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キエーウ強襲戦 2

 瞬間、小さい精霊の山から光が漏れた。そして起こるのは……

 大爆発だった。

 閃光になってムツヤに近付いた男はそれを間近で受けてしまい、吹き飛ばされる。

 激しく体を木に打ち付け、手足が吹き飛び、全身の骨が砕け、絶命した。

 遺骸は爆発に巻き込まれ粉微塵になる。

 女召喚術師も、触手を操る男も大爆発から逃れようと走るが、吹き飛ぶ石や木々に全身を撃ち抜かれてボロボロになり。

「いや、やめてええええええええ!!!!」

「ちくしょおおおお来るなああああああ!!!!!」

 巻き込まれた。

 爆発が終わると、ムツヤを中心に何も残らなかった。そう、何も。

 人の気配が消えたことを感じ、ムツヤはギュッと目を瞑った。

 じいちゃんとの約束を破ってしまった。人を殺してはいけないという約束だ。

「ごめん、じいちゃん。ごめんなさい、殺した人……」

 そう呟いてムツヤは目を開いた。アシノはムツヤが人を殺す覚悟ができていないと思っていたがそれは違う。

 仲間を守るためだったらムツヤは修羅になる覚悟をしていた。

 ムツヤは何も知らないわけでは無かったのだ。モモやユモトが仲間を守るために敵を殺したこと。

 全部全部知っていたのだ。

 この世界は残酷だ。事実とは残酷だ。

 でも生きていかなくてはならない。仲間を守らなくてはいけない。

 ムツヤは涙を流しながら、震える手を合わせて敵達を弔った。

 そして、キエーウの支部を目指す。疲れからではなく、気の迷いから呼吸が荒くなる。

 支部へ行けばもっと多くの戦いが始まるだろう。もっと多くの人が死ぬ。

 だが、キエーウを放っておけば多くの亜人の人達が危ない目に遭う。

 守るためには奪わなくてはいけない。

 ムツヤは守りたいものが出来た。

 人の気配が多く感じられるようになった。キエーウの支部がある枯れたダンジョンが近いのだろう。

 ムツヤは走る速度を更に上げた。今だけはこれ以上何も考えられないように、今だけは仲間のために剣を振るうために。

 一方で仲間たちはどうしているかと言うと、遠くで起きた大爆発にそれぞれ武器を強く握りしめていた。

「ムツヤ殿……」

 モモは小さくその名前を漏らす。モモ達には大爆発の正体が敵のものか、ムツヤのものか分からなかった。

 ただ1つ分かることはムツヤが負けることは無いということだ。

「派手にやってるわね……」

 探知盤を見ながらルーは言う。怪しげな影も探知盤に浮かぶ点も無かった。ギルスからの連絡もない。

 誰もが油断をしてしまっていた。気付けなかった。ヨーリィさえも。

 森から音もなく人が飛び出した。それはモモ、ユモト、アシノ、そしてリースの居る後陣の横からだった。

 とっさに反応できたのはモモだけだった。その方角へ向けて剣を構える。

 次にアシノ、ビンのフタを弾き飛ばすがその人間には当たらなかった。

 ユモトは2人の行動を見て察知できた。とっさに防御壁を貼るが、既にその内側へ敵は入り込んでいた。

 そして敵は大鎌を構えて、何が起きた分からないリースを。

 腹から真っ二つにした。




 おびただしい血と共にリースの上半身が崩れ落ちて地面に落ちる。

「リイイイイイィィィース!!!!!!!」

 モモが叫んで近付く、そして回復薬を上半身に振りかけた。

 リースは叫ぶことも動くことも無かった。目を開いたまま、何が起こったか分からないまま、絶命していた。

「貴様あああああああ!!!!!」

 モモは声にならない叫びを上げてその人影の方を見る。

 ユモトはその凄惨さに思わず胃液がこみ上げて口に手を当てた。

「裏切り者には、まず死んでもらうじゃんな」

 男の声だった。ビュンビュンと大鎌を振り回し、血を払うと構え直した。

「俺が憎いか? 亜人。憎しみの連鎖を断ち切るなんて無理じゃんな。こうして簡単に憎しみなんて生まれちまう」

「人を殺しておいて何を言う!!」

 涙を堪えながら剣先で男を捉えてモモは怒る。

「それはお前も一緒じゃんよ。お前は俺の友人を殺した」

 それを言われてモモはハッとした。

「お前が斬った人間を忘れたか? 何でも切れる剣とデカくなる盾を持つ男じゃんよ」

「モモ、話を聞くな!! 戦いに集中しろ!!」

「キエーウの人間はほぼ皆、亜人に恨みがあるじゃんな。これは亜人をこの世から消すまで消えないわけ」

 モモは思い出してしまう。始めて命を奪った男のことを。

 出遅れた、男が鎌を持ち、こちらへ走ってくる。そこへ投げられたのは木の杭だった。

 騒ぎを察知して走ってきたヨーリィが男の前に立ちはだかる。

「例の死体少女のお出ましってわけか」

 ヨーリィが木の杭をビュンビュンと投げるが、男は大鎌を振り回して弾き飛ばす。

「ユモト!! ボーッとするな!!」

 アシノに言われてハッと我に返り雷の魔法を詠唱した。鉄の武器を持つ者は雷の魔法を武器で弾く事も出来ず、躱すか防御壁を貼るかしか防御の手段がない。

「遅いじゃんな」

 男は大鎌を持っているとは思えない速さで右へと走り、雷を避ける。アシノもワインコルクをパァンと飛ばすが当たらない。

 そんな男をモモは剣を持ち追いかけた。まずいとアシノは思う。

「モモ、無理をするな!! そいつは今のお前じゃ歯が立たない!! ルーの加勢を待つんだ!!」

 くっと足を止めて仲間の元へ戻るモモ。

「逃げるのか? 弔い合戦といこうじゃんよ」

 男へ怒りはあったが、理性の方が上回っていた様だ。

 煽りも無視して距離を取って剣を構える。そんな中、森からドスドスと何かが走る音が聞こえた。

「ヨーリィちゃん待って…… って、何てこと……」

 走る大型精霊の上に乗ったルーは、真っ二つになり事切れているリースを見て口に手を当てた。

「ルー、こいつは裏の道具持ちじゃないのか!?」

「えぇ、探知盤には何も……」

 厄介だなとアシノは思った。裏の道具を使わずにこれだけの戦闘が出来るという事は相当の手練れだ。

 だが、どうしてこんな奴がここに居るのだ?

 キエーウが迎撃の準備を進めていたにしても、支部を守らずに自分達の元へこの男を仕向けた。リースの口封じのためだろうか?

 しかし、今は考えていても仕方がないと戦いに集中する。

 ヨーリィが短剣を持って男へ襲いかかる。カンカンキンキンと金属がぶつかり合う音が響いた。

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