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決闘


 フロンティーネとローレは向かい合って座っている。そのお互いの隣には大原とリアムが立っている。



 ローレは丸テーブルの上に持っていたビンを置き、フロンティーネを見る。

「はい、依頼されてた香水よ」



 フロンティーネは両手で口元を塞ぐように持っていき、喜ぶ。

「わぁ~! ありがとうローレ!」



「いえいえ、効果はバッチリあると思うけど、使い過ぎは厳禁ですよ」



「うん!」



 大原は、そういえば質問に答えてもらっていない事を思い出し、ローレにもう一度ビンの中身について質問する。

「ローレさん、その香水はどのような効果があるんですか?」



 ローレはちょっと気まずそうに話す。

「あ~..これはね、匂い消しよ」



「匂い消し?」

 そう聞くとリアムの咳払いが聞こえ、大原はリアムを見ると若干の怒りを感じた。

(ん~..聞いちゃまずかったか?)

大原とリアムは目を見つめたままで二人の空気感が段々重くなっていき、静かな時間が少しすぎると。



「ん? 何でこんな静かなの?」

っとフロンティーネは言い首を傾げる。



「フロンティーネ様、目の前のデリカシーの無い男を処分しても宜しいでしょうか?」



「え? ええ?」



 ローレは戸惑っているフロンティーネに優しく説明する。

「その..何て言えばいいのかしら....。オオハラはこっちの国に来て間もないから、何も知らないのよねぇ~....」

っとローレは大原に目で何かを訴える。



 大原は何かを察しその場から動き、フロンティーネに近づくとモフモフな手を持ち、自身の鼻に近づけ匂いを嗅ぐ。



(え~)

 ローレは予想していなかった事が起き、内心でびっくりするが表情は笑顔だった。



「なぁ!?」

 リアムのびっくりする声が聞こえた。



「へ?」

 フロンティーネは更に戸惑う。



 大原は鼻をフロンティーネの手から離す。

(..昔、おばあちゃんちに居た犬の香りがする....)

「個人的には、いい匂いだと思いますよ..。気にするほどでもないです」



 突然何を言うわれるのかと緊張気味のフロンティーネだったが。微笑みが浮かび、大原に言う。

「ありがと」



 二人は顔を合わせ、妙な時間が流れる。





 妙な時間を終わらせるかの様にローレが両手を軽く合わせる。

「さあオオハラ、ちょっと紅茶を切らしてるから買ってきて欲しいの」



「分かりました」

 その場に居る全員にお辞儀をし、街に向かう。









 ここは街の一部分。いつもより人通りは多くは無い。どうやら平和パレードの準備で忙しく皆働いている様だ。

 そのおかげでここには穏やかな空気が流れていて、カフェテラスでのんびり休憩するのに相応しい場所となっている。そんなカフェテラスで物騒な会話をしている四人組がいる。



「ぐわ~、ど~しよ~」

 デラインはぐったりと机の上で伏せる。



「何よ下僕! あの時はあんなにカッコよかったのに! そんなんで勝てんの!?」



「まぁまぁエラさん、今はそっとしときましょ?」

 ルーナはエラを落ち着かせる。



「そう言ってもねぇ~、そんなにグダグダしてる暇は無いんだけどね~」

 ミラは心配そうにデラインを見る



 デラインはあの出来事を思い出す。

酒に酔った勢いで人を殴り、しかも相手は白金なのにデラインは決闘を申し出てしまった。

負けたらデライン達の昇格を取り消しだけど、勝ったらスクラインの謝罪と金に降格という条件だ。



「うわぁ~、俺ぜって~勝てねって~」

 デラインは分かっていた。自分の実力が無い事を。



「....」



 そんな落ち込んでいるデラインを仲間達が見守っていると、エラは見たことのある後ろ姿が見えた。



「ねぇちょっと、ルーナあれ....」

 軽くトントンっとルーナの肩をエラは叩き、少し離れた席に指を指す。



 ルーナは指を指された方向を見て、それが誰だか分かった瞬間立ち上がる。

(あれは絶対....!)

