371章 特徴のある人間 特徴のない人間
仕事を終えて、自宅に戻ってきた。
アヤメは睡眠を取り続け、仕事終了まで眠っていた。そのこともあって、他の客を膝枕することはなかった。
「アヤメちゃん、体は回復した?」
「まだまだといったところだよ」
「アヤメちゃん、体に鞭を打ちすぎだよ」
アヤメを見ていると、エマエマとかぶっている。彼女も仕事をやりすぎたために、長期休暇に追い込まれた。
「需要があるうちに、お金を稼いでおきたいの。10年後には世間から、見向きもされなくなる。1年後だって、どうなっているのかわからない」
人気はいつ落ちるかわからない。需要のあるうちに、たっぷりと稼ぐのは分かるような気がする。
「ミサキちゃん、布団を借りるね」
「いいよ。しっかりと休んでね」
アヤメは布団に向かった。足取りは危なかったものの、何とかたどり着くことができた。
おなかは空腹サインを発する。焼きそば30人前では、4時間くらいで空腹になる。
何を食べようかなと思っていると、部屋は真っ暗になった。
「ミサキさん、お久しぶりです」
「妖精さん、お久しぶりです」
「ミサキさん、体は問題ないですか?」
「はい。空腹以外は問題ありません」
「そうですか。たくさん食べて、おなかを満たしてくださいね」
ミサキは胸の中にある疑問をぶつける。
「1日20000キロカロリーと聞いていたけど、実際には違うような気がします。所要カロリーは本当に20000キロカロリーですか?」
「20000キロカロリーは、カロリーを消費しなかった場合です。運動などをすると、必要エネルギーは跳ね上がります。焼きそば店で仕事をするだけで、1日に30000~60000キロカロリーは必要ですね。移動を伴う仕事なら、100000キロカロリーくらいは必須です」
座っているだけの仕事で、10000~40000キロカロリーを消費する。驚愕の事実に、顎をあんぐりとさせてしまった。
「100000キロカロリーはどれくらいですか?」
「おにぎり一つで250キロカロリーなので、1日で400個必要ですね」
おにぎり400個を食べて、体重をキープできる。通常の人間では、絶対にありえないカロリーだ。
「消費カロリーを極端にしたのはどうしてですか?」
「人と同じでは、面白みのない人間です。他者と差別化することで、人気者になれるようにしました」
「私は普通でよかったです」
「普通だけの人生を送っている人は、子孫を残す、社会を維持するくらいしかできません。それ以外については、大きな人間的価値を持っていません」
物事を極端に切り取れば、そんなふうになってしまうのかな。一般人は何のために、人生を送っているのか。
「私はそろそろ失礼します」
妖精がいなくなった直後、室内は明るさを取り戻す。それにもかかわらず、心の中はとってもモヤモヤしていた。