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第148話 蟹の差し入れ

「おい、アメリア」 

「なに?」 

 かなめが身を乗り出して道場の庭に停められたレンタカーとわかるナンバーのマイクロバスを指差した。

「ああ、あれは……なんでサラがこんなところに居るんだ?今日はアイツは仕事じゃないのか?」 

 カウラがそういった瞬間、道場から駆け出してきたピンク色のカーリーヘアーの女性の姿が目に入った。

「カウラちゃん!」 

 運行部のブリッジクルーの一人、サラ・グリファン中尉が手を振っていた。その後ろでは水色のショートヘアーのパーラ・ラビロフ大尉が待っていた。そして彼女等に続いて代わった髪の色のブリッジクルーの女性隊員達がマイクロバスから降りていた。オフなので当然全員私服を着ていた。

「降りろ、神前!緊急事態だ」 

 そう言ってかなめが足を蹴り上げるので誠は状況がつかめないままカウラに続いて車から降りた。

「全く西園寺の足癖の悪さには困ったものだ。人の車だと思って乱暴に扱って」 

 かなめの態度に呆れながらカウラは狭い後部座席から降り立った。

 三人はなぜ彼女達がここにいるのか不思議に思いながらニヤニヤしながら自分達を見つめているアメリアに視線を移した。

「ああ、カウラの誕生日でしょ?たくさんで祝ったほうがいいって非番の人全員出来たのよ。ああ、私は当直が有ったけど、正人に頼んだら技術部の金に困った人と後退してもらったのよ。偉いでしょ」 

 アメリアの隣に並んだサラが満面の笑みでカウラを見つめていた。

「多いほうがうれしいですものね。みんなでお祝いしましょうよ」 

 アメリアは運航部の大半が揃っている状況に満足したようにうなづきながらそう言った。

「オメエ等、仕事の方は大丈夫なのか?」 

 さすがのかなめも心配そうな表情を浮かべた。

「ああ、例の二機のシュツルム・パンツァーの起動実験でしょ?ともかくしばらくはうちはあれにかかりっきりで。運用艦『ふさ』を動かすことは無いだろうと言うことで私達暇だったのよ。でも……」 

 パーラはそう言うと隣のサラを見つめた。整備班班長の島田と付き合っているサラの表情はさすがに冴えないものだった。

「まあ島田先輩は休めないでしょうね。名目だけとはいえ技術部長代理ですもの。今回の起動実験の後始末の全責任は島田先輩に有る訳ですから。これは正月も続けて出勤になりそうですね、島田先輩」 

 誠の言葉を聞くとサラはそのまま静かに頷いた。

「こんなに来てまた道場で雑魚寝か?それに明日じゃねえのか?こいつの誕生日」

 かなめはパーラ達にいかにも厄介者がやって来たと言うような態度でそう言った。 

「だって……明日だと私が出れないでしょ?せめて正人が仕事をしているところを一緒に居てあげたいし。それにいいものが手に入ったんだから。きっと中身を知ったらかなめちゃんの態度も一変するかもよ!」 

 うれしそうにサラはそう言った。確かに司法局実働部隊での数少ない彼氏持ちである彼女は島田とクリスマスくらい一緒に痛いだろうと推測されて一同は苦笑いを浮かべた。

「なんですか?」 

「蟹よ!超高級タラバガニ!こんなことでも無いと滅多に食べられないんだから」 

 アメリアがうれしそうに叫んだ。かなめとカウラはなんとなく納得したような表情でアメリアのうれしそうな顔を眺めていた。

 道場の入り口で手を振る母、薫の姿が見えた。誠は母親に向って突然の来訪者の訪問に苦笑いを浮かべた。カウラとアメリアが冷やかすような視線を彼に向けてくるのがわかった。

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