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弟子

 次の日。
「今日出発するんですよね?」
「うん。でもその前にヴォルペで大和のスマホ買っていこう」
「スマホですか?」
「そう。なにかと必要になると思うから」

「でも俺金持ってないですよ」
「お金のことなら心配いらない。いっぱいもらってるからね」
「へぇ。勇者ってあんまり最初はお金渡されないイメージだったんですけど」

「僕たちは国際魔法連合とかいう人たちの命令で魔王に交渉しにいくんだけど、実は極秘事項なんだよね。僕たちが勇者として魔王のとこに行くのって。ごく一部の人間しか知らない」
「え、そうなんですか?」

「一般人が魔法に触れる機会は少ないし、世界の現状についてちゃんと知らない人が多いってのがあるから混乱を招かないためっていうのと、僕たちのことが先生にバレるわけにはいかないからね」

「あーそうですよね」
「そう。んでなるべく僕たちに不便がないようにお金はいっぱいもらってる。もしお金に困って人に頼らなくちゃいけなくなったりしたら面倒になるだろうしね」

「勇者なんだし盛大にお出迎えとかしてほしいよねー」
「昨日もいってたなそんなこと」
そういうわけで大和のスマホを買いに町にいくことになった。


 町に行くとなんだか賑わっていた。
人々の会話が聞こえてきた。

「昨日ルーポで召喚した勇者が突然現れた誰かに攫われたんだとよ」
「聞いた聞いた! こっちに逃げてきたらしいけどまだ近くにいるかもね」

「やばい。忘れてた。とりあえず……フードを深くかぶっといて。まずはマスクとサングラスでも買いに行こうか。あーあと大和の服」
大和は今恭介の服を着ている。

「そうですね。それにしても、ここの人たちは普通に勇者とか言ってますね」
「石碑にある召喚の儀式をして勇者を召喚するってことは知ってるみたいだね。この国はヴォルペの方もルーポの方も割と魔法が受け入れられているからね。でもなんで勇者を召喚するのか、とか深い事情は知らないんじゃないかな」


 スマホを買いに行く道すがらマスクとサングラスを買って服屋に立ち寄った。

「好きなの選びな」
「ありがとうございます」
「お、これとかいいんじゃない?」
けいが大和に魔法陣の描かれた服を提案する。
「……えーっと。中学の頃だったら買うかもですけど。流石に十八でこれを着るのはちょっと」

「あ、大和同い年なんだ! イェーイ」
「僕もけいも十八だよ」
「そうなんですか」
「私は十九」
「私は今年で十五やでー」

「日向は十五っていっていいのか?」
「ええで」
「まぁ精神的にはそこまで違和感ないかもだけど。ん? それがいいの?」
大和が白黒デザインの服を見ている。

「そうですね。これがいいです」
「よりによって白黒とは」
「ええやん」
「大和魔法のセンスあるかもね」

「え、どういうことですか?」
「白と黒は魔法と相性がいい色なんだよ」
「相性がいい?」
「そう」
「どういうことですか?」
「うーん。相性がいいとしか言えない。日向先生。解説よろしく」

「えっとな。魔力が込もりやすいとかそんな感じや」
「ざっくりしてますね。んー。黒は光を吸収しやすい、とかそういう色の特性みたいなものですか?」
「そんなイメージ」
「なるほど」

「白黒が一番強い。次いで三原色」
「三原色ってシアン、マゼンタ、イエローのことですか?」
「イエス」
「白黒の魔法陣を使える人は桜澄さん以外にはおらんな。懸賞金がでてるやつが多いね」
「数学の懸賞問題みたいな感じですか?」
「そんな感じ。魔法陣を起動することができたら一億円とかのやつもあるね」

「皆さんはできないんですか?」
「できんて。三原色のやつなら使えるのもあるけど」
「俺も魔法陣やってみたいです!」
「スマホ買ったあとでやってみようか」
「うわーい」


 その後スマホを買って恭介の家に戻った。

「まずは魔法陣を描かないとですよね。俺絵心ないんだよなー」
「いや別にわざわざ描かなくていいよ。スマホでいいし」
「え?」
「えーっとねー。これでいいや」
そういってけいは大和にスマホの画面を見せた。

「魔法陣の画像ですね」
「うん。それでこれに魔力を込めると」
けいがスマホに手をかざす。
そしてその手をひっくり返し手のひらを上に向けると、けいの手から炎が出現した。

「うぉ! すご! 魔法だ!」
「こんな感じー。魔法陣を使った魔法は込める魔力が大事なんだよ。強力な魔法を使いたいんじゃなきゃ魔法陣自体は割と適当でもいい。まぁあんまり適当だと起動させるのに必要な魔力が膨大になるけど」

「スマホでもできるんですね。なんか夢がない……」
「そんなこと言われても」
「そういう魔法使いたまにいるわ。デジタルよりアナログ派」
「スマホを使った魔法……つまり、ス魔法ということですか!」

