第四章: 次なる提案(文化祭の劇)
翔馬の提案が教室中に広がると、ざわざわとした声があちこちから聞こえてきた。
「イベントって、何やるんだ?」
「全員参加とかだと面倒だな…」
「まあ、悪くないかも。」
生徒たちの反応は様々だったが、何となく前向きな空気が漂っていた。教卓の前に立つ翔馬は、その一つ一つの声に耳を傾けながら、口元に小さな笑みを浮かべていた。
「そうだな、まずは何をするかを決めないとな。」翔馬が腕を組みながら言うと、後ろの席からノリトが声を上げた。
「俺、フードファイトとかいいと思うぞ!男子校だし、盛り上がるだろ!」
その言葉に教室の数人が笑い声を上げたが、翔馬は軽く首を振った。
「ノリト、お前が全部の料理を食べ尽くすだけになりそうだな。それだとイベントじゃなくてただの食事会になるぞ。」
ノリトは肩をすくめ、「それも悪くないけどな」と笑った。そのやり取りに少しだけ和やかな雰囲気が生まれるが、宇俊が低い声で口を開いた。
「せっかくのイベントなら、みんなが楽しめるものでないと意味がないだろう。どうせやるなら、頭を使う何かがいいんじゃないか?」
「頭を使うって?」規が興味深そうに問いかけると、宇俊は少し考えてから答えた。
「例えば、脱出ゲームみたいなやつだ。クラス全員で協力して、謎を解いて進むみたいな。」
その提案に、生徒たちの間から「おお、いいじゃん」という声が上がった。一海も静かに頷きながら、「それなら自分もやれることがありそうだ」と内心で考えていた。
しかし、その時、教室の前列に座る胤命が手を挙げた。「俺は賛成だが、準備が大変そうだな。イベントを作り上げるまでの計画が必要だ。」
翔馬はその言葉に頷き、机の上にあったノートを手に取った。「その通りだ。だからこそ、役割分担をしようと思う。」
教室の空気が少し引き締まった。翔馬の声には、何かしらの説得力があった。
「例えば、問題を考える役、物資を用意する役、進行を担当する役…。それぞれ得意なことが違うから、無理なく分担できるはずだ。」
「進行役とか、翔馬がやればいいんじゃね?」ノリトが軽く言うと、翔馬は笑顔で答えた。
「もちろんそのつもりだ。ただ、俺一人じゃ全員を動かせない。手伝ってくれる人が必要だ。」
その瞬間、少しだけ躊躇いながらも、一海が手を挙げた。
「俺も手伝おう。…静かな作業なら得意だし、何か必要なことがあれば言ってくれ。」
翔馬は一海に視線を向け、頷いた。「ありがとう。一海がいれば心強いよ。」
そのやり取りを見ていた誓は、机に視線を落としながら、小さな声で呟いた。
「…僕も、できることがあれば。」
その声に翔馬が気づくと、満面の笑みを浮かべて言った。「誓、お前が参加してくれるなら、何でも大丈夫だ。一緒にやろう。」
誓は恥ずかしそうにうつむいたが、少しだけ顔を上げて小さく頷いた。その様子を見ていた太起が、にやりと笑いながら言った。
「おいおい、俺も協力してやるよ。昼と夜の俺を使い分けてな。」
教室が笑いに包まれる中、翔馬は改めて口を開いた。「よし、まずは具体的な計画を立てるところから始めよう。放課後、希望者で集まって話し合おう。」
そうして、クラス全員を巻き込んだイベントの準備が、ゆっくりと動き出した。その背後では、それぞれの生徒たちが抱える思いや性格が少しずつ浮き彫りになり、クラスの中で新たなつながりが生まれ始めていた。