顔合わせ
ユブメのとこは三人パーティーだそうだ。
リーダーはスライルっていう男で、魔法が得意。
もう一人はアクアミラっていう男で、斧を武器としているらしい。
二人ともまあまあ長い間冒険者をやっている。
俺も名前くらいは聞いたことがあった。
冒険者歴は二人とも5年。
俺は3年くらいだから、二人は先輩だ。
ユブメはスカウトされたらしい。
知らなかったんだけど、ユブメって魔法の才能がめっちゃすごくて有名なのだそうだ。
今まで聞いた話を頭の中で思い返しながら俺はギルドに向かって歩いていた。
誰にぶつかることもなく。
最近はなんだかスリをする気になれない。
ゼオルたちのパーティーを抜けてから、なんだか調子が悪い。
クビになった直後は習慣的にスリもしてたけど、だんだんやる気がなくなった。
俺は今でも自分のしてきたことを後悔はしていない。
俺は幸せになりたかっただけなのだ。
それを否定されるのはおかしいと思う。
でも……最近ちょっとずつ自分の心境の変化を感じる。
俺は今更心を入れ替えるつもりなのだろうか。
今までの行いを反省するつもりなのだろうか。
……。
流石にそんなわけないか。
俺は多分ずっとこんな生き方をしていく。
長年の居場所を失ったことで動揺してるだけだ。
俺は善人になるつもりなんてない。
そう自分に言い聞かせて足を動かしているうちにギルドに到着した。
今日は顔合わせも兼ねてクエストをやる。
ギルドに入ってユブメたちを探してみると、すぐに発見することができた。
向こうも俺に気づいた。
近寄って挨拶する。
「こんにちは。今日はよろしくお願いします。シラネって言います」
「ああよろしく。俺はリーダーのスライルだ」
細身で長身の男が手を差し出してきたのでその手を握った。
次にもう一人の男も
「僕はアクアミラ。よろしくね」
と言って同様に手を出してきたので握手した。
「私はユブメです」
「うん。知ってる。よろしく」
「はい」
最後にユブメと握手した。
「さて。今日は俺たちが普段やっているクエストにシラネを交えて向かうわけだが、先に言っておきたいことがある」
リーダーであるスライルが真面目な顔をして俺のことを見てきた。
俺は背筋を伸ばして聞いた。
「俺たちは弱い。少なくとも俺とミラーはな。あ、ミラーってのはアクアミラのことだ」
「シラネ君も良かったら僕のことミラーって呼んでね」
アクアミラはニコっと笑った。
俺はとりあえず頷いておいた。
「ユブメは若くて才能のある冒険者だが、俺やミラーは今まで特別な成果を上げたこともない。正直言ってゼオルのパーティーにいたようなシラネからすれば退屈で仕方ないかもしれない」
「別にそんなことないと思いますけど」
俺が社交辞令的にそう答えると、スライルは微笑みながら首を横に振った。
「きっと退屈さ。だけど、もし今日一緒にクエストをして気に入ってくれたら、是非ともこのパーティーに入ってくれ」
俺は一瞬放心状態になった。
相手側からここまではっきりパーティーに入ってくれと言われることは珍しい。
スライルが真っ直ぐに目を見ながら言ってきたことも相まって俺はたじろいでしまい
「あ、はい。了解っす」
と、なんだか適当な返事をした。