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第41話 衝撃の告白

 さ、さすがはれっちゃん。

「ここまで見越してカードを揃えていたのかよ……」

 素直に凄い。一分(いちぶ)の望みも残さないやり方。
 これはコメント欄も称賛で埋まる。

『も、もう一回出せばどうせ同じだよ!!』

 もう一度ルーレットを回す羽目になったかるなちゃま。さすがに声に焦りが見える。

『それはない。2回連続で同じ目を出す確率がどれだけあると思ってるの?』

 かるなちゃまはもう一度ルーレットを回す。

《出したらやばい》
《ここで出すのがかるなちゃま!》
《出た方が面白いけどな~》

 だが、出た目は――6。

『はい、おしまい――』

 とれっちゃんが勝ちを確信した瞬間だった。

――誰かがWチャンスカードを使った。

『はぁ!?』

 かるなちゃまじゃない。今、かるなちゃまに手持ちカードはないはず。
 れっちゃんでも当然ない。
 カードを出したのは青組のイナヅチちゃんだ。

『イナヅチ先輩!? な、なんで……!』

『ごめんねれっちゃん。ここは撮れ高的に、かるなちゃまに1を出してほしいんだよねぇ~。それにかるなちゃまが1を出してくれれば、ボクの勝ち目も出てくる』

 うおおっ!
 この展開は熱いぞ!!

『ありがとうございますイナ先輩!!』

 運命のルーレット3回目。
 かるなちゃまがルーレットを回す。

「こい、こい、こい……!」

  Vチューバーは歌が上手くても、トークが上手くても、人脈があっても上手くいくとは限らない。
 トップVチューバーになるために必須な要素、それは天運。

 かるなちゃまはそれを持っているのだと、俺は改めて確信した。

『うっそでしょ……』

 かるなちゃまが出した目は、1。

『きたぁ! きました! 1です! 1が出ました!!』

 ハクアたんも興奮で声を荒げる。

《うおおおおおおおおおおおおおおっっ! 盛り上がってきたぁ!!》
《ヅッチーナイスアシスト過ぎる!!》
《これは熱い》
《風呂抜いてきた》

 燃え上がるコメント欄。
 かるなちゃまが止まったパネルは、新衣装パネル!

「そうか! 新衣装パネルなら!!」

 新衣装パネルに止まると衣装が変わるのだ。かるなちゃまの変身ムービーが流れる。
 かるなちゃまの巫女服に羽衣がつき、髪には黄金の(かんざし)が添えられる。
 新衣装になるとプラス効果が倍になり、マイナス効果が半分になる。覚醒モードって感じだ。本来はそれだけ。だが、かるなちゃまには特別な固有スキルがある。

『革命チャンス発生! 革命チャンス発生!』

 システム音声が鳴り出す。

『月鐘かるなの固有スキル“月の巫女”により、月鐘かるなが新衣装に着替えた場合、相手を一人選び、その相手と一対一のミニゲームをすることができます! 勝負で勝ったプレイヤーは負けたプレイヤーの登録者数を半分奪うことができます!』

 ――コメント欄は今日一番の盛り上がりを見せた。

『ちょ、ちょっと! なにこの盛り上がり! ウチが悪役みたいな!?』

『もちろん、選択するのはれっちゃんだよ!!』

 画面にかるなちゃまとれっちゃんだけが残される。
 それでもミニゲームでれっちゃんが負ける可能性は低い。にもかかわらず、この盛り上がり。完全に流れはかるなちゃまにある。

 ミニゲームがランダムに選ばれ、表示される。対戦するミニゲームの名をハクアたんが読み上げる。

『ミニゲームは……“アカ髭危機一髪”です!』

 エグゼドライブ一期生にアカシアというVチューバーがいる。そのアカシアちゃんを黒ひげ危機一髪の黒ひげ役にしただけで……黒ひげ危機一髪とルールは変わらない。アカシアちゃんが閉じ込められた樽に交互に剣を刺していき、アカシアちゃんが飛び出たら負けというルール。