そう思い小走りで席に向かう。





「あ、あの!」

 話しかけた時何だか胸の奥が暖かく感じ、ルーナは緊張する。



「..あぁ、ルーナさんですか。奇遇ですね」

 大原は持っていた水筒のコップをテーブルに静かに置き、ルーナを見ると手をモジモジさせ頭から湯気でも出そうなぐらい顔が真っ赤で、次に何を話そうか考えていた。

 結局ルーナは最初の一言から喋る事は無く、後ろから仲間がこちらに来た。



「ちょっとルーナ! いきなり走んないでよ!」



「はわ、はわわわ」

っとルーナはエラに抱きつき、エラの後ろに隠れる。



「へ!? へ? 何!?」

 後ろのルーナを困惑しながらエラは見る。





 そんな感じで騒がしいルーナとエラを横目にミラがデラインを連れ、大原に近づく。



「久しぶり~オオハラ。この前はありがとうね」



「久しぶりですミラさん」



 二人は軽い挨拶をする。

その時ぐったりとしているデラインが大原と言う名前を聞いた瞬間、脳に電撃が走り、目を見開き大原の両手を掴み、顔を近づける。



「オオハラさん! オオハラさんですね!?」



「えぇ....」



「いやぁ~、良かった~。....オオハラさん急なのですが、強くなる方法を教えてもらえないでしょうか!?」



「....ん?」

 疑問に思い、大原はデラインの目を見るが眩しい目が大原を襲う。膨大な期待という感情に耐えれなく、両目が閉じるか閉じないかの瀬戸際の中、顔を引きながら小さく頷く。



「いいんですね!? では早速....」



「ちょっとデライン~、そんな急に説明も無しに、無理やりお願いするのはどうかと思うけど~」



「あ....ごめんなさいオオハラさん。実はですね....」









「なるほど。では今日の夜に訓練室で決闘が行われるという事ですか」

 



 訓練室はこの世界に居たであろう、過去の凶暴な魔獣を映像で疑似的に生み出し戦闘ができる施設で利用者はかなり多いとされている。





「はい....」



 目の前のデラインはしょんぼりし、四人は席に座りながらデラインを見ている。



 大原は考えるよう口に手を当てた後、すぐ手を離す。

「しかし、強くなるにしても時間が無さすぎますね」



「え~そんな~....」

 今にでも泣きそうな顔をデラインはする。



「....オオハラさん。どうにか、できませんか..?」

 ルーナは真剣な顔を大原に向ける。



「....一つ。強くなるかはデラインさん次第ですが。お教えしましょう」

 希望に満ちは溢れた視線が大原に集まり、続けて説明する。

「恐怖を与える事です」



「恐怖を与える事....?」

 大原以外、全員口をそろえて言う。



「はい。そのスクライン? という方はデラインさんを侮ってます。ですからその隙を突き恐怖を与えるのです」



「..え..でも、どうやって?」

 首を傾げルーナは言う。



「死ぬ気で戦うのです」



 常人が普通なら言わない発言を、真顔で言う大原に対して若干の恐怖を感じ、静かになるルーナ達に大原は少し口角を上げ言う。



「こういう事です。今ルーナさん達は自分に少し恐怖したはずです。恐怖と言うのは人間にとって厄介な感情だと自分は思います。何せ体が言う事聞かなくなりますからね、エラさん」

っとエラを軽く見る。



 微かに体をビクンっとさせ、エラは何かを考えるふりをし始めた。



「なるほど....。分かりました! オオハラさんありがとうございます!」

 デラインは席から立ち、颯爽と何処かに向かう。



「ああ! ちょっと下僕何処行くのよ!?」



 席から大原以外が離れていきエラ達がデラインについていく中、ルーナが大原の方を振り向き深いお辞儀をする。



 大原そんなルーナを見た後、テーブルの上にある花柄のコップの中に入っている麦茶を飲む。

(....訓練室は何処だったか..)