「……」
「あ、今のはスマホと魔法をかけたギャグだったんですけ」
「わかってるよ! 面白くなかったの!」
「そんな馬鹿な」
「まぁそれは置いておいて。大和は状態異常を治せるとか言ってたよね。さらっと流してたけどどういうことなの?」
「どういうことってどういうことですか?」

「よく考えたら状態異常を治す魔法なんてないんだよね。薬を魔法で調合するのならわかるんだけど」
「状態異常っていうのがそもそもふわっとしてるし。食中毒とかのこと?」
「いや、なんと言えばいいのか。そうですねー。ゲーム的なことなんだと思いますけど」

「んー。いまいちピンとこない。今やってみたりできる?」
「はい。なぜかやり方はわかります。俺を召喚した人たちが言ってた、本能的に己の力を自覚するってやつだと思います」
「おーじゃあやってみてよ」

「多分状態異常の人にじゃないと効果がないと思いますけど」
「まぁ試しに僕にやってみてよ」
「はぁ。わかりました」
大和はけいの肩に手を置いた。

「はい。終わりましたよ」
「どう? なんか感じる?」
「んー。ちょっと体が軽くなった?」
「やっぱ何の役にも立たなそうですね」

「わからないよ? 極めたら何かしら化けるかも」
「ははは。そうですね。ははは」
「そ、そんなに凹まないでよ」
「触れることが条件なんか?」
「そうみたいですね」

「それより魔力はちゃんとあるみたいだし、そろそろ魔法陣使ってみようよ。魔法陣使えば他の魔法も使えるよ」
「それって魔法陣を使わない方法で魔法を使う場合は、自分の才能の範囲の魔法しか使えないんですか? 俺の場合状態異常を治す魔法しか使えないってことでしょうか?」

「そうだよ。何の種類の魔法を使えるかは完全に才能だね」
「……俺には魔法陣しかない!」
「はりきるのも分かるけど、魔法陣ってほかの方法よりたくさんの魔力が必要なんだよね」
「ほかの方法って例えばどんなのですか?」
「詠唱したり杖を使ったりイメージしたり」
「イメージでもいいんですか」

「かなり想像力いるけどな。ってか普通今言った方法のどれかなんだよ。触ることが条件の魔法とか意味わからん」
「はぁ。まぁとりあえず魔法陣を試してみたいです」
「おっけー。んじゃ初心者用の魔法陣がこちらになります」

「はい。やってみます」
天姉が茶色の線で描かれた魔法陣が表示されたスマホを大和に手渡す。
大和はスマホに手をかざした。

「……ん?」
「どうした?」
「なんも起こらないです」
「うそー。これほとんど魔力いらないんだけど」

「……」
「あー落ち込まないでよ。だいじょぶだって。なんとかなるよ」
「どういうことなんやろな。大和の魔力量がすごく少なくて、状態異常を治す魔法は魔力ほとんど使わんとかそんな感じやろか」

「……ははは」
「やばい。目が死んでる。かわいそう」
「本当に状態異常を治すことしかできないみたいですね。泣きそう。でもがんばる」

「おう。がんばれ」
「魔法使えないなら自衛のために体鍛えるとかするしかないな」
「あ、体は一応鍛えてますよ」
大和はシャツをめくり腹筋をみせた。
「おーほんとだ。んじゃ格闘か剣術どっちがいい?」
「あー迷いますね。恭介さんかけいさんのどちらかってことですよね」

「さん付けされたら計算になるじゃん。やめてくれ。そもそも同い年だし」
「……そうですね。わかりました。けいと呼びます」

「僕も恭介でいいよ」
「私も呼び捨てで」
「私もー」
「承知しました」
「ほんでどっちがいい?」
「……それでは、剣術で!」
「おーけー」
けいが親指を立てる。

「僕も多少心得があるから修行に付き合うよ」
「ありがとうございます!」
「血みどろ兄弟って言われてた恭介とけいが指導者になるなんて。感慨深いね」

「え、なんですかその物騒なワードは」
「桜澄さんに鍛えられてた頃、孤児院時代だね。夕方、修行が終わって結界の外から帰ってくるんだけど、魔物の返り血だったり自分の血だったりで毎日のように血まみれで帰ってきてたから周りの人間からそんな風に言われてたんだよ」

「そんなこともあったねー」
「懐かしいな」
「……俺もそれに負けないくらい努力して早く強くなります!」
「まぁほどほどにね」
「体を鍛えれば魔力が増えるし頑張ろうな」
「へぇ。魔力量は肉体の強さも関係してるんですね」
「うん。それと気持ちも大事だ」
「気持ちですか?」

「強い想いには魔力を生み出す力がある」
「そうなんですね」
「だからやる気があるのはいいことだ。信念を持って取り組めよ。強い想いはお前を成長させてくれる」
「はい!」
この日から大和は恭介とけいの弟子になった。

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