第161話 驚く旧友
「彼女は何者だ?あのコースをあそこまで運ぶなんて普通の女子選手じゃ無理な話だぞ」
呆れたような調子で鶴橋は誠につぶやいた。
「いちおう豊川の草野球リーグでは僕の前はエースナンバーを背負ってたからな。他にも今でも上位打線を打ってるから。あのくらいの打球は僕もよく見慣れてるよ」
誠の言葉に鶴橋は頷いた。
「草野球ったってあそこはお前の話だと都市対抗の菱川重工の元レギュラーがゴロゴロいるんだろ?そこでやってるのか。どおりで鋭いスイングをするわけだ。おい!遊びはそれくらいで今度はランニングに行け!坂東!」
叫んだ先には長身の落ち着いた印象の選手が立っていた。
「それじゃあランニングだ!スパイクを履きかえるぞ!」
その言葉からして坂東少年がキャプテンを勤めているらしい。そんな光景を誠は笑いながら見つめた。カウラは物足りなそうに手を差し伸べている小柄な部員にバットを渡すとそのまま誠の方に歩いてきた。
「少しぐらい手を抜いてあげればよかったのに……相手は弱小野球部の高校生ですよ。本気を出す必要なんてないじゃないですか」
部活棟のプレハブの建物に向かってダッシュする誠の後輩達だが、明らかに落ち込んだように最後尾を走っている新見少年を見ながらの誠はそうつぶやいていた。
「いくら相手が格下だとはいえ、手加減をしたら失礼だろ?それに私くらいのスイングをする高校生の打者は五万(ごまん)といるぞ」
「それは……確かに、そうなんですけどねえ」
ようやく興奮が収まってきたと言うようにカウラは静かに誠から受け取ったマフラーを首に巻いた。そんな彼女を温かいほほえみを浮かべていた。