第38話「引き継ぎ」
「うぅ~む……マズイ事になったな……雷光と白鳥が毒にやられるとは……」
ある日の事。警視庁の警視総監室の椅子に座っていた警視総監の素麺二郎(そうめん じろう)(55)は自身の目の前に立っていた捜査一課長の西園寺に向かって非常に悩ましそうな顔を浮かべながらそう呟いた。そんな彼に、立っていた西園寺は深く頭を下げた。
「すいません総監……私の管理不足です……私がもっと2人に注意喚起をしていれば今回の様な事態にはならなかったと思います……」
「おいおい……よしたまえ……君が謝る事はないだろう……それよりも2人の容態はどうなんだ?助かるのか?」
「はい、先程病院から入った連絡によりますと、血清が効いてきて現在は容態が安定しているそうです、しかし目を覚ますのは恐らく1週間後、そしてそこから動ける様になるには2週間程掛かるかもしれないとの事らしいです」
「そうか……!命に別状はないのか!それは良かった!しかし……復帰にはトータルで3週間程掛かってしまうのか……」
「はい」
ここだ2人の間にしばらく沈黙が続く。そして少し経った後に素麺が重そうに口を開いた。
「捜査の引き継ぎを行わなければならんな……」
「私が引き継ぎますよ」
「いや、それはマズイだろう、君がここを離れてしまったら誰が数多くの捜査一課員や捜査本部への指示を出すというんだ?という訳で私が引き継ごう」
「いや、それはもっとマズイと思います、総監がここを離れたら誰がここの事務を統括し、所属の警察職員を指揮監督するんですか?」
「うぬぅ~……確かに……」
素麺は険しい表情を浮かべた。
「総監……警視庁内に他に誰かいないでしょうか?捜査を引き継いでくれる様なミュータント刑事は」
「うう~む……現在警視庁にいる我々以外のミュータントは8名、内6名は別の事件の捜査中で内2名は戦闘不能状態……という訳で誰もいないな」
「参りましたね……」
深刻そうな顔を浮かべた2人。その後2人の間に再びしばらく沈黙が続く。そしてあるところで西園寺は「あっ!」とした表情を浮かべ、素麺はそれに反応する。
「ん?誰か心当たりがあるのか?」
「ええ……ありますよ……1人」
「本当かね!?」
「ええ、総監も知っている人物です」
「私も?一体誰だねそれは?」
「ええ、それは……」
~新宿区・某病院~
「シス姉……みおちん……」
焔火は、ある病室の椅子に座り、酸素マスクを付けてベッドに横たわっていた匙守音と白鳥を悲しそうな表情で眺めていた。するとそれから少し経った後に病室内に医師と思わしき中年のドレッドヘアの男性が入ってきた。そして彼を見た焔火はバッと椅子から立ち上がり、近くに詰め寄った。
「先生!2人は助かるんでしょうか!?」
焔火の質問にドレッドヘアの医師はニコリと笑って答える。
「うん、助かるよ、ただ復帰までにちょっと時間が掛かるけどね」
「そうですかぁ~……!!良かったぁ~……!!」
医師の言葉に焔火は安堵の表情を浮かべた。するとその直後に病室内に2人の人物が入ってきた。
「久し振りね、焔火君」
「久し振りだな焔火君」
2人は焔火に向かって挨拶をした。
「杏奈ちゃん……それに二郎さんも……」
焔火の前に現れた2人は捜査一課長の西園寺と警視総監の素麺二郎であった。先程の焔火の反応を見て貰えば分かる通り、この3名は知り合いである。
「2人もシス姉とみおちんのお見舞い?」
焔火の質問に西園寺が反応する。
「ええ、それもあるけどここに来た1番の目的は、あなたに会いたかったからよ」
「え?俺に?何か……大事な話でもあるの?」
「ええ、ここじゃあなんだし、ちょっと場所変えましょうか」
その後3人は病室を出て、病院敷地内の広場へと移動した。
「──焔火君、単刀直入に言うわ、しーちゃんとみおちんが復帰するまで、あなたに刑事をやって貰いたいの」
「!?」
西園寺の突然の言葉に焔火は言葉を失った。