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可能性

 けいたちは古びた建物にたどり着いた。
「ここだよー」
「なんか雰囲気ありますね」
「お邪魔しまーす」

建物の中に入ると爽やかな感じの青年が床の掃除をしていた。
「いらっしゃいませー。あ、恭介さんこんにちは。じいちゃんは下で作業してますよ」
「わかった。みんな、こっちだよ」

恭介に案内されて地下へと続く階段を下りる。
「恭介はここの常連なんですか?」
「そうだねー。ちょくちょく武器を頼みにくる。ここは結構幅広く取り扱ってるから。そうだ! 大和もなんか作ってもらうといいよ」
「そうですね。せっかくなんで頼みたいと思います」

階段を降りた先には厳ついじいさんがいた。
「こんにちはー」
「お、来たな。待ってたぞ。ん? 恭介含め四人だと聞いてたが」
「どうも。俺は大神大和といいます。事情があってみんなに同行することになりました」
「そうかそうか。んであんたもお客なのかい?」

「はい! 日本刀を作っていただきたいです」
「よしわかった。恭介、素材は持ってきたな?」
「はい。これです」
恭介はゲートの素材を袋から取り出す。

「はー。これがゲートの素材か」
「どうですか?」
「そうだな。……問題ない。任せとけ」
「良かったです」
「そんで何がご所望だい?」

「僕も日本刀をお願いしまーす。刃渡り七十センチくらいの。大和もそんくらい?」
「あ、はい。相場を知らないので、けいと同じでお願いします」
「私は杖やな。二十五センチ」
「僕は錫杖を。百六十五センチでお願いします」
「わかった」

「杖は杖でも錫杖なのか」
「しゃくじょう? なんですかそれ」
「えっとねー。こんなの」
恭介がスマホの画面を大和にみせる。

「あー。これ僧侶の人とかが持ってるようなやつですか。しゃらしゃら音がなるやつ」
「一週間もらうぞ」
「はい。お願いします」
「早いですね」
「まぁ魔法を使って作るからな」


 その後店を出て一行は歩き出した。
「てっきりもうこの国を出発するものだと思ってました。荷物まとめましたし」
「武器ができるまでの一週間でやんなきゃいけないこともあるんだよ。この国のお偉いさんと交渉しないといけないの」
「なんの交渉ですか?」
「先生と全面戦争になったときに協力してもらうための交渉だね」

「はぁ。確かに魔王と交渉決裂になった時は人類だけでコザクラさんと戦うことになりますもんね」
「これまでも国際魔法連合の人たちは各国に協力を要請してきたんだけど、どの国にも断られ続けてるんだよね」

「どうしてですか?」
「現状を理解してるお偉いさんからしてみれば、先生とやりあっても勝算がないことが分かってるからだろうね」
「でも戦わないと結局全滅じゃないですか」

「いくら小野寺桜澄といえど天使を殺すことはできないだろうって考えてるんでしょ。自分たちの国に攻撃してくれば迎え撃つけど、自分たちから攻撃はしたくないってことだろうね」
「勇者を選んだのは最小限の犠牲で済むようにってこともあるんだろうな」

「んー。なんだか悲しいですね」
「十中八九断られるだろうけど、まぁ上の人からの命令だし一応交渉してみないとね」
「もどかしいですね。さっさと魔王のとこに行く方が賢明な気がします」

「急がば回れだよ。焦らず冷静でいることが大事なの」
「俺は何の役にも立たないですね」
「まぁその通りだけど、一週間のんびりして良いわけじゃないからね?」
「え?」
「大和は修行。とっとと強くなってもらわんと」
「あ、そうですよね。頑張ります」


 この日は新幹線でこの国の首都に向かった。
「えーっと。普通に都会ですね」
「そうだな」
「よし。とりあえず今日宿泊する場所まで行こうか」
「どこに泊まるんですか?」
「旅館。結構良いとこ」

