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討伐


 俺は草むらから様子を見ていた。
(あれがルベアか..三、四メートルぐらいありそうだな....。あのままだとあいつらは全滅するだろう)
っと思いながら見ていると、ルベアがルーナーに獲物を狩るようにゆっくり近づく。

 俺はルーナの目を見て考える。
(少し恐怖はあるが勇気の方が感じ取りやすい....。逃げるか、助けるか、迷うな....)
そんな事を考えていると、刻一刻と目の前時間は進んでいく。

 俺は逃げる事を選択し、最後にルーナを見た時黒い髪が目に入り、左手の小指が少し動く。
何処も似ていないのに、なぜか懐かしく感じる。
(..この世界に来てから黒髪の人は初めて..だったな....。フッ..もしかしたら彼女の幸せが、俺を満足させるかもしれない....)
俺は左小指を見た後に懐ふところから短剣を取り出し、ルベアの首の後ろ目掛け飛び出す。



 私は両手でしっかりと杖を持ち、魔獣を見続ける。
魔獣は無抵抗な私を不思議に思っていたが徐々に近づき、魔獣の攻撃範囲に入り右手のかぎ爪を私に向かって斜めに振る。その時にエラが私の名前を必死に呼ぶ声が聞こえた。

 私は顔を下に向け、目を瞑りただ皆が無事に生きて帰れるよう強く祈る。
 ......もうかぎ爪で胴体をちぎられてもおかしくない時間がすぎた。

「ウ゛ゥ゛ゥ゛....」
っと魔獣は小さく唸っていた。

私は両目をを少し開けて、顔をゆっくりと上げながら魔獣の方を見る。
「..え....」
 魔獣の首の後ろ辺りで座って黒い短剣を首の横つけて、まるで脅すかのようにオオハラさんが魔獣を静止させていた。

 私は驚愕し、焦りながらオオハラさんに声をかける。
「オオハラさん! その魔獣はルベアです! 早く逃げてください!」
そう言うと、オオハラさんは静かに私を見た。
 その時、魔獣の体が瞬時に動き出し、オオハラさんは魔獣の首から離れず短剣を首に刺した。
でも魔獣は怯まず、オオハラさんの短剣は首の皮膚に少し刺さった程度だった。


 魔獣は勢いよく首の辺りを木にぶつけようとしていた。
大原はその行動に気付き、魔獣の首から離れる為手を離し宙に浮いたとき、魔獣は体を百八十度旋回させかぎ爪を大原目掛けて振る。
 大原は短剣でかぎ爪を受け止めるが、魔獣の力が強くエラの方向に飛ばされ着地する。
着地した後手に激痛が走り、右手を見てみると手首の骨が折れて垂れ下がっており短剣が地面に落ちていた。
 大原は折れた手首をただ見つめていると、隣から動揺した声が聞こえた。
「あ....あんた、何で戦ってるの....逃げなよ!」

 大原は地面に女の子座りしてる絶望顔のエラを見る。
「エラさん、何かあいつの体を貫通できる魔法的なのはありますか?」
「え....? 無くはないけど..時間がかかるし....私..」
エラは自身無げに喋る。

「そうですか。では、自分が時間を稼ぐのでその間準備を..」
っと言い大原は左手に短剣を持ち歩き出す。

「は? ま、待って! あんた死ぬ気!?」
エラは魔獣に向かっていく大原の背を見る。

「頼みますよ」
っと言い大原は魔獣を攻撃する。


 エラは地面を見る。
(あの人は一体何なの!? ただの執事なのに..。それに今の私は弓を射る事の出来ない役立たずなのに、そんな急に頼みますよなんて、無理よ....)
そんなことを思い、隣に落ちている弓を見る。少しずつゆっくりと手を伸ばし弓を手に取る。
(....やってやるわよ....あんな執事に負けてられないし、皆を守る為にも..!)
 エラは手に力を入れ立つ。そして魔獣に向けて弓を構え狙いを定める。
徐々にエラの弓は光を纏っていくがかなり遅く、大原が押されていくのが目に見える。
早く早くっと焦り呼吸が乱れていると、後ろからエラの肩に手のひらを優しくポンっと置く人物がいた。

「エラさん! 深呼吸!」
っと言いルーナは笑顔を見せた。

「る、ルーナ! なんで....」
「さっきミラさんと兄さんは安全な場所に置いてきました! だから後は、魔獣を倒すだけです!」
「ルーナ....私....」
 エラは申し訳なさそうな顔をした。

