ｋ－１３４
レスタの町へ来たのは、なんだか久しぶりな気がする。
サラサの店で厚手の毛皮のロングコートを仕入れた俺は、ユリナさんの隣りに座り蒸留酒を水割りで飲んでいた。
ちなみに水はユリナさんにプレゼントしたウォーターダガーで作ったものだ。
純度の高い清潔な水は貴重品なので、とても喜ばれた。
俺が作成できることは秘密なので、マルゴの店で買ったことにしてある。
彼女とのコミュニケーションはマルゴ、ジュノ、サラサと同様だ。
言葉が通じないのが逆に良い。自己中心的な俺でいても、少なくとも言葉で相手を不快にさせる心配がない。
酒を飲むとどんな人間でも大抵は強気になって、不用意な発言をしてしまうことが多いから。
だから気の置けない親友ならまだしも、初めましての相手と酒を飲むのは昔から苦手だった。
だがこちらの世界は言葉が通じない。ゆえに、気兼ねなく飲める。最高だ。
むしろ言葉の理解など不要だとすら思えてきたな。
そして雰囲気だけで相手の喜怒哀楽を感じることができる。
ユリナさんは、非常にオットリとした方のように見える。
怒りや悲しみという感情を、俺はまだ見たことがない。
……怒りという感情ならまだしも、彼女が悲しんでいる姿は見たくないな。
日本語を書いた文字を鑑定すれば、ランカスタ語に変換できるので筆談は可能だ。
だが、書くという行為は意外に面倒だ。
筆談は、会話やジェスチャーをする中で、どうしてもわからなかったら聞く程度にしか使わない。
さっきから実際に軽くジェスチャー混じりで会話をしているのだが、細かい部分がわからない。
でもそれが逆に良い。
お互い、酔った勢いの発言で相手を傷つけることがない。
話していて楽で楽で仕方がない。
なんだろう。
俺はお酒をゆっくりとした手つきでつくるユリナさんの横顔を見つめる。
不意に俺は、昨日小屋で暖炉に温まったのと同様の感覚を覚える。
それと同時に、過剰なボディタッチをするこの異世界の飲み屋で働くユリナさんが、他の男に何かされてやしないかと思いモヤモヤした。
俺はこのときの気持ちを、言葉に表現することはできなかった。
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