バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

 一行は荷物をまとめ、恭介の家を出た。
「それじゃ、いよいよ出発だね」
「お、いよいよですか! 最初はどこに向かうんですか?」

「魔王のとこに向かう前に行かなきゃいけないところがあるんだよね」
「ヴォルペを集合場所にした理由なんだけど、ここで武器を作ってもらう予定なんだよね」

「武器ですか?」
「そうなんだよー。なんかそういう職人さんがいるの」
「素材は持ってるからそれで作ってもらうんだ」
「何を作ってもらうんですか?」

「僕は刀だねー。今持ってるやつじゃ先生にすぐ折られるだろうし」
そういってけいはパーカーの前についているポケットに右手を突っ込んだ。
ポケットから少し手を引き抜くと、その手には刀の柄が握られていた。

「え!? どうなってるんですかそのポケット!?」
「言ってなかったっけ? 日向の空間魔法でこのポケットいっぱい収納できるようになってんだよ。みんなの服もズボンのポケットとかそうなってるよ。大和の服もさっき日向が空間魔法を施してたからそうなってると思うけど」

「え? あ、ほんとだなんか広い」
ポケットに手を突っ込んでみると、どこまでも入る。
「すご! さすが魔法! ……いいなぁ。俺なんか状態異常を治すとかわけわからんことしかできないのに」
「それ長いからなんか名前つけようよ」
「あー確かにいいかもですね。そしたらちょっと愛着わくかも」

「そうねー。……正すってことで、コレクトは?」
「言いやすいし良いですね! ちょっと親しみがわいたかもです。そういえば他のみんなは何を作ってもらうんですか?」
「私は武器いらない」
「天姉は素手だもんね」

「私は杖や」
「僕も杖だね」
「あ、魔法っぽいですね。そういやさっき素材は持ってるって言ってましたけど、何の素材で作るんですか?」
「ゲートの素材だよ」

「ん? ゲートって裏世界に繋がってるっていうゲートですか?」
「うん。あれ壊せないんだよね。壊せないように神が設計したらしい。すっごい丈夫なの」
「壊せないならなんで持ってるんですか?」

「昔先生がくれたの。なんかあった時のためってね」
「はぁ。じゃあコザクラさんは何で持ってたんですかね?」
「先生がゲートぶっ壊したからね」

「……はい?」
「壊せないはずのゲートをぶっ壊したの。まぁそれが魔王が誕生した一番の原因だって言われてるけどね。先生が各地のゲートを壊してまわってたから、やばいと思った神は魔王を誕生させたっていう説が有力なんだよね」

「……ほんとコザクラさんは規格外ですね。あ、そうだ! 武器といえば、勇者にしか抜けない剣とかないんですか? 俺一応勇者なんですし」
「あったんだけどね……」
恭介は気まずそうな顔をする。

「あった?」
「召喚された勇者にしか抜けない、地面に刺さった剣はあったんだけど、先生が折っちゃったんだよ」
「……折った?」
「そう。先生にも抜けなかったんだけど、あの人ちょっと力入れすぎたみたいで、ポキッと」
「剣身はまだ刺さってるけど、まぁ役に立たないだろうね」

「……」
「お、落ち込まないでよ。ほら、元気出して。餅食べる?」
「……いらないです。俺は元気です。……ところでさっきから気になってたんですけど」
「ん?」
「この狼と狐はなんなんですか?」
恭介の家を出てからずっと狼と狐がついてきている。

「あーこいつらは僕と恭介のパートナーだよ」
けいは狼を撫でながらそう言う。
「パートナー?」
「えっと。説明が面倒なんだけど、どっから説明しようかな……恭介に任せた」

「僕とけいの実家は神社なんだよ」
「へぇ! なんかすごいですね」
「けいの実家は狼を祀る神社で、僕の実家はお稲荷様、つまり狐を祀る神社なんだよね」
「ふむふむ」

「それでまぁ祀ってる狼と狐に気に入られたみたいで」
「じゃあこの子たちは神様ってことですか!?」
「まぁ神ではあるんだけど正体は魔力だからねー」
「正体が魔力?」

「うん。神っていっても、この世界を作ったようなレベルの神ってわけじゃなくて。んーなんて言ったらいいのか」
「強い想いには魔力を生み出す力があるっていっただろ? これがその一例なんだよ」
「……つまり想いによって生まれた魔力がこの子たちの正体だと?」

「そう。この世界を作った神、ノケデライオって名前なんだけど、そいつは人を作った神。こいつらは人が作った神。人々の信仰、強い想いが魔力となって神が生まれたってこと」
「魔力は神さえも作ってしまうんですね」

「魔力だけあればいいってわけじゃないけどね。人の想いがあったから、魔力に意識が芽生えて神になったんだよ」
「まぁだから神っていってもノケデライオみたいに世界を作るようなとんでもない力を持ってるわけではない。あくまで信仰の対象って意味の神」
「それでも心強いですね」
「そうだね」


 その頃、ノケデライオは世界を眺めていた。
「最近はずっと放浪しておるな」
ノケデライオが見ているのは、小野寺桜澄だ。

神の住む世界、天界。
そのとある場所で、ノケデライオは大量のモニターをデイトレーダーのように見ていた。

「ゲートの素材を媒介に四人の下僕を作ってからは、ずっと世界中を歩き回っておる」
この小野寺桜澄という人間には随分困らされた。
一人で世界の均衡を崩したり、壊せないように作った二つの世界を繋ぐゲートを壊したり。
ほんと困ったものだ。

「ん?」
小野寺桜澄が映されているモニターがおかしい。
こっちを見ているのだ。

「は? ここは次元の異なる世界なんだぞ。知覚できるわけがないのだが……」
小野寺桜澄は無表情でこちらを見つめている。
表情から何も読み取ることができない。
ただじっとこちらを見ている。

突如、画面いっぱいに小野寺桜澄の顔が映し出される。

「うわぁ!」
鋭い眼光に、画面越しでも殺意が伝わる。
小野寺桜澄は数秒そのままで、その後また何事もなかったように歩みを再開した。

一瞬だったが、小野寺桜澄から殺意に満ちた目で睨まれたことは、ノケデライオにとって忘れられない出来事になった。

「……本当に面白い男だ」
ノケデライオはまた世界を眺め始める。

しおり