03. 異世界の食事
首の長い
地面が揺れている。正直に言うと、見付かる前に隠れてしまいたかった。だが、翼竜が背負っている巨大な背嚢は、
しかし、視界に入る十頭全ての翼竜が背負っているから、そこまで高価な袋では無いのだろう。狩猟難度が低く、有り触れており、肉や骨に使い途が有り、更に皮が食用に適さない生物と言えば……直ぐには思い付かない。地球の古代生物か、この世界固有の生物か。例えばファンタジーなスライムが原料の可能性も考えられる。動物の革に見える植物や、ひょっとすると魔法で創り出された素材かも知れない。
そんな見たことの無い飛行生物が、不釣り合いな大袋を
内心びくびくしつつも、丘を降りる隊列に黙って着いて行く。翼竜達の視線を追うと、その先には肉塊があった。場所により桃色が残る肉塊は
私達の先頭にいる少女が声を上げた。恐らく「帰ったぞー」とかそんな内容だ。ホースで散水する様に、肉塊のあちこちに杖を向け炎を吹き付けていた男が、こちらを振り返り嬉しそうに杖を振った。
「pnv yfng ugenqvf wvgh anļh?」
うねうねと杖から伸びる炎が揺れている。先頭の少女……いや、この隊を取り
「Jnfxngvrf, švf ce grfvwn! nnf ce xnhqm fnoāxf lrmhygāgf hrxā atnļn!」
数頭の翼竜がちらりとこちらを見るが、直ぐに肉へと視線を戻した。隊長の声が聞こえたのか、ちらほらと隊員が姿を見せ始めた。私達が肉を焼く焚き火に到着する頃には、三十余人が集まっていた。いくら隊長とは
五人が肉塊を切り分け、三人が地面からテーブルと椅子を生やし、隊長がその表面に氷を張った。土で服を汚さない為だろうが、身体が冷えそうだ。いや、そろそろ異常気象も治まって暑くなり始めたから丁度いいのか? 食事の準備でさえ隊長自ら魔法を使うとは、氷魔法への自信が見える。先程の大規模な気象現象も、隊長の魔法だったのだろうか? あの魔法は、この肉を調達する為だったのか? それよりも、私はこれからどうなるのか? ……ああ、言葉が通じないのは不便だ。目の前には事情を知っている人が沢山いて、一言でも聞ければ一発で状況が解るのに、それが出来ない。独りであれこれ推測して、その後、答え合わせが出来るのかも分からない。
隊長に背中を押され、隣の席に着いた。ぼうっと皆を眺めていると、輪切りの肉が木製の平皿に乗せられた。ステーキだ。付け合わせは無く、メインディッシュだけが次々とテーブルの上に並べられる。ナイフとフォークは、箱の中から各自で取っていた。どのタイミングで行こうか迷っていると、隊長と私の前にさっと置く人がいた。焚き火で肉を焼いていた人だ。隊長を挟んで、私の反対側に座ったところを見ると、副隊長のポジションに就いているのだろう。にこにことして私に話し掛けているが、内容は解らない。
全員がテーブルに着いた辺りで、隊長がナイフを持ち、ステーキを切り出した。遅れて皆も食べ始めたので、私も口に運ぶ。久々に食べるまともな食事を味わおうと、口の中で何度も噛み
……やはり、魔法か。誰かが嫌がらせをしているのだ。この何も無い丘陵地で突然現れた言葉の通じぬ不審人物が、隊長の傍でのうのうと食事を
向かいに座る副隊長は、杖から炎を出してカリカリに焼いた肉を、バリバリと音を立てて食べていた。その横に座る隊長を見ると、杖から水を出して、胃に流し込んでいた。
こうして私は、肉を柔らかくする魔法の開発を、固く決意した――。