「話は後でしましょ! 今は目の前の事に集中です!」
「うん....」
エラは頷き、ルーナの優しい顔を見た後再び魔獣を見て弓に力を入れると、ルーナの気力が流れてくるのを感じ、弓の光がかなり早く纏まっていく。
「..よし!」
 準備は整い魔獣の頭を狙うが、時間を稼いでいた大原の腹部に魔獣の強烈な体当たりが当たっり、近くの木に勢いよくぶつかる。

「オオハラさん!」
ルーナが心配な声を上げた時、魔獣はこちらに気付き頭を向け突撃してくる。

 エラは今がチャンスだと思い、弓を射ようと引っ張っている手を離そうっとするが離れなかった。
もし、失敗したら死ぬかも知れない。という不満と恐怖で身体が膠着こうちゃくしてしまっいた。
エラが少し震えていると、ルーナの手が弓を引っ張っているエラの手と重なるように一緒に引っ張る。
 エラは勇気を振り絞り「ふぅ」っと息を整え魔獣の頭を見る。だいたい五十メートルぐらいの場所まで近づいて来た魔獣に弓を放つ。
 魔獣は矢をかわそうとするが、かわす時間など無く頭に矢が貫通し意識が飛び、魔獣の走る勢いが強く、死んだままエラたちの方に突撃する。


 私は突っ込んでくる魔獣をかわそうとするが、エラが一歩も動かない。
私はエラを見るとどうやら気力を使い切っていて、足が動かなくなっていた。
「エラさん!」
っと言い私はエラさんを守るように抱きしめ、目をつぶる。

 ズサァァっと大きい生き物が体を引きずった音が聞こえた。
そして耳元に物静かな男の人の声が聞こえる。
「....大丈夫ですか?」

 私は目を開けると目の前にはオオハラさんがいた。
どうやらオオハラさんが助けてくれたらしく、私は頭だけをオオハラさんに支えられていた。
「は、はい!」
 私はなんだかこの状態が恥ずかしくなり、オオハラさんから少し離れ地面に座った。
座った時何かに触れ、触れた場所を見てみるとエラが地面に寝そべっていた。
 
「エラさん! 生きてる?」
っと言い私はエラさんの体を揺さぶる。
「......」
返事が無いので私は心配していると。

「大丈夫ですよ。ただ寝てるだけですから」
っとオオハラさんは立ち、微笑んで言う。

「はぁ~、よかった~」
 私は肩の力が抜け、オオハラさんにお礼を言おうとじっくり見ると傷だらけだった。
「うわ! オオハラさん今治療しますから座ってください!」
私は立ちオオハラさんの元に行く。

「いえ、このぐらい大丈夫ですよ」
っと言いオオハラさんは折れた右手首を見せた。

「全然大丈夫じゃあないですよ!」
私はオオハラさんの体に触れ地面に座らせ、魔法をかける。ゆっくりだが少しずつ治っていく。この時私は左手だけ無傷だったことに違和感があったが特に気しないことにした。
「う~ん、傷が深いところは街に戻った時に治した方が良さそうですね」
「わざわざありがとうございます」
「いえ! どっちかっていうと私達方が....」

 オオハラさんと話していると遠くの方から人の声が聞こえた。
「おーい! 誰かいるのかぁ~!?」
「はい! ここにけが人がいま~す!!」
森の中から人影見え私は手を振る。
(皆無事でよかった!)
私はそう思い、安堵の表情をした。



 俺は木の枝で固定された手首を見ていた。
(ふぅ、ひとまず死なずに済んだか....)
そんな事を思い、俺は周辺を見る。
 そこにはおそらく討伐隊らしき人物達が後処理している。俺は目的の物が無くて残念がっていると、ルベアを解体している一人の人が胃袋から謎の植物を出たっと言い、俺は期待を込め見に行く。
 
「う~ん、なんだべこの植物」
「あの~」
「おう! 兄ちゃんどした?」
「少しその植物を見せてぐださっても?」
「ああ! ほれ!」
っと言い男は大原にヌメヌメした植物を渡した。

 俺は植物と古紙を見比べる。
(これだ!!)

「すみません。これ貰ってもいいですか?」
「ん....まぁ、討伐したのはあんたらだから全然構わねぇ~けど、そんなの何に使うんだ?」
男は植物を渡し俺は受け取る。

「まぁ、何かに使います。では、ありがとうございます。」
っと言い俺はお辞儀をする。後ろを振り向き帰ろうとするが思い出す。
「あ! そうだ、彼らにこれを渡しておいて下さいますか?」
俺は男に金貨一枚渡す。

「うお! こんな大金....」
「後ついでにこう伝えてください。お疲れ様でした、またいつか会いましょうっと..」
「あいよ」
っと言い男は了解の合図を送った。

 俺はこれで仕事が終えたので、無傷の左手を見ながらサッサっと帰る。
(あ~疲れた)

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