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「お疲れ様でした、お先に失礼します」
仕事を終え、同僚や先輩たちと共に更衣室にやって来た私は周りが楽しく会話を楽しんでいる中、黙々と帰り支度を整えて一人その場を後にした。
ドアを閉める直前、
「相変わらず、愛想がないよね、あの人」
同僚の一人がそう口にしたのを耳にしてしまったけれど、構う事なくドアを閉めて歩いて行く。
私は
兄弟はなく、両親は私が大学進学と同時に飛行機事故で亡くなり、祖父母も幼い頃に他界している事から数年前から天涯孤独となった。
幼い頃から本が大好きだった事もあり、大学時代は本屋でアルバイトをし、卒業後は公立図書館で司書として働いている。
人と接する事があまり得意ではなく、真面目で大人しい性格と周りから言われてきた私は気の利いた冗談なんかも言えず、職場でも一人浮いていて陰口を叩かれる事もしばしば。
どこへ行っても心を許せる人に出会えず、友達と呼べる人も特にいなければ、恋人もいない。
傍から見れば、きっと私はつまらない人間なんだと思う。
けれど、これからも生き方を変えるつもりはない。
私は両親が亡くなったあの日から、一生一人で生きていく覚悟すら決めているのだから。
職場の図書館から自宅までは徒歩で約二十分程。
いつもの様に黙々と歩みを進めていると、見慣れない建物が目に入ってきた。
(こんな所に、建物なんてあったっけ?)
住宅街に、ひっそりと佇む一軒の建物。
不思議な事に、いつも通る筈なのに見覚えがない。
「……何だろう、凄く、気になる」
若干の不安はあるものの、どうしても気になって仕方がない私は、まるで導かれるようにドアに手を掛けて開けて店内へ足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ」
奥の方から店主らしき人の声が聞こえてくるが、姿は見せに来ない。
(不用心な店だな……)
そう思いながらも辺りを見回して見ると、どうやらここは雑貨屋のようで様々な雑貨が所狭しと並んでいた。
「可愛い……」
客もなく、店主も姿を見せない中、軽く店内を物色し始めた私。
すぐ近くの棚にある小さなオルゴールが目に入ってきた。
「……どんな音色なんだろう」
この建物を見つけた時同様、何故だか無性にこのオルゴールが気になり、更には音色を聞きたくなってしまった私はゼンマイを回して音を鳴らす事に。
すると、
「なっ!何!?」
ゴオォォォという地鳴りの様な音と共に突然強い揺れが起き、驚いた私は手にしていたオルゴールを落としてしまう。
「あっ!」
オルゴールを拾おうと手を伸ばした、その瞬間、
「きゃっ!」
辺り一面白い光に包まれ、眩しさで目を瞑った私の記憶はここで一旦途切れてしまった。