 つまり、完全な運ゲーである。

『完全な運ゲーじゃんか……さいっあく』

『条件は同じだよ、れっちゃん』

 この勝敗によって、間違いなく大運動会の結果は決まる。

『……』
『……』

 盛り上がるVチューバーたち。
 盛り上がる視聴者たち。 
 SNSで、この大運動会がトレンド一位になった頃、ゲームは始まった。


 --- 


『マジ運ゲー嫌い』

 大運動会後の6期生反省会にて、れっちゃんは不満を吐露する。
 結局、あのゲームを制したのは天に愛されたかるなちゃまだった。

『まぁまぁ、大運動会は今までで一番盛り上がったからいいでしょ』

 ハクアたんがフォローする。

『かるなちゃまが凄かったぽよね! あそこで1を引き当てるなんて驚いたぽよ!』

『うん、でも……総合結果は2位だったけどね』

 そう、かるなちゃまは見事すごろくで優勝したのだが、総合結果1位はすごろくで2位だった青組だった。かるなちゃまをサポートしたイナヅチちゃんが所属する組だ。

『だーはっはっは! み~んな頑張ったみたいだけど残念だったね! 優勝はこの私が所属する青組が貰ったり!!』

 ヒセキ店長は前半組だったため後半はいなかったが、ヒセキ店長は青組だった。しかも前半でヒセキ店長はめちゃくちゃ活躍していたため、文句なしの優勝だ。

 ちなみに最終結果は一位青組、二位黄色組、三位赤組、四位緑組だ。

 ベストな結果だったかもな。あのままかるなちゃまが逆転優勝も熱かったけど、さすがに最後で全部逆転っていうのは多少の理不尽さを感じなくもない。緑組があのまま勝ってもノーマル過ぎるし、ずっと二位だった青組が、かるなちゃまを援護した青組が優勝という形は綺麗に丸く収まっている。

 間違いなく今回一番目立ったのはかるなちゃまだったし、だいふくとしては満足だ。

『じゃあそろそろ反省会もおひらきにしようか』

『もうお腹空いた~』

『だね。ウチら後半組は夕飯食えてないし、ハクアに至っては昼飯もまだなんじゃない?』

『マジっすか!? ハクアご飯食べてないの?』

『軽食はちょくちょく挟んでたよ~。でも私もお腹空いたよ』

『今日のMVPは司会の二人ぽよね!』

『ありがとぽよちゃん。それじゃ最後に例の報告をして、終わりにしようか』

 例の報告、これが綺鳴が言ってたやつか。

『6期生より、皆様にご報告があります』

 唾をごくり飲み込む。
 さて、一体どんな告白なのか……。

『私たち6期生は全員現役高校生です。それは前から言ってたと思うのですが、実は皆さんに隠していることがありまして』

 ハクアたんがそこまで言って、次にヒセキ店長が、

『ほら、みんなに6期生は別々の高校って言ってたでしょ? あれ嘘なんだ~。ごめんね』

 は?

『ぽよよもヒーちゃまも、実は女子高じゃなくて共学ぽよ』

『そうそう。私もかるなもハクアもヒセキもぽよよも、実は()()()の通りでね』

 最後に、かるなちゃまが話す。

『私たち6期生はみんな、全員同じ高校に(かよ)ってます! 今まで嘘ついていてすみませんでした!!』

「え?」

 待て。待て待て。
 え? えぇ?
 どういうことだ。頭の中がまとまらない……。
 だって、綺鳴はウチの高校に居るんだぞ?

 それで? 6期生が全員同じ高校ってことは、ってことは……どういうことぽよ?

『なぜ隠していたかと言うと、もし一人が高校を特定されると残りの四人も特定されるっていうリスクとかがあってですね、他にも多くのリスクがあったので黙っていたのですが……みんな嘘つくのが難しいとなったので、公表に至りました。特にヒセキとぽよちゃんがきつかったみたいで』

『だって私たち女子高設定だよ!? 女子高あるあるとかめっちゃ聞かれるけどわからないし!』

 俺の脳内もぐちゃぐちゃだが、コメント欄もぐちゃぐちゃだ。

《別にその程度の嘘どうでもいい》
《リスクがあるのは納得。特定厨はどこにでもいるし》
《つーか6期生全員いる高校とかやばない!?》
《同じ高校のやつ幸せ過ぎるだろ……》
《↑どうせ気づいてないけどな》

 俺の頭の中は完全に処理落ち状態。

「どどどどどどどういうこと? 嘘、だよな?」

 とりあえず、俺はある一人の少女にメッセージを送った。

《次の日の朝、視聴覚室の前で待つ》

――と。

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