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反乱の勇者 2

「父上!! 何をやっているのです!!」

 我に返ったモモは叫んだ。目の前の光景を認めたくない。夢であって欲しいとさえ思う。

「我が同胞の為だ」

 短くネックは返す。モモは目眩がして呼吸が荒くなった。

「まぁ、長い話は後で聞こうかしら? アシノがやれって言ってるならやっちゃうわよ」

 ルーは精霊を召喚して牽制する。サツキも戸惑いながら剣を構えた。

「こんな事やめて下さい父上!! 今からでも遅くありません、武器を捨てて下さい!!」

 必死にモモは声を絞り出して言う。だが一向にネックとエルフは構えを解く気が無い。

「来い、モモ。成長を見てやる」

 ネックはそう言うが、飛び出したのはサツキとカミクガだ。

「おっと、親子水入らずを邪魔するのはやぼってもんだぜ」

 エルフはアシノの喉元にナイフを突き付けた。重力の魔法から開放された亜人達もアシノを囲む。

「っく、卑怯な!!」

「私が行きます……」

 モモは覚悟を決めた目をしていた。

「モモさん……」

 ムツヤは心配そうに言い、ユモトは悲惨な親子の再開に心を痛めている。

「大丈夫です」

 ふぅーっと息を吐いてモモはネックの元へと走り出した。

 間合いまで入るとモモは縦に剣を振り下ろす。ネックも剣でそれを受け止めると、軽く弾いた。

 次、その次と剣を振るうモモ、だが父親に傷一つ負わせることは出来ない。

 今度はネックが反撃に出る。重い一撃を繰り出すとモモは無力化の盾でそれを防いだ。

「裏の道具か」

 そう言ってネックは剣を自身に引き寄せて突きを繰り出した。

 モモが後ろに飛び退いてそれを躱すと、ブンブンとネックは剣を振るう。

 盾で何とか防いではいるが、一撃一撃が速い。そして、構えている盾の横から蹴りを貰ってしまう。

「盾に頼りすぎているな」

 鎧越しに重い衝撃が身に伝わる。グッと歯を食いしばってそれを耐えた。

「父上、何故この様な事を」

「お前にもいずれ分かる。我らの正義の為だ」

「人質を取って、城に攻め込んで、何が正義ですか!!」

 モモは剣を振り下ろして言うが、また軽々と受け止められる。

「曲がったやり方には、曲がったやり方で対応するしかないのだよ」

 ネックはニッと笑って言った。尊敬していた父親が今は何を考えているのかモモは分からない。

 ただ、とにかく今は止めなくてはと思っていた。

「モモ、だいぶ成長したみたいだな。素直に嬉しく思うぞ」

 と、言った次の瞬間。ネックは剣をくるりと持ち替えて、横薙ぎに峰でモモの腹を叩く。

「だが、まだまだだな」

「ぐふっ」

 その一撃にモモは思わず膝を着いた。

 その頃、エルフの勇者であるトチノハは王の間を目指し走っていた。

 途中で立ちはだかる兵士たちは爆風の魔法で吹き飛ばしていく。トチノハの前には何の障害にもならなかった。

 そんな時、目の前にふと現れたのは。

 この国の大臣であるイグチだ。

 周りには兵士が護衛として付いている。そして、次の瞬間トチノハは目を疑った。

 イグチは睡眠の魔法を周りの兵士たちに掛けたのだ。深い眠りにつく兵士達を見てトチノハは言う。

「何のつもりですか?」

「私はあなたと内緒の話がしたいのですよ。勇者トチノハ」

 トチノハは右手を構えたままイグチを見つめる。

「内緒の話とは何でしょうか、私は王と直接の対話がしたいのですが」

「あの王と対話した所で何も変わりませんよ」

 イグチは笑顔でそう答えた。トチノハは目の前の男の腹積もりを探る。

「それは話をしてみないとわかりませんね」

「話す前からわかっていますよ」

 そこまで言った後笑顔をやめてイグチは続けて言う。

「あの様な愚かな王に何を言っても無駄です」

 トチノハは一瞬、眉をピクリと動かしたが、動揺を悟られないように言葉を返す。

「大臣ともあろう方が王に随分な物言いですね」

「事実なのだから仕方がないでしょう」

 はぁーっとイグチはため息を付いた。時間稼ぎをする為の妄言かと思ったが。

「私が仕えるのは国です。先代の王は素晴らしい方でした……。が、今の王はあまりにも傲慢で愚かです」

「どういうことですか?」

「私はあなた達と手を組みたいのですよ」

「今、なんと?」

「ですから、私…… いや、私達はあなた達と手を組みたいのです」

 トチノハは右手を下ろして話を聞く気になった。

「この国には今の王に不満を持つ層が少なくありません。政界にも、です」

「なるほど、それは納得できます」

「私も今の王にうんざりとしている1人でしてね、なんとかする機会を伺っていたのですよ」

 トチノハは黙ってイグチの話を聞く。

「魔人の襲撃とあなた達の反乱で、王都は、いや国は混乱の最中です」

「えぇ、そうでしょうね」

「だからこそ、そんな今だからこそ、聡明で強い王が必要なのです」

 ふむ、とトチノハは考える。

「あなたはこの国を乗っ取るつもりですか?」

「そんな物騒なことはしません。私が仕えるのはあくまで国。この国の為には新たな王が必要と考えたまでです」

 また笑顔を作ってイグチは話し続ける。

「捉えたキエーウのメンバーはすぐにとは行きませんが、処刑しましょう。罪がそこまで重くないものにも獄中で病死して貰います」

「それは嬉しい話です」

「そして、亜人も裁判とは別に私の裁量で、罪が重すぎると思う者は処刑をするふりをして1人1人と逃しましょう」

 トチノハはイグチの話をどこまで信じて良いものか考えていた。そんな時、イグチは懐から何かを取り出してトチノハの足元へ投げてよこした。

「それは城の地下道の鍵です。そこから逃げればきっと安全でしょう」

 足元に投げられた鍵を拾い上げるとイグチはまた話し始めた。

「そして、私が人質になりましょう。その間に反乱軍を逃して下さい」

「……取り敢えず今は信じますが、もし城から出るまでの間に偽りがあったら、死体が1つ増えることになりますが」

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