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第二十八話 ブレスの使い方

 ノゾミちゃんが帰った次の日に、もうブレスの指南書が届いた。早すぎだろ……。
 その指南書にはリザードマンの体内の仕組みについて詳しく書かれていた。
 リザードマン、およびドラゴンの体には『魔変器官』、もしくは『ガス袋』と呼ばれる器官があるらしい。
 この器官に魔力を込めるとガスを生成できるそうだ。ドラゴンが生成できるガスの種類は三十種に及ぶらしいが、リザードマンは五種類。燃焼ガス、冷却ガス、麻痺ガス、毒ガス、暴風ガス(大気に触れると突風を巻き起こすガス)。
 個体によって生成できるガスの種類は決まっているらしく、耐性を見れば使えるガスの種類がわかるそうだ。

 燃焼ガスは炎耐性。
 冷却ガスは水耐性。
 麻痺ガスは雷耐性。
 毒ガスは毒耐性。
 暴風ガスは風耐性。

 俺の耐性は炎・雷・風・光。つまり燃焼ガスと麻痺ガスと暴風ガスが使える。
 ガス袋の位置は肺の裏。肺に繋がって存在する。ガス袋で生成されたガスは肺を通って口までくる。

「ふむ」

 ガス袋に魔力を込めてガスを生成して、ガスを口から発射する。仕組みはわかった。後は実践して感覚を覚えるしかないな。
 次に俺が羽織っている砂色のマント、喰肉黒衣(スカルベール)のおさらいをしよう。
 喰肉黒衣(スカルベール)のフードを被るとスケルトンになる。さらに闇属性に対して耐性を得て、魔力以外のステータスを半減させ魔力をブーストする。
 実際にこれを使ってステータスを測ってみた。

 ■元のステータス
 力858 耐久2722 敏捷742 運770 生命力900 魔力634
 ↓
 ■喰肉黒衣(スカルベール)装備後
 力429 耐久1361 敏捷371 運385 生命力450 魔力2132

 身体能力は大幅に下がるが、魔力はバカみたいな数字になる。
 正直、減少幅がでかいのでどれだけ魔法を極めようが黒衣なし状態の方が強いだろうな。
 しかしこの黒衣装備状態でブレスを使ったら凄まじい威力になりそうだ。選択肢の一つとして、ブレスと黒衣のコンボは絶対に持っておいた方がいい。俺を戦士タイプだと思って距離を取った敵に対し、超強力ブレスで追撃……これは凶悪だ。

 ちなみに指南書によると成人リザードマンでブレスが使えないなんてありえないらしい。リザードマンはブレスを習わずとも自然と5~6歳で覚えるそうだ。それだけ簡単な魔法、だからこそ魔法センスのない俺にも希望があるというもの。

 暇を見つけたら練習しよう。

 それと喰肉黒衣(スカルベール)は常に身に着けることにした。通常状態、フードを下ろした状態ならばステータスが変化することもないし、これまで腰巻しか身に着けてなかったからちょうどいい肌着にもなる。耐久性も中々だ。
 部屋で指南書を読み終えたところで、部屋の扉がノックされた。

「ダンザ様、お客様がおいでです」

 ヴァルジアさんの声だ。

「わかりました。いま開けます」

 部屋の扉を開ける。

「君は……」
「どうも」

 アイの守護騎士、確かハヅキだったか。ハヅキがヴァルジアさんの影から現れた。
 ヴァルジアさんは一礼し、場を後にする。

「クッキーを焼いてきました。いかがですか?」

 手提げ籠にクッキーが山盛りだ。

「クッキー? ありがたいけど……」

 そんなの貰う仲だっけ?

「焼き過ぎたので、同じ守護騎士であるダンザさんに食べて貰おうと思いまして。これから同じ場所に赴き、同じ役割を全うするのです。これを機に仲を深められれば……と」

 どこか棒読み臭いのは気のせいだろうか。
 しかし断る理由もない。

「いいよ。どうぞ入って」

 部屋にあるテーブルで、向かい合ってクッキーを食べる。クッキーの種類は様々だ。ココアが入った黒色のクッキー、いちご味のピンクのクッキー、バニラ味の砂色のクッキー。ハヅキはココア味が好きなのか、ずっと黒のクッキーを食べている。逆にそれ以外のクッキーには手を付けない。

――食い終わった。

 山ほどあったクッキーを全部食べた。

「美味しかったぞ?」
「そうですか」

 ハヅキは動こうとしない。なぜか居座る。
 何度か話しかけるもほぼほぼ無反応。「はい」とか「そうですね」とか淡泊な相槌だけだ。本当に仲を深める気あるのか?
 時折、万識の腕時計(ワイズウォッチ)を確認している。多分、ステータスとかスキルじゃなくて時間を見ているな。

「……?」

 食べ終わってから約30分後、ハヅキは首を傾げた。首を傾げたいのはこっちなんだが……。

「失礼します」

 ハヅキは唐突に立ち上がり、部屋を出て行った。

「え? なんだったの今の?」

 仲が深まった感覚はゼロ。
 ただクッキーをご馳走になった俺であった。


 --- 


 雨音が響く夜。
 俺はガララ……という音で意識を半覚醒させ、腹に軽い衝撃を受け意識を全覚醒させた。瞼を開くと、俺の腹の上に生足を乗せた少女がいた。最初はユウキかと思ったが違う。髪が真っ白だ。
 白のパジャマを着たアイ=ラスベルシアがなぜかそこにいた。しかもビショビショだ。この体勢からして、俺の腹を蹴りやがったなコイツ。

「ちょっと! 話があるんだけど」

 腰に手を当て、アイは偉そうに言った。

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