第五章: 劇の準備と脚本作り
放課後、翔馬が提案した話し合いの場は、教室の一角で行われた。机をいくつか並べて小さな輪を作り、集まったメンバーたちは次々と自分の意見を出し始めた。
「まずは、イベントのテーマを決めるべきだな。」宇俊が切り出した。「謎解きなら、具体的なストーリーとか設定があった方がいいだろう。」
「ストーリーねえ…どんなのがいいんだ?」規が腕を組みながら呟くと、意外にも誓が静かに口を開いた。
「…例えば、古い学校に隠された秘密を解く、とか…。その方が教室を使いやすいんじゃないかな。」
誓の案に、一瞬静寂が訪れる。普段、発言が少ない彼がアイデアを出したことに驚きつつも、みんなの表情には納得の色が浮かんでいた。
「それ、いいじゃん!」ノリトが声を上げた。「廃校みたいな雰囲気を演出すれば盛り上がるし、ちょっと怖い感じも出せそうだな。」
「ただの謎解きじゃなくて、ちょっとホラー要素を混ぜるのも面白いかもね。」一海が賛同するように頷いた。
翔馬はノートにメモを取りながら、話をまとめていく。「じゃあ、設定は『廃校に隠された秘密を解く』で決まりだな。次は具体的な仕掛けや問題を考えよう。」
「問題を作るなら、頭を使うものと体を動かすもの、バランスが必要だと思う。」胤命が冷静に指摘した。「頭ばかり使うと飽きるし、体力だけだと単調になるから。」
「なるほど、それはいい視点だな。」翔馬が頷くと、太起が手を挙げた。
「俺、体を使う系の仕掛けならアイデアがあるぞ。例えば、暗い中で隠された物を探すとか、制限時間内にクリアしなきゃいけないとか。」
「それなら俺も手伝えるな!」ノリトが張り切った声を上げた。「俺、こういう体を動かすイベント得意だから。」
一方で、一海が思案顔で口を開いた。「頭を使う問題なら、パズルや暗号みたいなのがいいんじゃないか。廃校の設定に合う古い書類とか、黒板に書かれた謎とかさ。」
「それいいね!」翔馬が即座に賛成した。「じゃあ、一海には問題を考える役をお願いできるか?」
「わかった。静かな作業だから向いてると思う。」一海は頷いた。
そうして次々と役割が決まっていった。誓は翔馬から進行役を補助する役を提案され、最初は戸惑いながらも、「やってみる」と小さく答えた。その姿を見た太起が、軽く肩を叩いて励ました。
「誓、お前がいると翔馬も助かるだろ。がんばれよ。」
その言葉に、誓は少しだけ微笑みを浮かべた。
一方で、和綺は遠巻きにその様子を見ながら、少し不満そうな表情を浮かべていた。
「みんなで盛り上がるのはいいけど、正直めんどくさいよな…。」和綺がぽつりと呟くと、それを聞きつけた公博が冷静に返した。
「お前が参加しなくても誰も困らないけどな。」
その辛辣な一言に、和綺はむっとした顔をしたが、それ以上は何も言わなかった。
翔馬は全員の意見をまとめ終えると、手を叩いて話し合いを締めくくった。
「よし、これで準備の方向性は決まったな。具体的な作業に入るのは明日からにしよう。みんな、今日はありがとう。」
話し合いが終わり、生徒たちはそれぞれの思いを抱えながら席を立った。教室を出ていく一海や誓の背中を見送りながら、翔馬は小さく息を吐いた。
(クラス全員を巻き込むのは、思った以上に大変だな。でも、これが俺の役目なんだ。)
その夜、翔馬は家でノートを開き、計画を練り直していた。ペンを走らせながら、ふと窓の外を見上げる。静かな夜空には、いくつもの星が瞬いていた。
(明日はもっと、みんなが楽しめるようにしよう。)
翔馬の心には、リーダーとしての決意が一層深まっていた。