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第77話 世間話が再開して

「もう仕事の話は止そう。これ以上ここで考えても無意味な話だ。でも安心したな。貴様がこんなになじんでいるとは……本当に」 

 とりあえず仕事の話を終えたエルマは手にしたキンカンをアメリアの真似をしながら口に運ぶ。その言葉にかなめは眉をひそめた。

「なじんでる?こいつが?全然駄目!なじむと言う言葉に対する冒涜だよそりゃ」 

 かなめはそのまま手にしたジンのグラスを傾ける。カウラは厳しい表情でかなめをにらんでいた。

「ほら、見てみろよ。ちょっと突いたくらいでカッとなる。駄目だね。修行が足りない証拠だよ」 

「そうねえ。その点では私もかなめちゃんに同意見だわ。なじむと言うのは私レベルになってから。それ以下はまだ戦闘用人造人間のレベルから抜け出せていないのよ」

「じゃあ、アメリアに言わせるとうちの部隊は全員失格じゃねえか」 

 手を伸ばしたビールのジョッキをサラに取り上げられてふてくされていたアメリアが振り向いた。その言葉に賛同するように彼女から奪ったビールを飲みながらサラが頷き、それを見てパーラも賛同するような顔をした。そこにかなめが茶々を入れて場をしらけさせた。

「そうかな。まだやはり慣れているとは言えないか……私なりになじむように努力はしているつもりなのだが……」 

 カウラは反省したように静かにつぶやいた。その肩を勢い良くアメリアが叩いた。

「その為の誕生日会よ!期待しててよね!初期型ラスト・バタリオンの先輩の企画立案のプランなんだから!一発でカウラちゃんが社会になじむこと請け合いよ!」 

 アメリアは満面の笑みでそう叫んだ。そのあまりの能天気ぶりに誠はすぐにかなめに目をやった。かなめはにんまりと笑い、烏賊ゲソをくわえながらアメリアを見つめていた。

「ほう期待できるわけだ。どうなるのか楽しみだな。アタシも庶民の祝祭日には馴染んでいない口でね、一緒になじませてくれると助かるわ」

 挑発するような口調でかなめはアメリアに向けてそう言った。 

「なるほど。分かった。期待しておこう。確かに一番社会になじんでいるように見えるアメリアの言葉だ。信用してみても良いだろう」 

 納得したようにカウラは烏龍茶を飲んだ。そこでアメリアの顔が泣きべそに変わった。

「なんだか二人ともノリが悪いわね。じゃあ誠ちゃんのお母さんに電話して仕切っちゃうんだから!」 

 そう言うとアメリアは腕の端末を通信に切り替えた。だが、彼女の言った言葉を聞き逃すほどかなめもカウラもお人よしではなかった。

「おい、アメリア。こいつの実家の番号知ってるのか?」 

 かなめの目じりが引きつっていた。隣でカウラは呆然と音声のみの通信を送っているアメリアを眺めていた。

「実家の番号じゃないわよ。薫さんの携帯端末の番号」 

 その言葉で夏のコミケの前線基地として誠の実家の剣道場に寝泊りした際に仕切りと母の薫と話をしていたアメリアのことを思い出して呆然とした。

しおり