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第167話 張り切る母親

「でもなんだかオメエの母ちゃんは張り切ってるみたいだったな。かえでの伝で鶏肉がたくさん送られてきたのを見てすっかりやる気になってさあ。邪魔しようとするこいつを台所から追い出して何か特別なものを作るみてえだったぞ」 

 先程まで邪魔者に苛立っていたかなめはすっかり機嫌を直してニヤニヤ笑っていた。その言葉にアメリアは不本意だと言うように頬を膨らませた。

「なによ、その顔。私が薫さんの足を引っ張るとでも言いたいの?私はどんな場所でも役に立つ女なの。かなめちゃんみたいに家事能力ゼロとは違うのよ」

「誰が家事能力ゼロだ!それを言うならカウラもそうじゃねえか。それにオメエの場合やっていることで余計仕事を増やすんだから邪魔以上の存在じゃねえか」

 にらみ合うアメリアとかなめ。いつものこととはいえ、原因が母親なだけに誠は下手に突っ込むわけにもいかず黙り込んだ。

「それに……カウラ。耳を貸せ。今日のパーティーの趣向を教えてやる」 

 かなめはそう言うとカウラを抱き込んで耳元に何かささやいていた。

「二人ともなに?悪巧みか何か?また私だけ仲間外れ。いいもんね、誠ちゃん。二人を置いて先に帰りましょう」 

 いつの間にか到着していた地下鉄へ降りていく階段の前でアメリアは誠の手を取って走り出した。

「馬鹿!置いていくんじゃねえ!切符買え!切符!」

 そのまま誠を連れて改札に飛び込もうとするアメリアをかなめが呼び止めた。

「そうね、切符を買わなきゃね。それにしてもかなめちゃん。さっきカウラちゃんに何を吹き込んでたの?」

 自分の財布をジャンバーのポケットから出しながらアメリアは興味深そうにかなめに尋ねた。

「まあ気にするなって。お楽しみだよ。きっとオメエ等も気に入る奴だ。効果は保証済みだ」 

 そう言うとかなめは切符を自動販売機で買って改札に向った。

「かなめちゃんも秘密主義。さすが隊長をはじめ西園寺家の人間は秘密が多くて困ったものだわ」

 アメリアは黙ってかなめについていくカウラの後ろに続いてそのまま改札を通った。誠もまた、三人のやり取りを見ながらカウラとの二人の時間からいつものにぎやかな時間に引き戻されたことを自覚しながら改札を通って地下鉄の階段を降りていった。

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