376章 ホノカの心
ミサキの携帯電話の着信音が鳴った。
「もしもし・・・・・・」
シノブは電話から、切羽詰まった声を発する。
「急で申し訳ないのですが、これから出社してもらえないでしょうか?」
こちらの都合で、何度も欠勤している。罪滅ぼしのために、出社しようと思った。
「うん。すぐに行くね」
「無理をいってすみません。おなかの調子を満たしたら、すぐに来てください」
腹ペコ少女の必要エネルギーは、1日で20000キロカロリー以上。食べて、食べて、食べまくる必要がある。
身支度をしていると、眠っていたはずの女性に声をかけられた。
「ミサキちゃん、どこかに行くの?」
「うん。焼きそば店で仕事することになった」
ホノカは小さな声で、本音らしきものをつぶやく。
「私も仕事したい、誰かの役に立ちたい」
「シノブちゃんにお願いして、焼きそば店に戻ってみる?」
ホノカは首を横に振った。
「私は逃げるように、焼きそば店をやめたんだよ。シノブちゃんに頭を下げるなんで、完全にお門違いだよ」
シノブは自分のせいで、焼きそば店をやめたと思っている。二人の感情はすれ違いを起こしている。
ミサキは下を向いている女性に、そっと手を差し出す。
「私も頼んでみるから、一緒に働いていこう。ハードな時間帯は難しいなら、ゆったりとしたときにやればいいよ」
ミサキのいないときは、ゆったりまったりとしていることが多い。ホノカも問題なく仕事できると思われる。
「出社したときに、話をしておくね」
ホノカは小さく頷く。本当に戻っていいのかという、心ははっきりと感じ取れた。