回想
「え?」
「この村はもう助からん」
「そんなっ!」
思わず師匠にしがみつく。
伝染病により食べることもままならない師匠の体はやせ細っていた。
しがみつくまで俺は、気づかなかった。
師匠はすでに、病にかかっていたことを
その辛さを誰にも見せることなく、一人で戦っていたことを
「だから、世界を見てこい」
「世界を・・・?」
「今までお前には、知らぬものなどないと言ってきたが・・・。俺にも知らないものがある」
自分の体にしがみついている子供の頭をなでる。
「それは、お前の可能性だ」
「可能性・・・」
「俺のことは気にするな。自分の力でどうとでもなる!だって俺は、お前の師匠だからな!はっはっは!」
声高らかに笑いだす師匠を見て、思わずぽかんとする。
でも、こんな時でもいつも通りの様子の師匠を見て、俺は思わず笑顔を浮かべていた。
「なんだよ、それっ!」
「はっはっはっ!俺は知らぬことのない男だからな。たかが病など、自分で治せるさ」
「・・・ああ、師匠みたいな男になって、俺、ここに帰って来るよ」
「ああ、約束だ」
そう微笑む師匠は、二日後に亡くなった。
とうとう一人になった寂しさに目をぼやけさせながらも俺は、師匠の遺体を弔い、翌朝村を出た。
「母さん、父さん、師匠、行ってきます・・・!」
そうして俺は、まだ見ぬ世界へと、足を踏み入れた。