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【第十四話】魔王、聖剣と念話する。




 光が収束すると、すっぽりと抜けた剣が、リザリアの手に収まっていた。御礼拝の全員が目を見開いている。すると柄の部分にあった瞼がぱっちりと開き、眼球が一つ現れた。きょろきょろとその瞳が動き、聖剣の瞳がリザリアを捉える。

「お前、勇者か? いいや、違う。分かったぞ、我には分かったぞ! 勇者の子孫だな! 名前は?」
「――確かに私の生まれたナイトレル公爵家は、魔王を封印した勇者の末裔ですわ」

 頷きつつも、リザリアは困惑した顔をしている。

「け、剣が喋ってる……」

 シリル殿下が目をぱちぱちとさせている。アゼラーダとルゼラも驚愕している様子だ。
 間違いなくこの気配にこの声は、勇者が所持していた、聖剣ルードヴィッヒだ……。俺は何度か勇者と、聖剣と魔槍で勝負した事があるから、よくこの気配を知っている。あんでこんなところに聖剣があるんだ……? 俺は後退り、顔を必死に背ける。聖剣ルードヴィッヒもまた、俺の顔を知っているからだ。魔王バレしたくない。また封印されたりしたら、困る!

「あ」

 しかしきょろきょろと瞳を動かした聖剣は、俺の方を見ると声を上げた。魔力で風を揺らして、人間の声に聞こえるようにしてるのだと分かる。

 ――マズイ。完全に気づかれた。

 さぁっと俺の顔からは血の気が失せ、蒼褪めた自信がある。

「お前! お前がいるということは……ラッツフェリーゼちゃんもいるのか!? 一緒じゃないのか!?」

 その時、聖剣の声が大きくなった。ラッツフェリーゼは俺の愛用している魔槍の名前だ。そこで俺は思い出した。魔槍(女)とこの聖剣(男)は、武器ながらに、敵陣営でもあったが、確か熱愛状態にあったのではなかったか? もしかして、これは切り抜けるチャンスかもしれない。そう考えて、俺は声には出さず、聖剣に念話で話しかけてみた。

『ねぇ、あのさ。ラッツフェリーゼをここに喚びだして、君に会わせると約束するから、俺の事、黙っててくれない?』
『会いたい! すぐに会わせろ! 会わせてくれ! それにしてもお前の事? 魔王だと黙っていればいいのか?』
『うん。それ、黙ってて? 誓って?』
『よかろう。それよりも早くラッツフェリーゼちゃんに会わせろ!!』

 こうしてなんとか交渉は成立し、俺はホッと吐息してから、脳裏に魔法陣を刻んで、右手に魔槍ラッツフェリーゼを召喚した。

「ラッツフェリーゼちゃん!」

 その場に聖剣の嬉しそうな明るい声が響き渡る。すると赤い唇を、ラッツフェリーゼが開けた。

「ルートヴィッヒ! 会いたかったわ!」
「我も我も!」

 なんだかその場に、感動の再会というような空気が溢れた。

「今も変わらず、我はラッツフェリーゼちゃんを愛している!」
「わ、私も! 嬉しい……」

 ラッツフェリーゼの声には、涙が混じっているように聞こえる。恐らく嬉し泣きをしている状態なのだろう。一方のルートヴィッヒの声は力強く明るい。その後二人は、うっとりとしたような声音で、互いに愛の言葉を囁きあっていた。俺はなんとも言えない気分でそれを眺めていた。だがどうでもいいと思っているのは俺だけらしく、二つの武器のやりとりを聞いていた俺以外のメンバー達は、次第に瞳を輝かせ始めた。皆、羨ましそうに聖剣と魔槍を見ている。目がキラキラしている。

「純愛ですわね」
「いいなぁ、俺もこんな熱い恋、憧れる」

 リザリアとシリル殿下がそう言うと、アゼラーダとルゼラも頷いていた。俺は、全然興味がない。そうして暫くその場を見守りながら、俺達は座って休息をしていた。俺は魔槍を宙に浮かべてお茶を飲む。聖剣はリザリアが抱えていた。

 感動の再会が落ち着いたのは、一時間ほどしてからの事で、俺は出口を見た。もうそろそろスタンプラリーに戻った方がいいと思うし、惚気をこれ以上聞いていたいとも思わない。

「そろそろ行こうよ」

 俺の提案に、逡巡した様子を見せてから、リザリアが頷いた。

「そうですわね。では、元の場所に」

 こうしてリザリアが土に歩み寄ったのだが、刺さる様子がない。それはそうだろうと思う。偶発的とはいえ、リザリアは剣に施されていた封印を解いたのだから。勇者の力で封印を再度行わなければ無理だろうが、リザリアに勇者の全知識があるとは思えない。

「俺がやってみようか?」

 シリル殿下の声に、リザリアが頷いて剣を渡そうとした。

「あ、重っ!? 無理、俺はこれ、持てない!」
「え? ほとんど重さは感じませんよ?」
「リザリアって見た目は細いのに、ゴリラか何かなのか?」
「はい? どういう意味ですの?」
「悪い失言だった」

 その後、アゼラーダとルゼラも持てるか試したが、誰も持てなかった。それはそうだろう、実際に重いわけではなくて、これは勇者の魔力色にあわせて作られた魔導武器であるから、魔力色が近いか一致していなければ、魔力色同士が反発しあって重く感じるだけなのだから。即ち、リザリアにしか、この聖剣は、この場にいる人間は持てない。リザリアが俺を見たが、俺は知らんぷりで視線を逸らし、魔槍を亜空間に還した。

 この魔槍も、俺の魔力色にあわせて作ったものだ。本来、魔導武器とは一人一人にあわせたオーダーメイドが基本なのである。ただこの時代においては、汎用で誰にでも使える魔導武器が主流になっているらしいから、その分威力は低下しているみたいだ。広く魔導武器が使えるようになったとはいえ、やはり俺は個々人が専用の魔導武器を持つ方が、正解だと思っている。

「仕方がありませんわね……私が持っていきますわ」
「おう。我を大切にしろよ!」

 こうしてリザリアが聖剣を持っていく事になり、俺達の休息も終わった。
 その後スタンプラリーを再会した俺達は、なんとかカードを埋めきって、ゴールへと向かった。結果、俺達の班は全体で二着であり、景品として王都遊園地の一日入場券を貰ったのだった。王都遊園地は、数年前に、王都郊外に作られたテーマパークで、様々なアトラクションが存在していて、中ではサーカスなども見る事が出来る。鏡の迷宮なども楽しいという話を、俺はこの肉体の幼少時に聞いた記憶があった。魔王の時代には遊園地などというものは存在しなかったから、胸が躍る。楽しみだなぁと考えながら、同時に俺は、一番ではないが結構よい順位だった事にも、嬉しくなったのだった。



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