第29話 空挺ダーツ②
目的はもちろんハートの実だ。それを取ることが最優先。
目的のためには手段を選ばない……だからと言って、過程を楽しんじゃいけないってわけじゃないだろ。空挺ダーツ、何度呟いても馴染まないその競技を俺は楽しみにしていた。
「でっかいな。ここがランティス競技場か」
目の前の巨大施設を見上げて俺は言う。
天井がない円形の建物だ。
「あそこが受付かな?」
女性陣と別れた俺とアランはランティス城下町の西側、海に近い所にあるランティス競技場に来た。入口では明日行われる空挺ダーツの受付をしている。
俺とアランはささっと登録を済ませた。生徒手帳を見せるだけで簡単に登録完了だ。ユリアが言っていたように、そんなガチな大会じゃなさそうだ。
「はい。これでイロハさんとアランさんの登録が完了しました」
そう言って受付の女子生徒は書類に判子を押した。制服のサブカラーが黄色なので二年生だろう(一年生は赤)。
「今日って競技場は開放してるんですか?」
アランが聞く。
「はい。今日は大会を開催していないので自由に使って大丈夫ですよ」
「ラッキーだね。イロハ君、先に入ってて。僕は一度帰って風神丸をもってくる」
「わかった」
アランと一旦別れ、1人で中に入る。
競技場の中心にはステージのようなモノがあり、その周囲を囲むように座席がある。
空挺に乗って飛び回る生徒や、銃を構えてダーツを発射し、設置された的に的中させる生徒の姿が多く見える。間違いなく、明日の空挺ダーツの参加者たちだろう。
アランが来るまで暇だし、他の参加者たちの動きを観察するか。
1つの空挺に2人で乗り込み、縦横無尽に空を飛び回る。あの速度で動く相手にダーツを当てるのは難しそうだな。
ダーツ銃の見た目は普通の拳銃と大きな違いはなく、通常の銃より色がファンキーでカラフルってだけだ。発射されるダーツの速度は凄まじく、気づいたら的に刺さってる。見て躱すのは無理だろうな。
「お待たせ!」
アランが来た。脇には丸めた空飛ぶカーペット風神丸、手には大きな麻袋を持っている。
「風神丸と道具一式借りてきた」
アランが麻袋を開いて中を見せてくる。
麻袋の中には鎧や兜、ゴーグル、ダーツボード、ダーツ銃が入っていた。これを片手で運んでくるとかコイツの腕力はゴリラか。
「この鎧は空挺ダーツの競技服か?」
「そうだよ。できるだけ実戦に近い形で空挺に乗った方が良いと思ってね」
「同意見だ。着替えよう」
空挺ダーツの衣装である鎧と兜とゴーグルを装着する。アメフトの装備に似ているな。
重いな。どうせ俺が動くわけじゃないし、問題は無いか。
「これ、ダーツボードはどうやって背負うんだ?」
「中に磁石が入ってるから、鎧に近づければくっつくよ」
アランの手を借りて背中にダーツボードをくっ付ける。
うん、あまり重くはないな。
アランも鎧姿になる。アランは両腕が義腕だからか、腕の部分は鎧を装備しないようだ。
アランが風神丸を広げた。
俺は風神丸の上に乗り込む。
「まずは1人で飛び上がってみて。ほら、そこにマナドラフトがあるでしょ?」
風神丸のマナドラフトに右手を合わせ、マナを注入すると、一瞬で風神丸が浮かんだ。
「おっとと!」
「マナドラフトから風神丸へマナとイメージを引っ張り込んでくれる。君のイメージ通りに風神丸は動くはずだ」
「コイツはいいな! 思ったより簡単に動かせる!」
右へ、左へ、上へ、下へ。自由気ままにイメージ通りに動いてくれる。
ただあまり無茶なイメージをすると静止してしまうようだ。気を付けないとな。
「よしよし。コツは掴んだ。アラン、お前も乗っていいぞ」
「……あはは、まだ10分も経ってないのに凄い上達ぶり……恐ろしいね」
アランも風神丸に乗せ、飛び上がる。
少し動きが重くなったが、問題なく動かせる。
「おーっ! いいね! 揺れも少ない。これなら安定して的を狙える」
「あとはもうちょいスピードが出せれば……」
「――!? イロハ君! 上だ!!」
アランの声の誘導で空を見上げる。真上から――鉄の塊が降下してきた。
「あぶねっ!!」
俺は全速で空挺を飛ばし、回避する。
襲ってきたのは船のような形をした空挺だ。空挺に乗っている2人の男子生徒はバカにした目つきで笑っていた。
「悪い悪い! ちっこくて見えなかったぜ!」
「でもお前らが悪いんだぜ? 俺達の縄張りに勝手に入ってくるんだからよ!」
嘲笑と一緒に船型の空挺は去っていく。
「なんだアイツら……」
俺は去っていった船を睨みつける。
「君たち! そっちは危ないよ! ジュラーク兄弟の領域だ」
遠くから、巨大な本の形をした空挺に乗った男子生徒が注意してくる。
俺は注意してきた男子生徒(制服のサブカラーが青いから三年生)に近づく。
「ジュラーク兄弟って、アイツらのことですか?」
遠くで暴れている船型空挺に視線を向けて言う。
「そうだよ。君たちは一年生か、なら知らなくても無理はないね」
「有名人なんですか?」
「……アイツらは空挺ダーツのスペシャリストなんだ。最近の大会はアイツらの無双状態だよ。二学年コントローラーのギギと三学年のシューターガガ。アイツらに逆らうと大会で狙い撃ちにされるから、誰も注意できないんだ」
「ふーん」
アランは依然、温和な表情だが、漏れ出た声には多少の殺気がこもっていた。
それからジュラーク兄弟の縄張り外で練習を積んだ。
日が暮れたところで引き上げる。
「凄いねイロハ君、もう僕より風神丸の扱いが上手くなってる」
アランと2人、帰り道を歩いていく。
「後はお前の銃の腕次第だな」
「そこの心配はいらない。同世代の人間に武具の扱いで負ける気はしないね」
その言葉に嘘はないだろう。
ダーツ銃を軽く試し撃ちしていたけど、全部狙ったところに飛んでいた。……武器の手慣れ感が別格だ。こと戦闘に関しては同世代の人間じゃ太刀打ちできないかもしれない。
「君の操縦の腕に僕の銃の腕があれば、普通にやっても上位を狙えると思うよ」
「そこに俺の作戦がハマれば、トップは十分狙えるか」
「うん。面白くなってきたね」
準備万端、とまでは言わないが、最低限の予習はできた。
後は明日、全力を尽くすまでだ。