思ってたら、男が語り始めるんです。マイナンバーカードの住所変更手続き、今日は無理かもしれないなとか思いながら、興味なかったんですけど聞きましたよ。

「オレの時代ではよ、ヘル中山ってやつが世界を荒らしてんだよ」

「へー、昭和みたいなネーミングセンスですね」

「ヘル中山のせいで世界は大混乱だぜ。東半球が荒野と化したからな」

 ヘル中山すごいな。|地獄《ヘル》って名乗るだけありますよね。

「調査の結果、そいつは2000年代前半頃に発生した事件のバタフライエフェクトによって生まれたことが分かったんだ」

「あー、めちゃくちゃありがちな設定ですねー」

「設定じゃねえよ。マジで起こってんだよ。まあ、このクソ時代の人間には分からねーと思うがな!」

「あの、こんなに堂々と過去の人間に接触していいんですか? 過去が変わると未来も変わっちゃうんじゃないですか?」

「バカかお前? そんな時代遅れの考え知らねーよ!」

 どうやら、私たちに馴染みのあるタイムパラドックスみたいなことは2400年代には解消されてるみたいでした。これじゃあ、こいつの先祖を殺しても何にもならなそうです、残念。

「ん? ちょっと待ってください。それで過去にやってきたってことは、あなたは捜査機関的なところの人なんですか?」

「当たり前だろ! 過去に戻るなんて一般人がやっていいわけねーだろ」

 こいつを派遣したやつ、どういう選考基準でこいつにしたんですかね? 学校に不良がいると学校全体の評判が落ちるのと同じ理屈で、私の中で2400年代最悪だなって感じてるんですけど。


※ ※ ※


 この辺りになると、私もさっさと役所行きたくて仕方なかったんで、色々考えてたんですよ。こいつを撒く方法を。

「どんな事件を防ぎたいんですか?」

「テネシー高村って男が2376年から持ち込まれた≪白い|光玉《こうぎょく》≫ってやつを盗み出したらしいんだよ」

「なんでネーミングセンスが昭和のままなんですか……。でも、そうですね……」

 ぶっちゃけ、400年後の未来のことなんてどうでもいいんですよね。なんか面白そうな時間と場所のところに行ってもらおうかな?

 色々考えてたんですけど、結局めんどくさくなって、

「あ、テネシー高村だ!」

 って道の向こうを指さしたら引っかかってくれたんで、速攻で役所に行きました。

 役所では、なんかエラーが出たとかでたらい回しにされたんですけど、同じ時代の人ってだけで優しい気持ちになれました。

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