第三十六話 「いざ奥仙へ」
「くそォォォ!!」
山を抜け、次の目的地“
「うるせぇな。今度は一体何だってんだ?」
ウンケイが振り返る。
「なあウンケイ! おれはモテてェんだ! だからモテる奴が嫌いなんだぜ!」
しゃらくが切実に
「何を嫉妬してんだ。やっぱりガキだなてめぇは」
ウンケイが前を向き直り先へ進む。
「何ィ!?」
しゃらくが慌ててウンケイを追いかける。
「てかよォ、温泉はあとどのくらいだ?」
「
すると先を歩いていたブンブクが、何かを感じてか先へ走り出す。
「おいおいどうした?」
ウンケイとしゃらくも後を追いかける。木々の間をスルスルと抜けていくブンブクと、後を追いかけるしゃらくとウンケイは、木の枝にぶつかりながら付いていく。すると突如木々が開け、景色が一変する。しゃらく達の足元は崖になっており、その下には広大な森林が広がっている。その大きさ、天に晴れ渡る空のようにどこまでも続いている。
「・・・!?」
しゃらく達は、その森の広大さに目を丸くしている。
「これが
ブンブクは崖の淵まで行き、下を覗き込んでいる。
「おいブンブク危ねぇぞ」
ウンケイが声を掛ける。するとブンブクが、ウンケイ達に振り向き、ニヤリと笑う。
「わん。わわわん、わんわわん。」
ブンブクが何やら喋っている。
「あいつ今なんつった?」
ウンケイが眉を
「何だ。ビビってんの? ってさ」
しゃらくが通訳する。
「お前の心配してやっただけだろが!!」
ウンケイが顔を真っ赤にし、ブンブクの首根っこを掴んで唾を飛ばす。
「わっはっは! ブンブクに舐められちゃア、
しゃらくが大笑いする。するとブンブクが、今度はしゃらくを向いてニヤリと笑う。
「わんわん。わわわんわわんわんわん」
「んだとコラァ!!」
今度はしゃらくが顔を真っ赤にし、ブンブクの尻尾に噛み付く。ウンケイが悲鳴を上げるブンブクからしゃらくを離す。
「だが流石にこの高さは無理だ。あの子から聞いたのは坂道を下ってく道だ。そっちへ行こう」
ウンケイが
「わんわんわん!」
「上等だこの野郎ォ!」
ウンケイが背後からの喧騒に振り返ると、しゃらくとブンブクが睨み合いながら崖の淵へと歩いていく。
「・・・おいおい。何考えてんだ?」
すると二人は崖から飛び降りようとしているようで、ウンケイはすかさず二人を追う。
「お前こそビビってんじゃねェかァ?」
「わんわん!」
「待てお前ら!」
ウンケイが二人の
「何してんだ!? 馬鹿な真似はやめろ! そんな事したって、早く着くわけでもねぇし、何も得しねぇだろ!」
「だってよウンケイ! こいつが!」
「ギャンギャン!」
ウンケイに掴まれながらも、二人が睨み合いながら唾を飛ばす。
「グルルル!!」
「ガルルルル!」
二人は更に牙を
「やめろって言ってんだ馬鹿ども!」
すると、ドドドドド! 背後の森から、何やらけたたましい音が響き渡る。三人は後ろを振り向き、森の奥に目を凝らす。
「何だ?」
しゃらくがクンクンと鼻を動かし、匂いを探る。
「獣・・・?」
「いやお前、この音・・・。デカすぎねぇか?」
三人が息を飲む。地響きは猛烈に迫って来る。後ろは崖、前からは巨大な何かが迫って来る。まさに絶体絶命。
「こうなったら、奴をぶっ倒す! 腹も減ったしなァ!」
地面へ降りたしゃらくが牙王の姿になる。ウンケイも
「でっかァ!!」
「この重量はまずい!!」
ビキビキッ!! 崖にヒビが入る。
「やべェ!!」
バキィッ!!! 崖部分が牛の重さに耐えられず、しゃらく達と牛が地面諸共崖下へと落ちていく。
「ぎゃアアアアア!!!!」
三人は真っ逆さまに落ちていく。すると、ブンブクはすぐに葉っぱを取り出し、頭に乗せて指を結ぶ。ボンッ! ブンブクの体は煙に包まれ、鳥の姿に変化する。一方ウンケイは薙刀を地面に向かって構えている。もう一方、さっきの威勢は何処へやら、しゃらくはぎゃあぎゃあと騒いでいる。
「モォ〜〜!!!」
すると巨大な牛が驚きの行動に出る。なんと頭には葉っぱが乗っており目を瞑ると、ボンッ! 巨大な体が包まれるほど大きな煙に包まれ、巨大な
「何!? まさか・・・」
変化を見たウンケイが驚く。
「おい大丈夫か?」
ウンケイが、大の字に寝転ぶしゃらくに近づく。
「あ、足がビリビリするぜ・・・」
「それで済むなら問題ねぇ。丈夫に産んでくれた母親に感謝するんだな」
そう言うとウンケイは、地面に座るブンブクの元へ行く。
「お前は平気そうだな。あんな秘策がありゃあ、あそこから飛ぶのも訳ねぇ筈だな。ビビりのお前が生意気なこと言うから、何かと思ったぜ」
ウンケイは、
「おい。大丈夫か?」
すると巨大な鷲は目を開け、すぐさま立ち上がって羽を広げ、ウンケイに威嚇する。その大きさはウンケイの上背を遥かに超える。しかしウンケイは微動だにせず、肩に乗るブンブクも無表情で鷲を見つめる。
「もしかしてお前も化け狸か?」
ウンケイがニヤリと笑う。すると鷲は、全く驚きもしないウンケイ達に驚き、目を丸くして
「わん!」
ブンブクを見ると、鷲の表情が一気に明るくなる。すると、ボンッ! 再び鷲が煙に覆われ、煙が晴れるとブンブクと同じくらいの小狸がちょこんと二足で立っている。
「あんたも
小狸が人の言葉を話す。
「何!? いま人の言葉を?」
ウンケイが驚くと、小狸はウンケイの方を見てニコリと笑う。
「何そんなに驚いてんのさ。おいら達
完