勲章
白く長い髭を生やした屈強そうな大男がジョッキ樽を掲げる。
「よし、お前ら! 今日は俺のおごりだ! じゃんじゃん飲め~!」
「うおぉ~!!」
っと部屋全体に響き渡る様に男達の歓声が上がる。
ルーナも手に持っていたグラスを少し上げた後、口に持っていき少し飲んだら机の上に置き、一息入れてから辺りを見渡す。
ルベアを討伐して三日が経ち。
今ルーナ達は冒険者ギルドにある酒場で討伐した事を祝い、社長的な存在のハドックさんが大いにルーナ達を祝ってくれていた。
すると隣から酔っぱらった声が聞こえてくる。
「お~い、ル~ナ、沢山飲まないと損だぞ~~ぐへへ」
「もう~お兄ちゃん、傷が治ったからってそんな調子のってたらまた痛い目に遭うんだよ」
ルーナは呆れた感じで喋る。
「かはっ! 心が....痛い..」
っとデラインは胸を押さえた。
ルーナはジト目でデラインを見ていると、艶つややかな声が聞こえた。
「しかしまぁ、あんたらのお陰で私達は生き残れたんだから感謝しないとね! デライン」
そう言いミラはデラインを見る。
「そうよ! ルーナとわ! た! し! のお陰なんだから、もっと感謝しなさい」
エラはデラインを見下す様に見る。
デラインは若干興奮したが、妹のジト目に耐えれなく酒をガブガブ飲む。
「....」
そんな様子を見ていたルーナは首を横に振った後、エラに注意するかの様に言う。
「エラさん、私とエラさんだけじゃないですよ。オオハラさんも、です」
「んっ、そ、そうね....てかさぁ、あの執事は..何者なの?」
「ん~、分かるのはミラさんと同じ役職って事ぐらいですかね~..」
「まあ、いつかちゃんと会って、感謝ぐらいして上げてもいいけどね」
「そうですね! いつか会いたいですね....」
ルーナは少し頬が赤くなった。
少し気まずそうにエラは口を開く。
「....ルーナあの時はごめん」
「え!? 急にどうしたの?」
「いや..その..私がちゃんとしていれば、ルーナをあんな危険な目に遭わせずに済んだのに..それなのに私..」
「ううん、私気にしてないよ! だって私は皆を守る為に行動しただけだもん」
「でも..! 私は....」
「エラさん!」
っと言い、ルーナはエラの顔に近づく。
「私達は仲間です! 私はあの時エラさんを信じ皆を連れて逃げてほしいっと願ってました。だから私は自分を犠牲にしました。でもエラさんは諦めず最後に弓を持ち、魔獣を倒したじゃあないですか!?」
「ルーナ....」
「だから悪いのはお兄ちゃんです! 一番最初に戦士がやられるとか! どこのダメ戦士ですか!」
ルーナは美しい笑顔をエラに見せる。
「フフ..そうね」
エラは微笑む。
そんな感じで二人は顔を合わせていると、大きな声が聞こえた。
「今回の主役達よ! ちょっと前に来い!」
ルーナ達はそれに気づき席を立つが、デラインはフラフラでミラが支え屈強な男のところに向かう。
男の前に来るとさっきまで賑やかだった酒場が静かになった。
男は腕を組み和やかに喋り出す。
「今回、討伐隊のミスでルベアを逃がしてしまったが。見事、プリンセス・ルーナチームが討伐してくれた! 皆拍手」
酒場から沢山の拍手が聞こえる。ルーナ達はなんだか照れくさくなった。
「このハドックも嬉しく思うぞ。さて本題だ、ある男からお前達の活躍を聞いた。これを基に、お前達には勲章を与え、そして昇格をさせようと思うぞ」
その言葉を聞き、ルーナ達は肩に力が入った。
勲章は冒険者特有の制度であり、貰えるのは非常に優秀な人かつ実績が無いと貰えない。
だから勲章を持っている人は少ないのだが、全ての勲章を持っている人物がたった一人いる....。
ハドックは近くの女性に手招きをし、女性は両手で木の板みたいなのを持ちハドックの隣に立つ。
そしてハドックは木の板から何かを取り、名前を呼ぶ。
「エラ、前に」
「ふん!」
エラは生意気な返事をし前に出る。
ハドックはエラの左胸らへんに何かを付け、手首の銀色のリストバンド外し言う。
「エラには、ギャラントリー・クロスを与え、白金へと昇格する」
ハドックは白金色のリストバンドを渡す。
エラは受け取り手首にリストバンド付けた後軽く礼をし後ろに下がると、色々な感情が浮き出て体が震え、長い耳がピクピク動いていた。
ハドックは次の準備が整い名前を呼ぶ。
「ルーナ、前へ」
「はい!」
ルーナは緊張しながらハドックの前に行く。
「ルーナは今回一番活躍したと聞いた。よってヴィクトリア十字章を与え、白金へと昇格する」
ハドックがそう言うと、酒場が騒がしくなった。
「マジかよ! やべーな、おい!」
っと言った感じの声が沢山聞こえる。
ルーナは納得がいかなく、疑問を問いかける。
「わ、私そんなに活躍してませんよ....。何か間違った情報を聞いたんじゃあないですか..?」
「いや、そんな事は無い。あの男は大いに感謝していたぞ、ルーナの活躍が無かったら勝てなかったっと言うぐらいだ、それを考慮すればこの勲章は妥当だろう....。まぁ素直に受け取っとけ」
「うぅぅん」
っと納得いかないがルーナは後ろに下がる。
「さて、最後にミラ、デライン前に」
ミラはデラインを連れ前に行く。
