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反乱の勇者 3

 トチノハの言葉にイグチは笑顔で答えた。

 イグチの元まで近付いて、兵士から取り上げた手錠で自由を奪う。

 部屋から外に出ると兵士が待ち構えていたが、手錠を掛けられたイグチを見るとたじろいだ。

「少しでも動いてみろ、大臣には消えてもらうし、ついでにあんたらも吹き飛んで貰う」

「くっ……」

 兵たちは全く動けなくなってしまった。

「武器を捨てて離れろ」

 剣と槍が床に捨てられガチャガチャと音が鳴る。



 モモとネックの戦いが終わり、ちょうど連絡石でトチノハから連絡が来る。

「なるほど……」

 光り方は1回長く、3回短く点滅。王には会えず、別の事態が起きたという合図だ。

「皆、我々も向かうぞ!!」

「ムツヤ!!サツキ!! 私のことは良い!!コイツ等を止めろ!!」

 ムツヤは戸惑ったが、剣を構えて走り出そうとした。その時だった。

「そこまでです。我々は撤退します。大臣のイグチ様を人質にさせて頂きました」

 声の方を見ると、勇者トチノハが自由を奪われたイグチを盾に取っていた。

「皆さん、私のことは大丈夫です!! 反乱軍を止めて下さい!!」

 イグチはそう叫ぶが、皆動くことが出来ない。

「大人しくしていれば、誰も傷付ける事はしません。ネック、キヌ、しんがりは任せた」

 ネックとエルフのリーダー格の男はそう言われると頷く。

「同胞よ、私の後を付いてこい!!」

 城の中へと消えていく亜人達、全員が退避した事を見届け、ネックはアシノを担いで走り、エルフのリーダーであるキヌも後を付いていった。

 イグチは小声でトチノハを地下道へ案内する。

 1人がやっと通れる程の階段の先にある寂れた門は、見た目に反して魔法で強化されており、爆破するもの一苦労しそうだった。

 鍵を差し込むとガチャリと開いて、トチノハは先導を切って歩く。

 20分は歩いただろうか、長い通路の先には階段があり、上がってまた鍵を使うと光が差し込む。

 そこから出ると、出ると王都の外だった。

「こりゃ驚いた」

 しんがりのキヌが出てきたのを見てトチノハは号令を掛ける。

「皆、引くぞ。勇者アシノ様、ご無礼をどうかお許しください」

「許すわけないだろ」

 アシノはそう言ってトチノハを睨む。亜人達はどこかへ走り去って行ってしまった。

「大臣殿、お怪我はありませんか?」

「えぇ、大丈夫です」

 アシノが言うとイグチはそう返す。アシノは上半身をグルグル巻きにロープで縛られており、イグチは後ろ手に手錠だけだ。

「私の拘束を解いては頂けませんか?」

 イグチは何とかロープを解こうとするが、固く結ばれたそれを老人の力で解くのは無理があった。

「申し訳ありません、どうやら私の力では……」

「そうですか……」

 そう言った後にアシノは寂れた門にロープをあてて力を込めて上下に動いた。擦り切れさせようとしたのだ。

 だが、頑丈なロープを切るにはだいぶ時間が掛かりそうである。ここは諦めて素直に助けを待つしか無さそうだ。

「大臣殿、あの者達は王の元へたどり着くことは叶わなかったのですか」

「えぇ、応援の軍が来ることを告げたら、私を人質に撤退してしまったみたいです」

「それならば良かったのですが……」

 特に話題が無く。気まずさを紛らわすために当たり障りない話をして10分ぐらい経った時。叫び声が聞こえた。

「アシノさーん、大丈夫ですかー!?」

 地下道の出る先は大臣クラスでしか知らないが、ムツヤの探知スキルのおかげで、思ったより早く見付けて貰えたみたいだ。

「ここだー!!」

 アシノが叫び返すとやって来たのは。

「アジノぜんばーい!!!!」

 半泣きになっているサツキだった。抱きつこうとする彼女からアシノは逃げようとしたが、為す術も無く抱きつかれてしまった。

「アシノ先輩良かったー!!! そして、ぐへ、ぐへへ、やっと私を受け入れてくれましたね先輩」

「このバカー!! アシノ様マジすんません!!」

 クサギがサツキを引き離そうとする。カミクガはその様子を見てクスクスと笑っていた。

「イグチ様、ご無事ですか?」

 ルーが聞くとイグチは返事をする。

「えぇ、何とか」

 ユモトが駆け寄って手錠に魔法を掛けた。

「解錠せよ!!」

 手錠は外れてイグチは自由になる。アシノもヨーリィがナイフで縄を切ったため、晴れて自由の

 イグチを連れて、一行は王都へと戻る。

 急いで城へと向かうと、混乱で兵士達が慌ただしくそこら中を走り回っていた。

「イグチ様、よくぞご無事で……。近衛兵長として不甲斐ない戦いをしてしまった事、なんとお詫びして良いか……」

「良いのですよカミト殿。あなたもよくぞご無事で。あなた方の抵抗が無ければ王の身に万が一があったかもしれません」

 そう言われはしたが、カミトも近衛兵の魔女であるイズミも目を伏せてしまった。

「私から王には詳しい話をします。あなた方は傷の手当てをして下さい」

「承知しました……」

 イグチが言うとカミトとイズミは膝を付いてそう返した。

「アシノ様にも状況説明の為、ご同行願いたいのですが、よろしいですかな?」

「えぇ、構いません」

 そう言って2人は城の中へと消えていった。残されたムツヤ達とサツキ達。

「私達はまた王都の外壁へ戻り警戒をしましょう」

 サツキが言うとクサギとカミクガも頷いて付いていく。

 残されたムツヤ達、皆がモモを心配そうに見上げると唇をギュッと結んで何とも言えない顔をしていた。

「モモさん……、あ、あの、大丈夫ですか?」

「あぁ、大丈夫だ」

 ユモトが心配そうに声をかけると、モモは小さく言うが、大丈夫そうには見えない。

「外壁はサツキちゃん達が警戒してくれてるし、私達は宿にでも戻ろっか。やることも無いしー」

 ルーが頭の後ろで手を組んで言う。一見モモの件に興味が無さそうだが、内心は物凄く心配をしていた。

「わがりまじだ……」

 ムツヤも場の重い雰囲気を感じ取ってそう言うしか出来なかった。

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