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キエーウ強襲戦 3

「許さない、許さないわよ!!!」

 怒りに震えたルーは精霊を取り囲むように多数召喚させた。

「こんな雑魚精霊、どれだけ居ようと無駄じゃんな」

 男は大鎌を振り回して精霊を切り刻む。ルーの攻撃に加勢しようとヨーリィも男に近付いて短剣を鋭く振っていた。

 アシノは何かを考えていた。いくら何でも強すぎる。動きが人間離れしている。それこそ勇者も凌ぐ様な強さだ。

 こんな強さのやつであれば、キエーウに属する前に嫌でも名が有名になるだろうがこの男の存在をアシノは知らない。

「ハハハハ、気分がいいじゃんよー。今の俺に敵なんて居ねぇ!!!!」

 ヨーリィの腕が切られ枯れ葉に変わる。モモは「ヨーリィ!!」と叫んでいた。何も出来ない自分がもどかしく、情けない。

 アシノは更に考えた。そしてたどり着いたのは裏の道具の存在。

 探知盤に映らない裏の道具か、それともムツヤの持つ薬のような何かで身体を強化しているか。

 自分達では敵わないと判断したアシノは連絡石を取り出してムツヤにひっそりと伝えた。

「すまない、私達では手に負えない敵が現れた。おそらく裏の道具を何かしら使っている、引き返してきてくれ」

「わがりまじだ!!!」

 ムツヤからの返事があった。アイツが戻ってくるまでどうにか時間を稼がなくてはいけないとアシノは思う。

「ひゃーはははははは!!!!」

「くっ……」

 ルーの精霊は決して弱くない。1体1体がそこら辺の冒険者よりも強いのだ。それらがいとも簡単に切り捨てられている。

 ユモトも雷の魔法で攻撃をしているが全く当たらない。男はヨーリィの動きにも付いていける。

(考えろ、冷静に考えろ)

 アシノはこの状況をどうにかする事をずっと考えた。考えることしか自分には出来ない。

(今まで、裏の道具には何かしら弱点があった。裏の強力な力には何かしらの代償があった……)

 精霊を出し続けているルーは体の負担が大きいらしく疲弊していた。

 そして、男を見ると、気付いたことがある。

 少しだけ動きが鈍ってきていた。

(まずいじゃんな、もう体にガタが来やがった)

 アシノの予想は当たっていた。男は裏の道具である薬で身体能力を強化していたが、体がそれについて行けなくなってきている。

 そしてルーに向かって一直線に走っていった。

(まずはこのうぜぇ精霊を召喚してる女じゃんな!!!)

 ヨーリィが庇おうとするが間に合わない。まずいとルーは防御壁を張ろうとしたがどう考えても間に合わないと悟ってしまう。

 やられる。

 結果としてルーが切り裂かれることはなかった。何故なら前にモモが盾を構えて立っていたからだ。

 しかし、無力化の盾で防げたのは鎌の柄の部分で、刃はモモの体に食い込んでいる。

「モモちゃん!!!」

「絶対に……」

 モモは荒い息をしながら叫んだ。

「もう絶対に、仲間を傷つけさせやしない!!!!」

「うぜぇじゃんよ!! やっぱクソオークから殺してやるじゃんな!!!」

 男は乱暴に鎌を引き抜こうとしたが、モモが右腕でガッチリと柄を握りしめていて引き抜くのに手間取ってしまった。

 腕は体を中心に内側へ引き込む力は強いが、外へ開く力はそれよりも弱い。それに、男の体は疲弊していたのだ。

 そして、追いかけてきたヨーリィが飛びかかり、男の首を斬ろうとしている。避けるためにはもはや鎌を手放すしか無いと思われたが。

「舐めんな!!」

 男は鎌の柄を両手で握ったまま下に滑り込んでヨーリィをかわすと、そのままの勢いで鎌をモモから引き抜いた。

「ぐうぅ」

 モモは痛みに声を出す。素早く傷口に回復薬をかけると右手で剣を抜いて構える。

「あーもううぜぇうぜぇうぜぇじゃんな!!!」

 男はモモをめちゃくちゃに鎌で斬りつけた。

 無力化の盾を構えているので切り裂かれることは無いが、鎌の先端10センチメートルは容赦なくモモの体に突き刺さった。

 ヨーリィは男の妨害をするために宙を舞い、鎌をかわし、何度も男に飛びかかるも、蹴られ殴られ吹き飛ばされてしまう。

 そして男はニヤリと笑い、しゃがむとモモの足元に鎌を走らせた。

 しまったと思う前に激痛を感じてモモは叫んだ。左足首が完全に切断されてしまったのだ。

「油断しやがったな、とどめだ、死ね!!!」

 男は思い切り鎌を振り上げてモモへトドメの一撃を入れる。

 油断をしたのは男の方だった。

 モモは男が鎌を振り下げるよりも早く。

 右手で剣を突き出した。

「がぁ……」

 それは男の首を正確に貫いて、断末魔と言うより空気の漏れと言った方が正しい最後の声を出して男はガクリと動かなくなる。

「はぁ、はぁ……」

 モモもそのまま、男に覆いかぶさるように、前のめりに倒れる。戦いが終わったことを悟ったヨーリィは歩いてモモの左足首を拾うと、元の場所へとくっつけた。

 瞬間また激痛が走りモモは唸る。

「ヨー…… リィ…… くっつけるなら、くっつけるといってくれ……」

「ごめんモモお姉ちゃん。でも早く薬を飲んだほうが良い」

 モモは薬を取り出すと、ハッとし男に飲ませようとする。アシノはモモのやろうとしている事に気付いて叫ぶ。

「モモ!! やめろ!! まだそいつを拘束していない!!!」

 モモは男を助けるつもりだった。

 首から血を流して虫の息の男を。男に回復薬を掛けようとしたが、なんと男は最後の力を振り絞り、手でその回復薬を弾き飛ばした。

 地面に溢れる回復薬、ユモトが慌ててもう一本だそうとしたが。

 男の瞳孔は開き、心臓は止まった。

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