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第三章: イベントの本番

学級委員に選ばれた翔馬は、教卓の前に立ちながら、まだざわついているクラスを見渡した。彼の表情は、どこか達観したような落ち着きと、自分の役割を理解した覚悟が混ざっているようだった。
「みんな、まずはありがとう。俺が学級委員として選ばれたけど、これは俺一人で何とかする役職じゃないと思う。みんなと協力して、少しでもいいクラスにしていければいいなと思ってる。」
翔馬の大げさな言葉に、一部の生徒たちは失笑しながらも、どこか真剣に耳を傾けていた。だが、後ろの席に座るノリトは手を挙げて、軽い調子で声を上げた。
「翔馬、お前が学級委員になったからには、俺たちの悩み事も全部解決してくれるんだろ?例えば、昼休みに食堂で席が取れない問題とかさ!」
その場に笑いが広がるが、翔馬は冷静にノリトを見つめた。
「ノリト、それは学級委員じゃなくて食堂の職員の仕事だろ。でも、そういう提案があれば話し合ってみるのも悪くないな。」
「真面目か!」とノリトが突っ込むと、さらに笑いが起きた。
そんな雰囲気の中、宇俊は静かに腕を組んだまま、無表情でそのやり取りを眺めていた。彼は自分が選ばれなかったことについて特に悔やむ様子もなく、ただ冷静に翔馬の振る舞いを観察していた。
「まあ、翔馬ならやれるだろうよ。」宇俊がぼそりと呟くと、隣に座る規が耳を寄せてきた。
「お前も何か手伝えよ。俺たちでフォローしないと、翔馬もすぐに潰れるぞ?」
「俺にフォローなんて期待するなよ。自分の意見を押し通すのが得意なんだ。」宇俊は少し皮肉っぽく笑ったが、その目はどこか温かみを帯びていた。
一方で、教室の前列に座る一海は、自分の席に深く腰掛けながら静かに視線を下ろしていた。彼はクラス全体の雰囲気を読み取りながら、頭の中で何かを思案していた。
(翔馬が学級委員か…。確かに、あの大局を見通す力はクラスをまとめるには適しているかもしれない。でも、何かが足りない気がする。)
その時、一海は自分の斜め後ろから聞こえてくる小さな声に気づいた。誓が消え入りそうな声で呟いていたのだ。
「…俺には無理だったな。もし立候補していたら、クラスを混乱させてしまっただけかもしれない。」
一海は振り返り、誓の背中に視線を向けた。誓の肩は小さく震えているように見えたが、一海は特に声をかけることもなく、ただ静かにその姿を見守った。
「誓、お前にはお前のやれることがあるさ。」隣に座っていた太起が、不器用ながらも励ますように声をかけた。誓はその言葉に一瞬だけ顔を上げたが、すぐにまた視線を落とした。
そのやり取りを見ていた翔馬は、クラス全体を再び見回しながら、心の中で一つの決意を固めた。
(俺が学級委員になった以上、全員が何かしらの形でクラスに貢献できる場を作ってやる。それが、学級委員としての俺の最初の仕事だ。)
「じゃあ、まず最初の仕事だ!」翔馬は教卓に手を置き、はっきりとした声で言った。「来週、クラスで初めてのイベントを企画する。何ができるかみんなで考えよう。」
教室内が再びざわつく中、それぞれの胸に新たな期待と不安が芽生え始めていた。

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