第133話 昼飯はラーメン
「なんだ?薄ら笑いなんか浮かべて……例のプレゼントが仕上がったのか?」
昼はラーメンだった。どんぶりのスープをすすり上げたかなめがニヤつきながら誠に声をかけた。確かにカウラのイラストを仕上げた誠の気分は良かった。カウラを見て、誠は別にアメリアに頼まれて描いたゲームのキャラデザインの女魔族と先ほど描き上げたイラストが似ていてもどうでもいいと言うような気分になっていた。
「別に……」
「別にって顔じゃないわね。まあ今日はこれからクリスマスの料理の材料を買いに行く予定なんだけど」
アメリアはそう言うと麺をすすり上げる。見事な食べっぷりにうれしそうに誠の母、薫は頷いた。
「お誕生日の料理……でも、オードブルはクリスマスっぽくなっちゃうわよ」
そう言いながらも満面の笑みの母に誠は苦笑いを浮かべていた。明後日のカウラの誕生日会と称したクリスマスを一番楽しみにしているのは母かもしれない。そんなことを思いながら誠はどんぶりの底のスープを飲み干した。
「そんなにスープを飲むと塩分を取りすぎるぞ」
「いいんだよ!これがラーメンの醍醐味だ」
カウラを無視してかなめもスープを飲み干した。体内プラントで塩分ろ過の能力もあるかなめの台詞には説得力はまるで無かった。
「でも鶏の丸焼きは欲しいわよね。なんでもアメリカじゃあ七面鳥を丸焼きにするらしいけど。あんなでかい領土の国だもの焼くのもでかいのがいいんでしょ」
すでに食べ終えてお茶をすすっているアメリアがつぶやいた。
「だったらオメエが買え。止めねえから。七面鳥でもダチョウでもなんでも好きな物を丸焼きにしろ」
かなめの言葉にアメリアが鋭い軽蔑するような視線をかなめに向けた。そんな二人を暖かい視線で見守る薫に安心感を覚えた誠だった。
「結局お前達が楽しむのが目的なんだな?私の誕生日を祝うと言うのは添え物なんだな?」
明らかに不機嫌そうにカウラはそう言った。
「悪いか?オメエの誕生日はついでだついで。アタシ等が家庭の温かみを感じるのが本来の目的だ。アメリアが言うには『ふれあい』が今回の休みのテーマなんだろ?そのくらいの控えめな態度を取れや」
嫌味のつもりで言った言葉をかなめに完全に肯定されてカウラは少しばかり不機嫌そうな表情になった。カウラは立ち上がると居間から漫画を持って来た。
「『女検察官』シリーズね。誠ちゃん。ずいぶん渋い趣味してるじゃないの。誠ちゃんがシリアス劇画シリーズなんて読むタイプだなんて思わなかったわ」
アメリアが最後までとっていたチャーシューを齧りながらつぶやいた。誠のコレクションでは珍しい大衆紙の連載漫画である。
「これは絵が好きだったんで。それとそれを買った高校時代の先輩が『たまには硬派な大人向けの漫画も読め!』って言うもので……」
「ふーん」
アメリアはどちらかと言うと劇画調に近い表紙をめくって先ほどまでカウラが読んでいた漫画を読み始めた。
「クラウゼさん。片づけが終わったらすぐに出るからね」
「はいはーい!」
薫の言葉にアメリアはあっさりと返事をした。誠は妙に張り切っている母を眺めていた。かなめはそのまま居間の座椅子に腰掛けて漫画を読み始めたカウラの後ろで彼女が読んでいる漫画を眺めていた。
「邪魔だ。それでは漫画に集中できない」
「なんだよ!そう邪険にするなって」
後ろから覗き込まれてカウラは口を尖らせた。それほどまでに漫画に夢中になるカウラを初めてみるので誠はなんだかうれしくなっていた。