「お前達に二人には勲章は無いが、金への昇格っとする」
「ありがとうございます!」
っと突然生酔いしているデラインが背筋を伸ばした。
二人はリストバンド受け取り後ろに下がる。
「よし! さぁ席に戻って最後まで思う存分楽しむといい!」
ハドックはそう言い、近くに置いていた酒を勢いよく飲む。
ルーナ達は席に戻る途中でデラインが突然転んだ。
「い゛った~い」
っとデラインが顔面を床にぶつけていた。
「ちょっと! あんた今足かけたでしょ!?」
「ふん、この程度で転ぶとは....金の価値は無いな」
っとバカにした様な喋り方をしてきた。
「おい! スクライン止せ!」
っと隣に居る男がスクラインの口を抑えようとする。
「ウッドお前は思わないのか? こんな奴らが急に上に来るんだぞ? どう考えても変だろ....」
スクラインはルーナ達を威圧する。
「それはちゃんと実力があるからこそ....」
っとウッドが喋っている途中で怒り狂う声が聞こえる。
「だ..だれが金の価値は無い..だって~!!」
デラインは起き上がりスクラインの胸倉を掴む。
「お兄ちゃん!」
心配そうにルーナは声をかけ近寄ろうとする。
「ハハ、度胸だけはあるようだな! どうせ、そこに居る女共も何か小細工してるんだろ!? この詐欺師共め!!」
「はぁ!? こいつ..ぶん殴っていい?」
っとエラは拳を自身の手前に作る。
「ああ! ちょっと暴力はダメですよ!」
ルーナは先にエラの方へ近寄るが、ミラに止められる。
「ルーナいい? ああいう奴はボコボコにするのが一番なのよ」
「ミラさんまで....」
「ほらどうした? かかって来いよ」
スクラインは更に挑発する。
「....決闘だ」
小さくデライン言う。
「ああ? 何だって? 聞こえね~なぁ」
「決闘だ! このクソやろ~!」
っとスクラインの顔面をぶん殴った。
今日もいつもどうり、花壇の土にちゃんと栄養が行っているかっという作業をしている。
このままいつもどうり作業したいところだが、今日はお客さん来るらしい。
ルベアの件から三日経ち。俺は謎の植物をローレに渡し、鼻炎の薬でも作るのかと思いきや全然違く。
どうやら誰かから依頼を受けていたらしい。まぁ、もうどうでもいいが。
俺がそんな事を考えていると、車椅子の音が聞こえてそちらを見る。
「もうすぐ来るんですか?」
「そうよ~」
「そうですか」
っと言いローレの太ももらへんを見ると、小さいビンが置いてあるのに気づいたので質問する。
「そのビンの中に入っているのは何ですか?」
「ああ、これはね~....」
ローレはビンを持ち中の液体を揺らすと、前から誰か来るのが見えた。
「あ! いらしゃ~い!」
俺はローレの見ている方向を見てみると、一人は茶色ぽい色のフードを被っていてよく分からないが、もう片方は何だか高貴そうな人だった。
するとフードを被っている人物が人間ではあり得ないスピードでローレの近くまで走って来る。
走った勢いでフードが取れるが、そんなのお構いなしで走りローレ目の前に着く。
息切れなど疲れた様子を全くせず、興奮した声で何者かが喋る。
「ローレ出来た!?」
俺は何者かの目を見た時、笑みがこぼれそうになるが耐え、まじまじと何者かを見る。
灰色の毛を全身に生やし尻尾が生えていて、まるでオオカミを想像させる様な見た目だ。
「フロンティーネ様、落ち着いて....」
「ああ! ごめんなさい」
フロンティーネはちょっとモジモジした後、大原を見ると首を傾げる。
「ローレ、この方は?」
「オオハラよ、この前言ったでしょ~。最近人を雇ったって~」
「まあ! この方だったの」
驚いた顔をした後、フロンティーネは大原に手を差し出す。
「初めまして! 私は一応エゼルウルフ王の娘です。よろしく!」
フロンティーネは軽い笑顔を見せ、俺はその口の隙間から鋭い八重歯が見えた。
「どうも初めまして。自分はローレさんの執事兼庭師をやらせてもらっているオオハラと申します」
俺は頭を下げる。
(エゼルウルフ....この国の王。確か王と王妃は人間だったはず、それなのに今目の前にいるフロンティーネは獣人。先祖が獣人だったとか? いや....そんな歴史は載っていなかった..)
そんな事を考え、元の姿勢に戻り握手を交わす。
その時フロンティーネの後ろからゴホンっと咳払いが聞こえた。
「フロンティーネ様。無闇に走らないで下さると助かるのですが....?」
フロンティーネはゆっくり後ろを振り向き、指先をツンツン突きながら喋る。
「あ~~、ごめんなさいリアム。少しはしゃぎすぎちゃった」
「分かればいいのです。それで、そちらの方は?」
「この人はオオハラって言う人。私も今合ったばっかり」
「そうですか。..初めましてリアムです」
っとリアムは手を差し出した。
「どうも、オオハラです」
俺は握手を交わす。
(若々しい男だ....恐らく未成年だろう。しかし、何だか俺と同じ似たような匂いがするな..。俗に言う似た者同士は惹かれ合う、的なあれか? ....なら、俺の敵ライバルだな)
二人はしばらく手を離さず、目を見つめる。
その間フロンティーネは尻尾を振り、ローレに抱き着いていた。