バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

第45話 新たな『超兵器』

「噂は前からあったしな。でも今のタイミングか……第二部隊の機体の納入が遅れるのもこいつが原因か……おそらくは『ビッグブラザー』の目をごまかすために叔父貴が第二小隊の機体の納入を遅らせてこちらの納入を急がせたんだ。まったく面倒な話だぜ」

 かなめは頭を掻きながら輸送予定表のページに目をやり苦笑いを浮かべた。 

「確かに隊長の考えそうな事ね。それを装備して同盟の威信を見せ付けて結束を印象付ける。タイミング的にはばっちりだと思うけど。それに東和の平和を第一に考える『ビッグブラザー』ならその戦力が東和の為になると考えればこの状況を黙って見逃がすと思うわよ。その方が東和の一国平和主義の為には有益だもの」 

 かなめ、アメリアの緊張した面持ちと言葉に誠は興味をひかれた。誠はそのファイルの内容が想像もできず、ただぼんやりの三人の顔を眺めていた。

「ああ、それじゃあ裏取ってみるか……」 

 そう言って腕の通信端末からコードを伸ばして自分の首のスロットに差し込もうとするかなめを見てようやく決心が付いた誠は口を挟むことに決めた。

「なんなんですか?何が搬入されてくるんですか?ヤバい奴ですか?第二小隊の機体が来ないことと関係があることなんですか?それに『ビッグブラザー』が絡んでるんですか?また面倒は御免ですよ!僕は一度『ビッグブラザー』に殺されかけているんですから!」 

 話題に置いて行かれた誠の言葉にかなめは手を止めて呆れたような表情を作った。カウラは額に手を当てて部下の態度に呆れていた。アメリアもまた呆然として誠をじっくりと眺めていた。

「あのさあ、神前。一応聞いとくけど、叔父貴の愛機と言えばなんだ?テメエ知ってるか?」 

 手を休めたかなめの一言。誠は何か考えがあるかなめを意識しながら考えてみた。

「あの人パイロットなんですか?知りませんでした。愛機なんて有るんですか……確かに遼南内戦で活躍したって話は聞いてるんですが、あの人の事だから暗殺とかそう言うことをしてたのかと思っていました」 

 その言葉にカウラは大きなため息をついた。明らかに自分を非難していることがわかるその態度にさすがの誠も頭に来るところがあった。

「お前がうちに居つかなければ05式乙型は隊長が乗るはずだったんだ。まあ『光の剣』は出せないがそれなりの法術は使える。それにあの頃はまだ『ビッグブラザーの加護』があったからな。近藤の旦那には初めから勝ち目はなかったんだ。いくら近藤の旦那がアタシ等を攻撃しても『ビックブラザーの加護』で自爆して終了。あのおっさんもタイミングが悪いと言うかなんと言うか……」

 ため息交じりにかなめはそう漏らした。

「なんですか?新型でも出来るんですか?隊長は現在東和軍の開発の09式をぼろくそに貶してたじゃないですか!能力のすべてを機動力に全振りした07式の配備がこの前の厚生局の事件で僕の05式に一方的にボコ殴りにされたのが原因で中止されて、次期主力シュツルム・パンツァーの研究もほとんどの国で中止している時期にですよ。機動性重視ならコスト面から考えてどこの国だってシュツルム・パンツァーなんてコストの高い兵器を作らずに飛行戦車の数を揃えて戦争した方がマシだって馬鹿でも分かりますよ。そんな時期に隊長の愛機が運ばれてくるって……しかもそれがアメリアさんが言うにはタイミングが良いって理解できないですよ」 

 誠はシュツルム・パンツァー戦において05式の相手が務まらず、即日納入停止が決定した07式特戦のことを思い出してそう言った。

 07式は機動性を買われて東和陸軍制式に採用されたわけだが、シュツルム・パンツァー運用の本質が個別戦闘。いわゆる『タイマン勝負』にあると言うことが明白になった今、シュツルム・パンツァー開発は大きな転機を迎えていた。

 07式と05式のいいとこどりを狙った09式だったが、どうしても正式採用された07式の影響を受けて機動性に重点を置かれた設計がなされており、個別戦闘で05式に対応することは不可能であると言うことで、試作機2機が製造されたのみで開発計画は中断しているところだった。

「だからよ。だからこれを出動待機状態に持ち込むのは効果的なのよ。いまだ個別戦闘で05式に勝てる新型の機体を開発した国はどこも無いわ。今のうちに司法局実働部隊にこれまで存在した最強のシュツルム・パンツァーを二機も揃えてしまえば同盟機構に逆らおうと考える国は出てこなくなる。同盟機構上層部もそう考えたのね」 

 そう言ってアメリアは端末を操作する。注視していた誠の前に見覚えの無い人型兵器のシルエットが浮かび上がった。

「なんです?その機体ですか」 

 その印象的な外観には誠も見覚えが無かった。

 額に打ち付けられた汎用アンテナがまるで平安武者のクワガタのように伸びる姿が印象的な機体だった。誠の05式には装備されていないマルチプル法術空間展開用シールドが肩にぶら下がっている。誠の記憶にはそんなシュツルム・パンツァーは存在しなかった。

「これがついに導入されるのか……封印されたオリジナル・シュツルム・パンツァー……」 

 誠が唾を飲む様をカウラは緊張した面持ちで見つめていた。

「叔父貴の奴。これは投入しないって話じゃ無かったのか?……『特戦三号計画試作戦機24号』……コードネーム『武(ぶ)悪(あく)』」 

 かなめの言葉は誠にはまるで聞きなれない言葉だった。

「『ブアク』?なんでそんな変な名前を付けたんですか?それにその趣味的なデザイン。どう考えても戦闘を第一に考えて作ったとは思えない格好に見えますよ」

 誠はすっとぼけた調子でそうつぶやいた。

「この機体の正式名称は『特戦三号計画試作戦機24号』と言うものでね、先の大戦で法術の可能性に気づいた甲武陸軍兵器工廠。列強。特に甲武は遼帝国との同盟締結以降、遼帝国が『祖国同盟』締結以前にゲルパルト帝国と衝突したアステロイドベルトの紛争で威力を発揮した先遼州文明の決戦兵器『シュツルム・パンツァー』の開発に着手したのよ。だけど、遼帝国の武帝の肝いりで遼が開発した『方天画戟』……まあランちゃんが前乗ってた機体なんだけど、開発コストがシュツルム・パンツァーの量産配備を目指す軍部と政府が対立しちゃうくらいのハイエンド機体なのよ」

 アメリアはそう言って苦笑いを浮かべた。

「まあ甲武の軍は『サムライ』だからな。人型にこだわって装備的には戦闘車両や攻撃戦闘機などに対抗する兵器を搭載しただけの人型兵器である九七式を圧倒的ローコストで開発して装備することになったんだな、これが」

 かなめもまた呆れたような調子でそうつぶやいた。

しおり