 男達の熱い声が聞こえる。



「ハハ! 頑張れよ~、デライン!」



「スクライン負けんじゃね~ぞぉ~!」





 中央に二人の男が訓練用の武器を持ち立っている。そんな様子を心配そうに三人は見ていた。





「お兄ちゃん大丈夫かな~」



「大丈夫さ。ルーナのお兄ちゃんはやる時はやる男だよ....多分」



「下僕~! 負けたら許さないから~!!」





 肩に木製の剣を置き、余裕そうにスクラインがデラインを挑発する。

「お~? よく来たもんだ~。俺はてっきり、逃げちまうっと思ったんだけどよぉ~」



「はっ、もう一回その腫れた頬に拳をかましてやるよ!」



「チッ」



 二人が睨め合っている中、二人の間に居た人物が両手を広げる。



「はい! いいですか! 魔法は禁止です。己の剣技のみで競い合って下さい。降伏、気絶をした方が負けです」

 審判は両者が剣を合わせ誓い終え。両者はある程度距離を取った。その様子を見終えた審判は一歩後ろに下がり合図を送る。

「..では! 始め!」



 その瞬間、周りから大きな応援が聞こえた。





 まず一気にスクラインはデラインに近づく。分かり切っていたがデラインはそんなスピードに目が追い付かず、いつの間にか目の前にスクライン居るという状況だ。

 鈍い音が響く。デラインはなぎ倒され床に血が付き、頬が赤く染まっていく。



「おいおいマジかよ..話になんね~な」

 倒れたデラインに呆れ顔のスクラインがゆっくりと近づく。

そしてデラインの背中に座る。

「おい。早く降伏した方が身の為だぞ~」

っと剣先でデラインの頬を突く。



 デラインは力を振り絞りスクラインを上から退かし反撃するが、攻撃は当たらなかった。



「ハハ、あっぶね!」

 挑発的な笑みをスクラインは浮かべる。







 剣をしっかり両手で持ち、デラインはスクラインに大声を出しながら走り立ち向かうがなぎ倒されてしまう。だが、デラインはもう一度立ち上がり立ち向かう。そしてまた、なぎ倒される。これを十数回繰り返し、周りからの声が聞こえなくなった。



 ボタボタと血が床に落ちる音が聞こえる。

「ハァ~~、どうした、さっきより威力が落ちてるぞ! 疲れたのか!」

自分ではすんなり言えてると思っているが、口の中の血が邪魔してあまり上手くデラインは喋れていなかった。



「....」

 スクラインは哀れんだ様子でデラインを見る。



「俺が怖いか!?」

 そう言いデラインはスクラインに向かって走る。最初の頃より走る速度は落ち、目が霞んで見える。



「..!」

 目の前まで来たデラインをまた同じ様になぎ倒そうとする。



 しかしデラインは剣を受け止め、血だらけの顔で不気味な笑顔をスクラインに見せる。



「なっ! おま....」



 驚いて固まっているスクラインの一瞬の隙を突き、デラインは顔面目掛け頭突きをする。

見事頭突きは命中するが、審判が近寄って来る。



「剣術のみ、と言うルールだ。君が今やったのは剣術では無い」



 静かにデラインは下を向き自身の負けが確定した事を理解し、悔しさや悲しい気持ちに襲われ、涙が出て傷口にしみる。





「いや....俺の負けだ」

 鼻を押さえながらスクラインが近づいてくる。



「いや、しかし彼は違反をし....」



 審判は戸惑っているがそんなの関係なしにスクラインはデラインもとに来ると手を取る。



「お前は立派な戦士だ。実力はまだまだだが、その勇敢さは凄い。..ここで謝罪させてくれ」

 手を離しスクラインは片膝を床につける。そして。

「すまなかった」



 その行動にデラインが呆気に取られると周りから歓声が上がった。







「やったー!!」

っと喜びルーナとエラは抱きしめ合った。



 ミラはフフっと軽く笑顔を見せた。



 ルーナはエラから離れデラインの方を見る。

「お兄ちゃん~!」

っと手を振るとデラインは力なくその場に倒れた。



「え!?」



 三人は心配し、今すぐにでもデラインのもとに駆け寄ろうとするが、ルーナは視線を感じた。



 視線の方を見ると、ほんの一瞬黒い手袋をした執事の人を見た気がした。デラインは二人に任せ、ルーナは申し訳ないけど執事の格好をした人物を追う事にした。

(もしかしたら....)

っと思い人混みを走り出す。

 最早この高鳴る鼓動を抑える事がルーナにはできなかったのだ。例えどんな人であろうとも..。

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