「都会の中の旅館ですか。なんかいいですね。ファンタジー感はやっぱりないですけど」
「野宿したいか? 大和だけ野宿でもいいぞ」
「いいえ。文句言ってごめんなさい。そういやここは首都ってことでしたけど、ここはヴォルペなんですか? ルーポなんですか?」
「一応ヴォルペなんだけど、この国はその二つの地域でかなり揉めてるからね。あんま往来でそのことに言及しない方がいい」
「分かりました。気をつけます」


 旅館に着いた。
なんだか和を感じる。
「ん? そういえばなんで旅館が? ここ日本じゃないのに」
「先生の影響だね。英雄小野寺桜澄はほんとすごい人気だったんだよ。それで当時世界中で日本ブームが起こったんだけどその名残だね」
「なるほど」


 旅館の中も和風な装飾が施されており食事も和食が出された。
「いや~おいしかったですね」
「ああ。味噌汁最高だった」
「天姉一緒に温泉行こうよ」
「お、いいな。ほんじゃ私たちは温泉行ってくる」
「わかった」
天姉と日向が温泉に向かった。

「よし。それじゃ僕たちは今から修行だ」
「今からですか? もう外は真っ暗ですけど」
すっかり夜だ。
一体どこに行くのだろう。

「外には出ない。まぁとりあえず部屋に行くぞ」
「? わかりました」
三人で部屋に入ると、けいは布団がしまわれているであろう押入れを開けた。
「ここで修行する」
「え?」
大和が押入れの中を覗き込む。

「うぉ! 広!」
押入れの中には体育館くらいの広さの真っ白な空間が広がっていた。
「日向の空間魔法だ。ここで稽古をつける」
「おぉ。ほんと魔法すげー」

「とりあえずこれでやろうか」
けいが大和に木刀を手渡す。
「はい! よろしくお願いします!」
「体は鍛えてるみたいだけど、剣道とかやったことがあるわけではないんだよね?」
「はい」
「んー。それじゃあまずは自分流でいいからやってみようか」
けいが木刀を構える。

「え、いきなり実戦ですか?」
「ごめんね。僕は人に教えたこととかないからさ。まずやってみて、そんでどこが悪いかを指摘するって方法がいいと思うんだよね」
「なるほど。……分かりました。やってみます」

大和はけいに向かって走り、両手で木刀を持って勢いよく振り上げると、けいの頭上に向かって振り下ろした。
「そいやー!」
木刀はけいの頭に当たる前に弾かれる。
「うぉっ!」
大和の木刀が手を離れ、吹き飛んだ。

「防がれるのは気にしないで、とにかく攻め続けて」
恭介は二人の様子を離れたところから見守り、大和に声をかける。

「けいは腐っても勇者なんだから素人が最初から当てられるわけがないんだよ。気にするな」
「僕は腐ってないけどな」
「……はい!」

その後も大和は懸命に攻撃を続けたが、そのことごとくを防がれた。
「はぁ……はぁ……。当たらないですね……」
「うん。でも思ったよりガッツがあるね。鍛えてるだけはある」
「ありがとう、ございます……」

「今日はもう終わりにする?」
「……そうですね。ありがとうござ、隙ありぃ!」
「甘い」

不意打ちの攻撃もあっけなく防がれる。
強く防いだせいで木刀が折れてしまった。
「あ……折れちゃいましたね。すみません。俺が不意打ちとかしたから反射的に強く防いじゃったんですよね……」

「別にいいよ。勝ちに貪欲なのはいいことだ。それより汗かいただろ? 今日はもう終わりにして風呂にでも行こうか」
「そうですね」
大和は折れた木刀を拾い上げた。

「ん?」
その時大和に一つの考えが浮かんだ。
「俺の魔法は状態異常を治せる。状態異常を治すとはつまり正常な状態にするってことだ」
「どうした大和。急にブツブツ言いだして」

「折れている状態っていうのは木刀にとって、正常な状態なのか……?」
大和は折れた木刀をみつめる。
「コレクト」
大和がそう呟くと、折れた木刀が元の姿に戻った。

「は?」
「え……今の、大和がやったの?」
「やっぱりだ! 俺の魔法、使い道あるかも!」
この日、大和は自分に新たな可能性を見出した。

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