第28話 空挺ダーツ①
一階の机に戻る。
俺が降りた時にはすでにヴィヴィとフラムは居た。なにやら植物系の本を2人で一緒に見て……フラムは顔をリンゴのように真っ赤に染めている。ヴィヴィも些か動揺しているようで、視線を泳がせている。
「悪い。遅くなった」
バタン! とヴィヴィが凄い勢いで本を閉じて、机の下に隠した。
「なに見てたんだよ」
「なんでもない。気にするな」
脅迫じみた声で言われたので素直に沈黙する。
疑問符を頭に浮かべつつ俺が席につくと、アランが階段を
「ごめんごめん。ちょっと遅くなった」
アランが席に着き、会議が始まる。
「情報を共有しようか。まずアラン君から」
「申し訳ない。収穫なしだ。僕のところは小説とか神話ばっかりだった」
「じゃあ次、イロハ君」
「ハートの実の入手方法はわかったぞ」
それぞれ僅かに驚き、俺の発言に耳を傾ける。
俺はさっきのユリアの話をそのまま喋る。
「空挺ダーツ、聞いたことはある。詳細はまったく知らないけどね」
「ジブンは初耳ですね……」
あまりピンときてないヴィヴィとフラム。一方でアランはピンときている様子だ。
「空挺ダーツか。大会とかは出たことないけど、遊びで何度かやったことはあるよ」
ヴィヴィがアランに目を向ける。
「詳しく教えてくれるかな?」
「了解」
視線がアランに集中する。
「空挺ダーツは飛行能力を持つ錬金物に跨って、空中でダーツを撃ち合うスポーツだよ」
「ダーツを撃ち合う!? すげぇ野蛮なゲームだな……」
ダーツの先は鋭利に尖っている。肌に当たれば出血する。目にでも当たったら最悪だ。
「安全面を考慮してちゃんと鎧は装備するよ」
「1人で参加できるスポーツなのかな? だとすれば、アラン君に任せられるんだけど……」
「残念。空挺ダーツは2人1組になって参加するスポーツだよ。それぞれ役割があって、1人は空挺――つまりは飛行能力を持つ錬成物を操作するんだ。この操作役を“コントローラー”と呼ぶ。もう1人はダーツ銃っていうダーツを撃ち出せる銃で他のチームを狙う“シューター”だ」
錬金術師の間では、空挺とは飛行能力を持つ錬成物を指すらしい。
空挺操作のコントローラーと銃で他チームを狙うシューターか。
「コントローラーはダーツボードを背負って空挺を操作する。シューターは弾数6発で出来るだけ高得点を狙ってダーツをコントローラーが背負うダーツボードに当てる。得点表は通常のダーツと同じだ。ど真ん中に当てれば50点、20のトリプルに当てれば60点ってな感じでね。シューターが決めた得点マイナスコントローラーが決められた得点でそのチームの成績が出る。それで……」
「待った! ちょっと整理させてくれ」
一気に説明されて処理しきれなかった。
つまり、まとめると……、
・2人1組で参加するスポーツ。
・2人の内、1人はコントローラー、もう1人はシューターという役割に分かれる。
~~コントローラーの役割~~
・ダーツボードを背負う。
・空挺(空飛ぶ錬成物)を動かす。
~~シューターの役割~~
・ダーツ銃で他のコントローラーが背負うダーツボードを狙う。ダーツ銃に装填されているダーツの数は6。
・得点表は通常のダーツと同じ。
・シューターが決めた得点−コントローラーが決められた得点が成績になる。
「えっと、じゃあシューターが20のトリプルを決めても、コントローラーが20のトリプルを他の奴に決められたら、プラスマイナスゼロになるってことか?」
「そう。ちなみに同じポイントに二つ三つとダーツが重なった場合は重なった数だけポイントが分散する。たとえば一つのダーツボードのブル(真ん中)に五つダーツが重なったら、50(得点)÷5(ダーツの数)でダーツを撃ったチーム五つに10ポイントずつ入るってわけだ」
「それなら、弱い人が集中狙いされる心配もないですね」
フラムの言う通り、高得点であるブルや20のダブルやトリプルが埋まってるダーツボードは狙いたいとは思わない。うまく当たってもポイントが分散してしまう。もちろん、その分散を敢えて狙うという手もある。たとえば優勝候補のチームに被せるのは悪い手ではない。
「ルールは理解した。アラン君はシューターとコントローラー、どっちをやってたのかな?」
「基本シューターだったけど、別にコントローラーもできると思う」
「ダーツ銃ってのは使い勝手はどうなんだ? 素人でも扱えそうか?」
「いやぁ、キツイね。僕の空挺である風神丸を持ち出すとして、足場はどうしても不安定になるし、相手は飛び回ってるから狙いは定めづらい」
「なら、アラン君にはシューターをやってもらって、私がコントローラーをやるのが一番いいかな。空挺の動かし方ならわかるからね」
その布陣が一番安定するだろうが、いま空挺ダーツのルールを聞いたばかりのヴィヴィが入るチームじゃ優勝は難しい。
もっと現実的な策が要る。
「なぁアラン。空挺の操縦は短時間じゃ身に付かないモンなのか?」
「いいや、勘の良い人なら一時間あればある程度は動かせるようになると思うよ」
「それならコントローラーは俺に任せてくれ。策がある」
ほう。とヴィヴィがさっきのユリアに似た興味深そうな笑みを浮かべる。
「聞かせてくれるかな」
俺は思いついた策を3人に伝える。
俺の策を聞いた3人の反応は三者三様。ヴィヴィは考え込み、アランは楽し気、フラムは引き気味だ。
「……狡賢いですね……」
「いま、その評価はプラスに受け取っておくよ。フラム」
「しかし悪くないねぇ。これならコントローラーが素人でも十分優勝の目はある」
アランには好評、後はヴィヴィ次第だな。
「そうだね。イロハ君の策でいこう。他に手もない」
ヴィヴィの一言で方針決定。
シューターはアラン、コントローラーは俺に決まった。
「それで、他の二つの夢魔草とシャインアクアについては誰か手がかりは掴めたのかな?」
アランが尋ねる。
「夢魔草の図鑑はフラム君が見つけてくれたよ」
「じゃあ見せてくれよ」
俺がフラムに言うと、
「だ、駄目です!」
と、なぜか強烈に拒否された。また頬を染めている。
「君たちが空挺ダーツをやってる間に、私とフラム君で夢魔草を採取する。それでいいね? フラム君」
「は、はい! もちろん、問題ないです!」
なぜか詳細を話したがらないヴィヴィとフラム。
「まぁ、手に入れられるんならいいけどよ」
気にはなるが、追及しても答えてくれる気がしないので諦める。もしかしたら、さっきヴィヴィが隠した本が夢魔草が載っている図鑑だったのかもしれない。なにか訳アリの草なのか?
「シャインアクアはみんな手がかりなしか?」
俺が聞くと、ヴィヴィが肩を竦めた。
「私の担当階にはなかった」
「ジブンもです……」
アランはさっき収穫なしと言っていたし、シャインアクアだけは一切情報なしか……仕方ない。
「とりあえず最優先はハートの実と夢魔草の確保だ。イロハ君とアラン君は早速空挺ダーツの練習に入ってくれたまえ。私とフラム君は夢魔草を採取した後でシャインアクアの情報収集を続ける。異論はあるかな?」
ヴィヴィは全員の顔を見渡す。
みんな『異論なし』って顔だ。
「じゃあ、動こうか」