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第168話 何処で知ったかタンドリーチキン

 道場に帰った四人を香ばしい香りが包んだ。

「これは……タンドリーチキンかな。なんかエスニックですね?でも、なんで母さんがタンドリーチキンの作り方なんか知ってるんだろう?ネットで調べたのかな?」 

 プレゼントの話を思い出してそう言った誠に、呆れ果てたという顔をしたのはかなめだった。

「キリストさんも一応イスラム教の聖人なのも知らねえのかよ。あと、タンドリーチキンのレシピはおそらく叔父貴経由だな。以前、うちに西モスレムのエースだった隊員が所属していたんだ。その時に料理の作り方を色々野郎共に教えていた。その影響がここに出てきたわけだ」

 かなめは寮ではよく出るメニューであるタンドリーチキンが本当に大好きだった。誠もあのやわらかくも香ばしい不思議な食感にはいつも感心させられていたのを思い出した。

「それはいいけど、なんでカウラちゃんはさっきからにやけてるの?」 

 アメリアの言葉で誠も一人遅れて歩いているカウラに目を向けた。全員の視線が集中すると、恥ずかしそうにカウラはうつむいた。

「あんまり苛めるなよな。なんと言っても今日の主役はこいつなんだから」 

 機嫌良くかなめはそう言うとカウラの背中を叩いた。それにカウラは我を取り戻して苦笑いを浮かべた。

「お帰りなさい!」 

 引き戸の音が聞こえたのか、薫のはきはきとした声が家中に響いた。

「ただいま」 

 ばつが悪そうに誠が言うのを、かなめは薄ら笑いを浮かべながら見つめていた。先日の蟹を入れてあった箱がまだ玄関に置き去りにされていた。それを見て苦笑いを浮かべながら誠は台所を目指して歩いた。

 香ばしい匂いが漂ってきた。いつもの醤油や味噌の香りではなく独特の香辛料の香りに誠はひきつけられた。

「まあ、皆さん一緒で。誠、昼はどうしたの?」 

 薫はエプロン姿の笑顔を浮かべていた。誠は頭を掻きながら渋々口を開いた。

「子供じゃないんだから。食べたよ、蕎麦」 

 誠の照れた表情に笑顔で返す薫はそのままオーブンの中からこんがりと焼けた鶏肉を取り出した。

「おーう」 

 そう唸ったのは予想通りかなめだった。

「これは先に焼いてみたの。ちょっとした実験よ。ヨーグルトベースの汁につける時間が短かったからそんなにやわらかくなってないと思うけど……」 

 自信なさげにそう言う薫にかなめは嬉しそうに頷いて見せた。

「薫さん!早速味見で食べていいですか?」 

 かなめはそう言うと薫が頷くのも待たずに一切れを手に持った。香りを味わい、そしてゆっくりと手を伸ばそうとした。

「西園寺。手は洗ったほうがいいぞ」 

 カウラはそう言ってそのまま立ち去った。かなめはしばらくそちらを見つめた後、後ろ髪引かれながら肉を置いてそのまま台所の流し台に向かった。

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