01. 異世界の空
遥かなる地平の果てに、大空と大地を分かつ境界線が引かれた。昇る太陽は草原を色付け、空の高さを映し出す――。
私がこの世界に現れ、初めの三日は歩き通した。
「先ずは南中高度を……いや、地軸の傾きが……公転 が……?」
「取り敢えず
「この星の地磁気はどうなって……?」
GPSは
「太陽の軌跡に背を向けて歩けば、涼しいところに行けるのでは……?」
「暑すぎなければ、多分……動植物も豊富だろう」
こうして
辺りは樹木の無い草原だが、今は降雨の有る季節らしい。時折見掛ける水溜まりに、胸を撫で下ろす。現在の装備は、例の薬を飲んだ時の
入念に計画し、トレーニングを積み重ねた上で挑めば良かったが、私の世界旅行は無計画に強行された。故に世界
「思い立ったからネットで調べてみた。取り敢えず現地に行って、プロに習えば良いか」
この程度の覚悟で出発した。一応、乗り物の移動中は、キャンプ関連本に目を通し、熟練のガイドにも会った。そして最後は、森の奥深くへと一人乗り込んだのである。結果的に異世界へと
遠くまで移動した身体は、どこも凝り固まっていた。早々に身体を休ませようと、私は満天の星を見上げて
絶えず鼓膜を刺激する虫達の鳴き声は、地球とそう変わらない。耳を
……空に見える星々は、どれ一つとして覚えが無い。美しい夜空が、仕舞い込んだ不安を呼び起こす。脳裏に老人の言葉がちらつく。
『元の世界には帰れない』
地球とこの世界が、
あの時、異世界へ行けると聞いた私は即答していた。どうして詳しい話を聞かなかったのか、いやいや、今更後悔しても
……止まらない負の感情から逃れようと、潜思の
移り行く星空を見て、気付いた事がある。この星の自転速度だ。それと、自転軸にも
それにしても、生物に適した星が此処に有ると、地球の研究者に教えたらどんな顔をするだろうか。知っても調査出来ないのだから、
この世界に人がいて旅をするなら、やはり目指すのは、あの星だろうか。太陽を目印に移動している私が言えた事ではないが、この土地は半島や孤島かも知れない。この先には何も無く、大陸の終端になっているかも知れない。未知の世界を旅するのに、恐ろしさは無いのだろうか。
気付けば、あれほど私に執着していた虫達が、その羽音を消していた。星に届かなかった手を、焚き火に
地球の学者達は、世界に輪郭を定めた。数多の事象を観測し、それらを説明する理論を組み立てた。それでも、世界の原点は観測出来ず、理論についても、
光に惹かれる本能が、虫を焚き火へ導く。遠くから飛んできた勢いそのまま、パチッ……その行動に疑問を持たなかったのだろうか。
ペンがあれば絵を描けるが、描かれた絵が私達を見る事は無い。その眼には、物を見る機能が無いからだ。同様に、PCを操作するには、マウスとキーボードを使う。そして、描かれた絵とPCの決定的な違いだが、それは、カメラやマイクを接続出来る事だ。故に直接、私達を見聞きする手段を得られる。
地球のあらゆる分野は研究を尽くされたが、その中に魔法は含まれていない。そして、聖人と呼ばれる者達は、奇蹟を扱ったと云う。既存の物理法則で創造者を認知出来無いのならば、残る可能性は魔法である。
しかし、仮にこの考えが正しかったとして、創造者に
……いや、正確には想像の
自ら回る世界は、夜空に映す星々を入れ替える。しかし、ただ一つ、揺るぎ無い星が残される。偶然そこに位置した幸運と、世界の動きに影響され無い姿を眺める。
「明日は、あの星へ向かって歩こうか」
そして、孤独な旅が終わる――。