バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

第17話 特殊な任務が課せられた警察の部署かと思ったらただの追い出し部屋なのにみんなやる気に満ち溢れてた

 あの、覚えてる人いるか分かんないんですけど、以前、捜査一課無能係っていたじゃないですか。……いや、いいです、思い出そうとしなくて! そんなことに脳のリソース使わないでください。

 とにかくですね、警察に無能を集めたチームがあるんですよ。そこに|木偶野《でくの》警部と|節穴《ふしあな》刑事っていう2人組がいて、ひょんなことから知り合いになっちゃったんです。

 その2人が、新しいチームが立ち上がったんで見に来いって言ってきたんです。

 銀行いく予定だったんで、その前に済ませとこうと思って行ってきました。

 結論から言うと、あの人たちやばいです……。


〜 〜 〜


「捜査一課特殊任務係へようこそ!」

 私、この時点でかなりやばい空気感じてますからね。だって、この部屋、警察署の敷地内にあるなんかちっちゃい建物の中にあるんですよ? 追い出し部屋に留まらず、追い出し建物なんです。

「あの、ここって……」

 追い出し部屋って単語を無意識に口に出そうとして慌てましたよ。そんなこと言ったら、この人たち人生を悲観して反警察組織を立ち上げそうじゃないですか。…………活動する前に捕まりそうだな。

 木偶野警部が誇らしそうに両手を広げます。部下が7人いるんですけど、まとめてここで朽ちてもらおうっていう警察の算段が見え透いてました。私もその考えに賛同です。

「捜査一課特殊任務係──通称トクニン、というやつです。我々の使命は世間がまだ認知していない事件を探し出し、解決に導くという崇高なものですよ!」

「ええと、それって……。つまり、事件探して来いってめっちゃ雑な……」

「腕が鳴りますよね、木偶野警部!」

 負け惜しみで節穴刑事が言ってんのかなって顔見ると、めっちゃやる気に満ちた表情で、なんかドラマの主人公チームみたいな雰囲気醸し出してんです。それが全員もれなく、ですよ? バカに変な仕事与えるとこうなるんですよ……。

 でも、世の中を良くしたいみたいな漠然とした夢なんかが漂ってて、それできるのは警察署の建物にいる人たちだよって教えてあげたかった。この部屋、蛍光灯もかなり抜かれててちょっと薄暗いんですよね。

「でも、かなり骨が折れそうです」

 節穴刑事が言います。

「どうして? 街を徘徊すれば仕事してることになりそうじゃん」

「気づきませんか? この部屋、パソコンや通信機などの機材がないんです。我々は己の力で道を切り開かなければならないんですよ!」

 お金かからないようにめちゃくちゃ設備抜かれてるじゃん。それをなんか精神論を鍛えるための修行みたいに捉えてて、こういう人たちが真の幸せを掴むのかもしれないと思ってしまった私を殴りたい。

「捜査一課本体からは、我々は特殊任務を遂行するべく少数精鋭になっているため応援を送れないと言われてるんです」

「本体ってことは切り離されてません?」

「そう、切り離すことで、我々は警察ではないと思わせることができるというシステムなんですよ。さすか鈴木さん、いち早くそこに気づきましたか」

「まあ、確かに、ホントに警察に思われたくないっていう気合いは感じますね」

「そうでしょう!」

 胸張ってうなずいてる場合じゃないでしょ、木偶野警部。なんで私はこんな連中と知り合っちゃったんだろう? もっとキャリア組の警視総監の息子みたいな上級国民と知り合いたいよ、私だって。

 そんなこと思ってたら、捜査一課長が姿を現したんです。あれ、意外と目をかけられてるのかなって思ってたら、捜査一課長が厳しい顔をするんです。

「お前たち、いつでもやめていいんだぞ」

 うわー、めちゃくちゃ豪速球投げつけるじゃん。っていうか、じゃあなんで無能係なんて作ったのよ? 殺すために育てるみたいなサイコパスの所業だよ、もう。

 ちょっとみんなに同情しかけてたところ、木偶野警部が眉間に皺を寄せてるのが見えて、ああ、さすがに捜査一課長に立ち向かうんだよねなんて思ってました。

「はい、そういう気概をもって我々トクニン、今日も精進して参ります!」

 たとえ話だと思ってんだ、こいつ。死ぬ気で頑張れみたいな。いや、気づいて〜、捜査一課長は死ぬ気でじゃなくて死ねって言ってんだよ〜! ……捜査一課長も苦笑いしちゃってるよ。

「お前たちには今後なんのサポートもせん! ……ふふふ、いつまで持つかな?」

 うわー、捜査一課長、悪い顔してる。めっちゃ嫌なやつだと思うと同時に、これくらい言わないと通じないもんなっていう謎の共通認識はあるんですよね。

 節穴刑事がビシッと敬礼します。

「見守っていてください! 我々がこの警察署を牽引するその日まで!」

 そんな日が来たらこの世は終わりだよ。

「う、うむ……、そ、そうか……」

 捜査一課長も返す言葉なくなっちゃってんですよ。やめさせるどころかトクニンの連中の刑事魂に火つけちゃってんです。

「よし! では、みんな、街に繰り出すぞ!」

 掛け声をあげてみんな出ていきます。そうだよね、電話とかないからここにいる必要ないもんね。

 静かになった部屋の中で捜査一課長が泣きそうな顔してんです。いや、自業自得だろと思いましたけど、黙ってました。

「はぁ、我々現代人にはああいう神経の図太さ、みたいなものが必要なのかもしれないね、鈴木さん……」

 私たち現代人は何かに追われ、常に結果を求められていて、何か大切なことを忘れてしまったと捜査一課長は言いたいのかもしれないです。

「いや、騙されないでください。あれただ頭空っぽなだけですから」

「あ、そっか」

しおり