第19話 クスリ売ってるキッチンカーの合言葉の設定が甘すぎて取引成立しそうになった
皆さんも合言葉を伝えるとクスリ買えるキッチンカーに遭遇したことあると思うんですけど、あれたまに合言葉の設定が変な時あるんで気をつけたほうがいいです。
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職場近くの公園に最近キッチンカーが来てるらしくて、職場のみんながリピートしてるみたいなんです。気になって昼休みに行ってみると、オーガニック系のサンドを売ってるみたいで良さげだったんで、注文してみました。
「えーと、サラダチキンサンドひとつ。これ、ピクルス多めってできますか?」
まわりの人には変わってるねなんて言われるんですけど、私、ピクルス好きなんですよね。
「ハイ、できますよー。プラス50円になりますけどねー」
感じの良さそうな中東系のおじさんが接客をしてくれました。サンドができあがるのを待ってたら、おじさんがポイントカードをくれるんです。
「いっぱい買ってねー」
商魂たくましいなと思ってたら、ふたつ折りのポイントカードに何か挟まってるんです。ちっちゃいパケ袋に白い粉入ってんです。もう明らかにやばいやつなんですよ。
「いや、あの、おじさん、これ……」
パケを返そうとしたら、おじさんが素知らぬ顔で私の手を押さえるんです。やめとけ、みたいな。そのやりなれた感を見て分かっちゃいましたよね。これ、クスリなんですよ。もちろん、ダメなやつね。そいつをキッチンカーで密売してんです。
おじさん、片方の手をカウンターのうえにのせて、クイクイってやってるんです。金渡せ、みたいな。
「いや、あの、私頼んでないんで」
「合言葉いったでしょ」
「はい? 私がですか?」
「サラダチキンサンド、ピクルスプラスね」
私、耳を疑いましたよ。普通にありえそうな注文がクスリ買う合言葉なんて思わないじゃないですか。
「あの、おじさん、いくらなんでももうちょっと注文からかけ離れた合言葉にしてもらわないと困るんですよ」
「5000円ね」
「いや、だから、買わないってーの」
おじさん、渋い顔をしてるんです。なんでそっちが被害者みたいな雰囲気醸し出せんのよ?
「ハッパの方だった?」
「種類の問題じゃなくて、買わないって言ってんでしょうが」
「ハッパだったら、バジルチキンサンドのチキンプラスって言ってねー」
「なんで偶然引き当てられそうな合言葉なのよ?」
「このご時世売れ行き良くないからね。新規開拓よ」
「ただの押し売りでしょうが。っていうか、ハッパって言っちゃってたんだから合言葉の意味ないでしょ」
おじさんの後ろではもうひとりの男の人が私のサンドを作ってるんですけど、密売仲間ってことですかね?
「バジルチキンダメならポテトにブラックペッパーもあるよ」
このおじさん、買わないって言ってんのに次々とおすすめ出してくるんですよね。グイグイくる観光地のお土産屋みたいな。どこかで私が非合法の一線越えてみようかなって気が変わると思ってんのかな? この服の別の色ありますか、みたいに。でも、もはやちょっと興味出てきちゃいまして、つい聞いちゃいましたよね。
「ちなみに、ポテトにブラックペッパーだとなにが出てくるんですか?」
おじさん、カウンターの下から黒く光る拳銃をチラ見せしてきました。オーガニックサンド屋さんじゃなくて非合法デパートじゃん。各種取り揃えすぎでしょ。闇の商人かよ。
「お姉さんもムカつくやついるでしょ? これでスッキリできるよ」
「ストレス解消に嫌なやつ撃ち殺す人なんていないから。とにかく、おじさん、こんな商売しちゃダメだよ。私は普通にオーガニックサンドを食べたいの」
おじさんがすんごい悲しい顔するんです。
「産地、農法、飼育法、どれもこだわってるよー。おいしいよー、わたしのサンド……」
「そのこだわりがクスリと武器でかき消されてんのよ。もったいないでしょ。自分が売りたいものを胸張って売らないとダメだよ」
「うん、そうだね……」
おじさんもサンド売りたいけど、それだけじゃ生活できないんでしょうね。世知辛い世の中ですよ。ってわけで、おじさんに白い粉を返して、サンドを受け取って、職場に帰りました。
なんだかいいことした気がしたんですけど、次の日、おじさんがキッチンカーで大々的にクスリと銃を売り出してて速攻で捕まってました。いや、売りたかったのそっちかい。