第54話 基地祭終わりの帰りがけ
「もうすぐ着くぞ!起きろ。まったく神前は車の中では寝てるか吐いてるかどっちかだな」
怒鳴るような島田の声で誠は目を覚ました。
東和陸軍下志野基地祭で東和陸軍の装備目当てで来たミリタリーファンの視線を奪い取って、注目度で圧倒したのは誠の愛機05式乙型だった。『近藤事件』、『バルキスタン三日戦争』そして『厚生局違法法術研究事件』で次々とメディアに登場したその機体は注目の的だった。
隣に立っていただけで、ミリタリーマニアから単なる近くの住民まで説明や記念写真を求められ、誠は疲れ切っていた。まるでスターにでもなったようだとはいえ、そんなものには興味の無かった誠にはただ知らない人と接して疲れ切っただけだった。
本来は主役であるはずの東和陸軍の兵士達の嫉妬の生ぬるい視線を浴びるのに疲れて、05式をトレーラーに搭載する作業が終わると誠はトレーラーの後部座席で熟睡してしまっていた。
「ああ……」
「大丈夫か?かなり疲れていたみたいだが」
隣に寄り添っていたカウラに気づいて誠は起き上がった。街灯の明かりがその緑色のポニーテールをオレンジ色の混じった微妙な色に染め上げていた。
「ああ、大丈夫ですよ。それより西園寺さんは?」
「ああ、西園寺か。アイツなら貴様の人気に嫉妬して狸寝入りを決め込んでる。困った奴だ」
がっかりしたような表情でカウラが前の椅子に目をやった。手が軽く振られてそこにかなめが座っているのが分かった。トレーラーが止まった。島田が助手席から顔を出して叫んでいた。外を見ると見慣れた司法局実働部隊の基地のコンクリートの壁が見えた。
再びトレーラーはゆっくりと走り出した。誠は起き上がり、乱れていた作業服の襟元を整えた。
「ああ、今日は再起動はしない予定だからな。俺が隊長に報告しておくから神前は帰っていいぞ」
島田の言葉がぼんやりとした頭の中に響いた。不安そうにカウラは誠の顔をのぞきこんだ。トレーラーはそのままハンガーへと進んでいった。
「到着!お疲れ!」
そう言ってドアを外から叩くのはアメリアだった。もうすでに日はとっぷりと暮れていた。定時はとっくに過ぎていた。
「お前暇なのか?」
ドアを開けてかなめがトラクターから飛び降りた。誠も彼女に続きゆったりとした足取りで慣れた雰囲気のハンガーに降り立った。
「失礼ね!さっき東都の同盟機構軍用艦船幹部会議から帰ったところよ……誠ちゃん眠そうね」
相変わらず紺色の長い髪をなびかせながら、珍しいものを見るような視線をアメリアは誠に向けた。島田はすでに待機していた部下達に指示書を渡して点検作業に取り掛かろうとしていた。
「眠いです……今日は人ごみに揉まれて……疲れました」
誠は立っているのもやっとと言うような眠気と戦いながらゆっくりとトレーラーのキャビンから地上に降り立った。