第39話「刑事代行燈焔火」
「お、俺が刑事!?どういう事!?」
困惑する焔火に西園寺は冷静に答える。
「刑事になって、ある連中の捜査をして貰いたいの」
「ある連中……って?」
西園寺は焔火に詳しく全てを話した。殺戮会の事、殺人ゲームの事、翡翠碧の事を。
「──マジか……そんなヤバい奴等がそんなヤバい事をしてたのか……んで、シス姉とみおちんはソイツ等を捜査してて……そうか……麗水を襲った霧崎タカシや、この前に新宿で会った天パ野郎は、その殺戮会とかいう組織のメンバーだったって訳か……」
「ええ、恐らくこれから殺戮会の奴等がどんどんと都内に出現して罪の無い人々を大量殺戮していくと思うから、あなたにそれを阻止して貰いたいの、それから首謀者である翡翠碧という女を見つけ出して捕らえて欲しいの、しーちゃんとみおちんに代わってね」
「いや……あの……事情は分かったんだけど……どうして俺に頼むわけ?」
「警視庁は現在人手不足なのよ」
「だからってパンピーの俺に頼む?」
※パンピー……一般人の事。
「何を言ってるの?あなたは言う程パンピーじゃないでしょう」
「え?」
突然西園寺は、着ていた上着の内ポケットからファイルの様な物を取り出し、それを開いて読み上げていった。
「2040年9月13日、飲食店で暴れていたミュータントの男を取り押さえる、2040年12月20日、身代金目的で少女を誘拐した男を単独で見つけ出し、少女を救出&男を取り押さえる、2041年3月5日、強盗殺人を犯して逃走を図ったミュータントの男を単独で見つけ出して取り押さえる、2042年5月8日、80代の女性を特殊詐欺から救う、2042年10月5日、毎日の様に都内各地で迷惑行為を繰り返していた構成人数60人のミュータント系半グレグループの"魅礎殿愕(みそでんがく)"の本拠地に単独で乗り込み、壊滅させる、以上、あなたが過去に行った正義活動でした」
全てを読み終えた西園寺は、パタンとファイルを閉じて、再び上着の内ポケットへとしまった。するとその直後に、彼女の隣に立っていた素麺が焔火に向かって言った。
「我々は君の事を一流刑事並みの能力を持った人間として一目置いているんだよ、という訳でどうにか力を貸してくれないか?」
「いいよ」
焔火は真顔で即答した。
「本当か?」
「ああ、漢燈、シス姉とみおちんに代わって刑事になるよ」
焔火の言葉に素麺と西園寺はニコリと笑みを浮かべた。
「あなたなら協力してくれると信じてたわ、さて、これから刑事としての常識や捜査のノウハウを教えたいから早速警視庁へ行きましょう」
「押忍」
その後3人は車に乗って警視庁へと移動し、素麺は自分の業務に戻り、一方で西園寺は焔火と警視庁内のある一室へと行き、そこで彼に刑事としての常識や捜査のノウハウを数時間叩き込んだ。
「──お疲れ様、私が教えられる事はこれで全てよ」
「押忍、あざっした」
「あ、そうそう、これを渡しておくわ」
西園寺は焔火に黒い手帳の様な物を差し出した。
「これは?」
「"刑事代行証"、正式に刑事代行であると認められた者に渡すとされている物よ」
「なるほど……死神代行証的なやつか」
焔火は代行証を受け取り、大事そうにズボンポケットにしまった。するとその直後に若い男性警察官が慌てた様子で2人のいる部屋の中へと入ってきた。
「警視正!大変です!殺人事件です!」
男性警察官は西園寺に向かってそう叫んだ。
「何ですって!?場所は!?」
「中野駅前です!被害者の数は8人!しかも全員死に方が普通じゃないんです!恐らくミュータントの……例の殺戮会とかいう組織の奴の仕業かと!」
男性警察官は西園寺に向かってそう叫んだ。すると西園寺は焔火の方へと顔を向けた。
「焔火君、早速出番よ、行ってくれる?」
「押忍、あれ?でも現場までどうやって行けば?誰かパトカーに乗っけてってくれる感じ?」
「焔火君、あなたバイクの免許持ってたわよね?」
「え?う、うん……持ってるけど……」
「よし、それじゃあついてきて」
「え?う、うん……」
焔火は西園寺に案内されてどこかへと向かって行った。
「──着いたわ」
焔火が西園寺に案内されて着いた場所は警視庁内にある狭い一室であった。そしてその一室の真ん中には見たことのない形の赤と黒を基調としたバイクが置かれていた。
「杏奈ちゃん……これは?」
「"フレイムチェイサー"、警視庁が開発したオートバイよ、階段を昇れるくらいの高い登坂性能に直線最高時速は500km、それに加えてメーター部分に高性能AIを搭載したデジタルパネルが付いていて、これを使ってナビを開いたり電話したり警察無線が聞けたりするのよ」
「うぉ~……!!すげぇ……!!」
焔火は目をキラキラと輝かせながらフレイムチェイサーを見つめた。
「これを焔火君にあげるわ」
「え!?マジで!?」
「ええ、これからこれに乗って犯人を追跡してちょうだい」
「うぉ~!!あざっす!!早速乗ってもいい!?」
「ええ、もちろん」
焔火は嬉々としながら早速フレイムチェイサーに跨がった。そしてそんな焔火に西園寺は、キーと炎模様が刻印されたヘルメットを渡した。
「うし、準備完了」
ヘルメットを被り、キーを挿してエンジンをかけ終えた焔火。そして西園寺は、そんな焔火を確認すると部屋の隅にあったレバーを引いた。するとバイクの正面にあった壁がウィーンと上に開き、外の景色が見えた。
「それじゃあ焔火君、よろしくお願いします」
「うっす、では行って参ります」
「ええ、気をつけて、くれぐれも無茶はしないでね」
「あ~い」
焔火はフレイムチェイサーを走らせて事件の起きた中野駅前へと向かって行った。